A元総理暗殺 <フィクション>

こちらは事実に基づいたフィクションです。



参院選を間も無く迎える金曜日、驚くニュースが流れてきた。

A元総理暗殺

首相退任後、精力的に動いてきた氏は、今回の参院選でも全国を駆け回ってきた。
この地域での駅前街頭演説は、急遽変更で決まった。
急だったので、地方にありがちな大観衆の前ではなかった。

駅前ロータリーの中央のガードレールに囲まれた場所での演説。
普段に比べればたくさんの人が集まってきた。

やはり、話で人を惹きつける。すぐに聴衆の耳目はその場の元総理に釘付けだった。


ドン

ドン

元総理は倒れた。昼下がりの事件に周囲の人たちが動揺した。
夕方、運ばれた大学病院で亡くなったことが発表された。


ニュースは今回の事件で持ちきりだ。
参院選にも
今後の国政にも
影響は避けられない。



元総理夫人が大学病院に着いたのは死亡が発表された後だった。

セキュリティの先の一室に入る。

「お疲れ様でした」
夫人が元総理に声をかける。

そこには死んだと報道されたA氏が生きた姿でいた。
「決まっていたこととはいえ、辛いな」
定められた運命を飲み込んだ男の顔がそこにはあった。

「これでお別れですね」
「全く。これで最後だな。」

二人は窓から見える青空を見上げる。


一晩大学病院で過ごした後、早速関西国際空港へ。
今まではずっと護衛の車を何台も引き連れて移動してきたが、
この日からは車一台の移動。報道陣は見えるが、まさかこの車に元総理に乗っているとは思ってもいないだろう。

次の準備を進めた。

空港の別入口から入ると、ここからの段取りについて話をした。
時間にして5分ほど、余韻に浸る時間もなかった。

しばらく飛行機に乗り、とある空港へ降りる。
もちろん人目につかないところでひっそりと行われた。

そこには、長くヨーロッパのある国で首相をしていたM氏が当時と変わらぬ柔和でかつ威厳のある笑顔で佇んでいた。

「Mさん、しばらくでした。お元気そうですね。」

「Mr.A、報道は見ていました。今度はこういう形でお会いできるなんて、これはこれでうれしい限りです。」

「二人でかの国へ行くのもウソみたいですね。」

「東西冷戦終結の最後の仕事は私たちの手で行うことは避けられぬ宿命です。あなたのおじいさまもかの国で働いていました。これから人類の新しい扉を開くのです。」

「T教会の本質は誰も知られずに
 私たちの動きも外には知らされずに・・・」

「私たちは表で十分仕事をしたのですからいいのですよ。
 あなたは国葬になる動きまでありますね。」

「どうなりますかね。
 死人に口なし、と日本ではいうのですがね。」

張り詰めた空気に一瞬の笑いが起こる。しかし、今までと違う経験に二人とも肩の緊張は拭えない。

AしがM氏に尋ねる。
「あの人はどういう人ですか?」

「役者です。ハリウッドでも成功できるほど。」

「やはりそうですか。お父様もそうでしたからね。」


世界中に異常気象をもたらしながら、パンデミックや戦争の暗いニュースを新聞で読みながら、目的地へ向かう。

その一刹那、飛行機から虹がかかった。

「天が祝福していますよ。」
「そうね。たとえ、それがお隣の大国・S氏の計らいとわかっていてもうれしいわ。」
「この美しい光景のようになりますね。」

二人の顔が引き締まった。

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