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【短編小説・シリーズ】セラセラハウス

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ある都市、ある街のありふれたマンション「セラセラハウス」。そこに住んでいる住民24人の話をお届けします。シリーズですが、一話ずつ完結なので、どこから読んでも大丈夫です!
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2021年2月の記事一覧

【短編小説シリーズ】セラセラハウス 105号室:好雨

105号室 好雨 ポツンポツンと雨が降り始めた。居月涼介はカッパを取り出そうかと迷ったが、もうすぐ着きそうでそのままペダルを漕いだ。23時を過ぎた住宅街には人影もなく、雨音だけが静かに道を叩いていた。配達用のバックが濡れる前に届けないと。自転車を漕ぐ涼介の足に力が入った。 涼介は目的地に着いて、もう一度マンション名を確認した。そう言えば、先通り過ぎる時見たら、近くの駅前にも同じチェーン店があったのに、なぜ隣駅のチェーン店に注文したのかよく分からなかった。まあ、涼介とは関係

【短編小説シリーズ】セラセラハウス 104号室:お見合い

104号室 お見合い 鏡の中にスーツ姿の中年男性が立っている。紺色のスーツにグレーのストライプ柄のネクタイまでつけている。身体は54歳の割にすらっとしている。お腹も出ていない。どちらかというと、細身でしっかりと筋肉がついている方だ。それは、仕事柄、30年以上肉体労働を続けているからでもある。今着ているスーツも10年前のものだが、滅多に着る機会がないので新品のような状態だった。10年前と体格が変わっていないことに、平石正人はほっとした。 しかし、顔だけは10年分肌が黒くなっ

【短編小説シリーズ】セラセラハウス 103号室:BREEZE * FREEZE

103号室 BREEZE * FREEZE あの人から電話がかかってきた。電話というより、メッセンジャーからの通話だった。そういえば、未だに彼の電話番号も知らない。大塚有海は今更そのことに気が付いた。 『何してるの?』 ちょうど帰宅して玄関のドアを閉めるところだった。入って右側にある姿見鏡の中に映っている有海は濡れていた。冬の雨は寂しい。心の中で独り言を言いながら、今日は初雪が降ると、声を弾ませて天気予報を伝えていたお天気お姉さんの言葉を思い出した。コートから雨粒がぱら