シャルトルへ行きました。③

三、リプレイ。出発前の羽田空港支店にて。

 出社すると、いつものようにロッカールームで制服に着替え客室部に入った。時計をみるとブリーフィング開始までまだ三十分以上ある。そこで休憩室でコーヒーを飲むことにした。自販機のカフェラテは名ばかりの甘ったるい液体なのだが、実は私、これが嫌いではない。
「あちち」
紙コップを一旦カウンターに置き、なんとなく会社から貸与されているタブレットをバッグから取り出した。考えなしに保安ページをクリックした。そのあとサービス関連のページに行き、機内食のメニューを再度確認した。もうすでに来るまでの京急線の中で見たばかりだ。新しい情報などあるはずなかった。
 だからそこで閉じればよかったのだ。それなのに社内報ページを開いた。今月号を見ていなかったかも、と思ったのだ。ようやく冷めたカフェラテを啜りながら、フライトタイム二万時間達成した先輩CAのインタビューや「支店便り」を斜め読みした。そしてまた「なんとなく」結婚・出産タブをクリックした。すると、『ご成婚』欄に、
「仲野孝一(ワン・アライアンス部)、兄川慶子(同部) 」
とあった。考えるよりも先に、手が動き、社内ネットで新婦の名前をサーチした。するとなんと元CAだったことが分かった。十期近く下の「兄川、兄川ーー」と記憶の糸を手繰ると、その物静かで地味な容姿もおぼろげながら思い出された。いつ総合職転換したのだろう。仲野とは何処で? 機内? 合コン? 
 どのくらいの間、『ご成婚』欄を見つめていただろうか。気づくと、紙コップのへりが口紅で染まっていた。

つづく

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