サンタモニカに行きました。①

つらいときは逃げるが勝ち

 風が好きだ。五月のそよ風も、冬の北風も、夏のストーブを開けたときのような熱風ですら、好きだ。肌で、耳で風を感じると、何故だかほっとする。
 フライト前のブリーフィングで、
「本日の便は偏西風の影響で定刻より早く現地に着く予定です」
と聞くと、「行け行け、飛べ飛べ!」と心の中で煽ってしまう。乱気流は御免だが追い風は心が躍る。
「かおちゃん、そんなに『風好き』ならCAは適職だね。いつも風に乗っているようなものだもんな」
と昔馴染みのパイロットは言う。彼らはそうなのだろう。風を読み、操縦するのが仕事だ。それにコックピットは大きな窓に囲まれている。風も間近に感じるに違いない。
 だが客室は違う。笛の穴のような窓が並ぶだけだ。気圧、摩擦熱、気温差ーー飛行機というものは、外界から守るために、壁は厚く、窓は小さく作られているのだ。
 二十年余りの間、このぶ厚い壁に守られながら働いてきた。だが最近は自問している。本当に守られてきたのだろうか、実は閉じ込められていたのではないか、と。

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