サンタモニカに行きました。⑨

旅のフィナーレ

 最終日は、「せめて、これだけは私にさせて」と、浩美一家をディズニーランドに招待した。ある晩の浩美達と子ども達との会話から、どうやら長いことディズニーランドに連れて行く約束を交わしているのに、実現されていないことを知った。浩美と孫は、最終日の土曜はかおりをどこかに案内するつもりでいたようだった。それならば、と思いついたわけだ。
 ゲートをくぐると、早速ミッキーとミニーが歓迎してくれる。子ども達は走り寄って、握手を求めている。その情景にかおりの心も弾んだ。テーマパークなど普段は興味がないというのに、さすがディズニーだ。カルフォルニアン・ブリーズが涼しくそよぎ、パーク内は広々としていて、訪れる人々も鷹揚な印象を受けた。
 浩美の息子、俊男と優仁はかおりの両脇を固め、「あれに乗ろう!」「これ、食べたい」とジグザグに引っ張る。後方で孫と浩美は腕を組み、恋人同志のようだ。それを見て、かおりは思いついた。
「もしよかったら、子ども達は私が見るから、たまにはお二人でご自由にして」
と提案すると、孫と浩美は初め躊躇っていたが、
「では、そうさせてもらっちゃおうかな。ありがとう」
と、このアイデアに乗ってくれた。お互いの携帯の番号を確認し、待ち合わせ場所を決め、二手に分かれる。子ども達はダッドとマムがいないと嫌がるかと思いきや、
「カオリ、レッツゴー!」
と、手を引いて走り出した。
 東京ディズニーと違い、どのアトラクションもすぐに順番が来る。休む間もない。ホウンテッド・マンションでは鳥肌を立て、アリスのティーパーティでは目を回し、インクレディコースターでは絶叫する。そんなわたしを俊男、優仁が大笑いしては写真に収め、次のアトラクションへ引っ張って行った。
 最後の乗り物、「ピーターパンの空の旅」を終え外に出ると、既に黄昏時となっていた。先ほどまでからっと晴れて、原色鮮やかに輝いていた子どもの国が、今はひんやりとした蒼い影に包まれている。風が吹くたびに爽やかな夜の湿気とオレンジの樹の匂いが漂う。
 俊男はわたしの手を握ったまま、
「キョウ、タノシカッタ。アリガトウ」
と、ちょっとぎこちない日本語で言う。優仁もお土産ショップで買った、棒の形をしたキャンディーを振り回しながら、
「Yeah, thank you Kaori」
と相槌を打つ。
 一瞬、胸がいっぱいで言葉が出てこなかった。こんなに愉しい時を過ごしたのは、いつ以来だろう。そう思いながらは、俊男と優仁を見つめる。二人が先ほどのピーターパン、いや、魔法の杖を持ったミッキーマウスのように思える。
「私もとっても楽しかった。二人ともエスコートしてくれてありがとう。さ、夕飯、何食べようか。ごちそうするわよ」
と言うと二人とも「Wow !」と飛び上がった。そして浩美と孫の姿を見つけ、駆け出していった。

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