シャンプー

真っ暗な部屋で横たわる私は、髪から漂うシャンプーの匂いで深呼吸をしている。どこにでも売ってるシャンプーの香りは、安っぽいのに安心できるような心地にさせてくる。簡単に安心を手に入れられるようになったら、死んだようなもの。
カーテンの隙間から漏れ出す夜、夜、夜。初恋のことを思い出す。初恋はいつだって夜だった。もう顔も思い出せないあの人は、夜がとても似合う人だった。嘘つき、そんな人は存在しない。

夜が似合う人はリアリティがないな。
夜に愛された人を愛したいという祈り。

もう寝る時間だよ、と誰かが誰かの頬にキスをしている瞬間、私は読みかけの本をぱたりと閉じた。愛について書かれている文字の波、その中に私の欲しい愛は見つからなくて、悔しさが喉に焼き付いた。不味い。腐りきった愛を嚥み下して、咳をする。愛が崇高なものとして扱われるのが許せない。愛ってもっと、汚くて、無傷ではいられなくて、常にどこかで血が流れているものであるはずなんです。愛vs人間で、人間が勝ったという報告はまだない。

愛されないことで安心する君は普通だ。
愛されたいと思う君も普通だ。
愛は暴力だ。人は無力だと笑いたくはないな。

絶望を感じるのは、とてもお手軽な娯楽です。暗い部屋に引き摺り戻される。私は、誰にも知られないまま、死んでゆくのだと、確信している。その確信は氷が背を伝っていくように、私を追い詰める。微睡の中で、見た夢が思い出せなくて、絶望の色が濃くなっていくのをただ眺めていた。希望を持つから絶望を抱くのなら、なんて人間はいじらしいんだろうか。青い春のような、絶望との逢瀬。
天井に手を伸ばす。仄かな月明かりが私の上を浮遊していて、両手を広げ、飛んだ。

絶望って言葉を消費してるよね
絶望がなにかなんて分からないくせに

希望が絶望を飲み込む日、それが君の命日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?