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お気に入りの場所(エッセイ)
燃えるような夕陽だった。
マンションの非常階段を駆け上がる。
乗り出した先には、混みあったビルのむこうに
今日の太陽が沈んでいっている。
太陽は雲に隠れているが、照らされた雲は燃えるよう。
マンションの前の空き地にはこの時間になると、
おきまりのようにいつも同じ猫が過ぎ行く時間を楽しむように寝転がっている。
白と黒のぶち柄の猫。遠く、夕日を眺めるように。
あいつもわたしと一緒なのかな。
夕暮れの空には薄桃色の雲が広がっているが、さらに見上げるとつながる空は、透き通るようにはてしなく青く、高い。
青が紺に、紺が藍に変わって行く向こうに、夜が待っている。
暮れなずむ街を横切って、新幹線が帰路へと急いでいく。
昼でもなく、夜でもない。あちこちで光が灯りだす。
いつもはそっけない東京が、ちょっとだけみせてくる優しい顔。
やっと見つけたお気に入りの景色。
猫とわたしだけが知っている、秘密の場所。
天よ、今日をありがとう。
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