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中学生の私が、深夜に家を抜け出し、彼氏と密会してた話

今からずいぶん昔の話。
中学2年生の私には彼氏がいた。
同級生の彼氏だ。

はじまりはと言うと、私の方が彼を好きになり、友達づてに仲良くなった。当時はスマホもLINEもなく、私たちはノートの端切れに絵やメッセージを書き、小さく折りたたんで交換したりしていた。次第に両想いになり、「つきあう」ことになった。

私と彼は、よく深夜に電話で話をした。今では考えられないが、彼が家に電話をかけてくるのだ。親にはめちゃくちゃ嫌な顔をされるので、親機は鳴らない設定にし、いつも子機を部屋に持ち込んでいた。これで親にばれずに電話をすることができる。

ほぼ毎日、朝4時頃まで電話をしていたので、いつも寝不足だった。学校では恥ずかしくて目も合わせられず、まともに会話もできないのに。


だが、ある時から、私たちは一線を越え始めた。
きっかけとなったのは、ある秋の夜だ。

その日、私たちは、相も変わらず深夜の電話を楽しんでいたのだが、どちらかがふと「直接会って話したいね」と言い出し、「じゃあ、これから会おう」という話になった。午前1時ごろのことだ。もちろん、次の日は学校がある。

私の家庭は、中学生が午後9時を過ぎて外出すれば、もう二度と家に入れてもらえないような雰囲気の家だった。健全ではある。

午前1時に外出、しかも彼氏に会いに行くだなんて、もし親にバレたら市中引き回しの上、首をはねられるだろう。情状酌量の余地などない。だが、生まれて初めて感じる強烈な背徳感とスリルに、私はこのうえなくワクワクしていた。

闇に紛れることができるように上下に黒いジャージを着て、千円札二枚とiPodをポケットに忍ばせ、忍者のように家の裏口(台所)から抜け出した。ヌキ足サシ足シノビ足で歩いたが、廊下や階段がキシキシと音を立て、冷や汗が出た。幸いなことに両親が目を覚ました様子はなかった。

集合場所は中学校の校門前、集合時間は午前1時40分だ。全身黒づくめの私は中学校に向かって全力で走った。ときどきパトカーが通るのが見えると、さっと暗がりに身を隠した。よしよし、とほくそ笑んだ。

私の地元は見事に田舎なので、街灯もなく、夜道は真っ暗だ。あたりはしんと静まり返っている。どこかの家で飼われている犬に吠えられ、心臓が口から出そうになる。イッヌよ、マジでやめてくれ。

中学校の校門前に到着したのは午前1時35分で、彼はまだ来ていなかったが、数分後に、自転車に乗って現れた。自転車を停めて「遅くなってごめん」と駆け寄ってくる彼の髪からシャンプーの匂いがふわっと香り、心臓がドキドキした。

幼い中学生の二人は、学校の駐車場に腰をかけ、部活の話だの、テレビの話だのをしばらく話し込んだ。なんて楽しい時間なんだろう。時計が午前2時30分を指す頃に、近くのコンビニに行き、ポケットに忍ばせておいた千円札でお菓子とリプトンを購入した。田舎の中学生は、リプトンが好きだ。

コンビニを出た後、私たちは買ったお菓子を食べながら、あてもなく散歩をした。寒空の下でリプトンを飲んだせいか、身体が末端まで冷えてしまい、彼が手を暖めてくれた(ハア、若いっていいなァ)。

スリル満載の密会を楽しんだのも束の間、私たちは解散することにした。iPodの時計は午前4時を示している。大人たちが目を覚ます前に布団に戻らなければならない。見つかったら殺される。即死刑だ。

またね、と別れを告げて、私たちはそれぞれの家に急いだ。うちの父は起きるのがめちゃくちゃ早い。「早起きは三文の徳」だとかなんだとか言って早起きをしているが、三文の徳を得られるような活動をしている姿は一度も見たことがない。朝早くにやっているローカルテレビの「釣りチャンネル」をみるくらいが関の山だ。

家に着くと、家は真っ暗で、まだ誰も起きていないようだった。ほっと胸をなでおろして、再び裏口から家に忍び込み、こっそり自分の布団に入った。2時間ほど寝て、学校に行った。

この日の出来事を境に、私たちは頻繁に深夜に密会するようになった。

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