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短編小説 「何度でも拾う」


ミヤモリは、灰色のスーツに身を包んだ、平凡なサラリーマンで、一つ特別なことがあった。それは財布を非常によく失くす癖だった。しかも、この不運な出来事は、どういうわけか、美人に限って拾われる。電車の青い座席、スーパーの明るく照らされたフルーツコーナー、バスのふわふわとした後ろ座席で失くし、彼の財布は一貫して美人によって戻ってきた。

ファミレスの隅。午後の太陽が窓ガラスを透過し、優しくミヤモリの顔を照らしていた。そこへ、ショートカットの髪にシンプルな黒のワンピースを着た女性が近づいてきた。その女性、マナミは、銀色の財布を手に持ち、微笑みながら言った。

「またあなたの財布ですよね?」声には控えめな驚きと楽しげな調子が混ざっていた。

マナミは彼が以前にも失くした財布を拾ってくれた女性だった。目が合った瞬間、ミヤモリの視線はどうしようもなくテーブル隅の塩に。

「ええと、ありがとうございます…」ミヤモリの声はか細く、言葉はどうにか喉から絞り出された。

マナミが微笑みながら言った。

「何回目ですか、財布を無くすのは?」マナミの微笑みは太陽よりも明るく、その瞬間、ミヤモリの口が少し上がった。

「か、数え切れないです…」ミヤモリは素直に答えたが、その声は震えていた。

「あなた、実はモテたいからわざと財布を無くしてるんじゃない?」マナミはクスッと笑う。その笑顔がミヤモリの口を下げ、唇を隠した。

「そんな、とんでもない!」ミヤモリは必死に否定する。しかしその顔は汗でびっしょりと濡れていた。

マナミの表情がふと真剣に変わる。

「わざとじゃなくても、何か意味があるかもしれないよ」彼女の瞳は深い青に変わった。

ミヤモリは、この瞬間、何か特別なものを感じた。それは怪しみや疑念ではなく、真の好意。心のどこかで、自分がこれまで感じたことのない種類の温かさを感じたのだ。

「もし、また財布を無くしたら、また、君に拾って欲しい」ミヤモリの言葉は照れくさく、少しずつ顔が赤くなっていく。

マナミは顔に微笑みを広げた。

「いいですよ。何度でも拾いますよ」軽く笑いながら言った。その笑顔はの空に反射する太陽のように、彼女自身の内なる温かさと明るさを放っていた。

そして、ミヤモリは椅子を引いて立ち上がり、会計へ向かった。ズボンのポケットに手を突っ込んで会計を済ませようとした、その瞬間、彼の手が空を掴んだ。

その瞬間、マナミが優雅に椅子の下に手を伸ばし、何かを拾い上げた。ミヤモリの顔が赤くなる中、マナミは銀色の財布を彼に渡した。

「早速ですか?」マナミは笑いながら言った。

ミヤモリは微笑んで答えた。

「ありがとうございます…」

マナミは財布を渡しながら、ふと真剣な表情になった。

「次も拾いますから、心配しないでください」




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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