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短編小説 「くすねた銅貨」



町で一番の豪華な屋敷に住むのは、主人のダラス、その美しい妻アイリス、そして長男のミダの三人家族だ。ある夏の夕暮れ、ダラスの旧友アレクが訪れた。彼の来訪を祝って、盛大な夕食が用意され、家族はダイニングルームに集まっていた。

「ダラス、このローストは絶品だね」とアレクが微笑みながら言った。

「ありがとう。アイリスが腕を振るってくれたんだ」とダラスが誇らしげに答えた。

その時、アレクの視線がアイリスの背後にあるドアの隙間に釘付けになった。そこに、暗闇の中から見開いた目がこちらを見つめているのが見えた。

「アイリス、後ろのドア……何かいるよ」とアレクは注意を促した。アイリスが振り向きドアを開けると、そこには誰もいなかった。部屋は静寂に包まれ、ただ冷たい空気が流れていた。

「気のせいじゃない?」とアイリスが微笑んだ。

その夜十二時、アレクはトイレに向かった。廊下を歩いていると、青白い顔の子供が一瞬横切るのが見えた。アレクは瞬きをしたが、子供の姿は消えていた。長男のミダのいたずらかもしれないと思い、アレクは後を追ったが、行き止まりの廊下には誰もいなかった。

次の夜も同じ時間に、アレクは同じ青白い顔の子供を目撃した。子供は隣の部屋にすり抜けるように入っていった。アレクはドアを開け、部屋を探したが、誰もいなかった。

「ダラス、この屋敷に何かいるよ」と翌朝アレクは訴えた。

「何を言ってるんだ、アレク。ここには俺たち家族だけだ」とダラスは首をかしげた。

夜の十二時が近づくと、アレクは再び青白い顔の子供を目撃した。今度は部屋の中でその時間が来るのを待ち、子供の行動を見守った。子供は静かに部屋に入り、床を引っ掻いていた。アレクは驚いてその場に駆け寄ったが、子供の姿は消えてしまった。

翌朝、アレクはアイリスにその出来事を話した。「アイリス、昨夜もまたあの子供を見たんだ。彼は床を引っ掻いていたんだ」

アイリスの表情が一瞬曇ったが、すぐに冷静な顔に戻った。「あの子供は私たちの屋敷に盗みに入った子よ」と彼女は静かに言った。

「盗みに入った?」アレクは驚いた。

「そう、数年前の話。あの子供は貧しくて、何かを盗もうとしてこの屋敷に忍び込んだ。でも逃げられなくて……結局、三枚の銅貨を握りしめてここで命を落としたの」

アレクは言葉を失った。その青白い顔の子供は、永遠にこの屋敷に囚われているのだろう。彼の魂は未だに安らぎを得られず、床を引っ掻いているのだと感じた。

その日、アレクは屋敷を後にしたが、心の中には深い悲しみと恐怖が残った。ダラスとアイリスは静かに彼を見送った。彼らの屋敷は、過去の暗い影を宿したまま、今日も変わらず存在していた。




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