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【短編小説】白秋

白い。白い。白くて、秋。秋なのに、白い。

時計が13時を指す。ありえない。でも、白いから。

彼は歩く。歩く。歩く。足が逆さまに生えている。でも歩ける。白いから。

空から銀杏が降る。黄色いはずなのに白い。口を開けると、銀杏が舌の上で踊る。味は塩辛い。歯が溶ける。白いから。

「おーい」声が聞こえる。振り返ると、後ろが前で、前が後ろ。声の主は自分自身。鏡はどこにもない。白いから。

風が吹く。風に乗って漢字が舞う。「秋」「白」「夢」「嘘」「猫」「自転車」 漢字が融合する。「白猫」が「自転秋」に変わる。意味不明。でも、白いから。

木の葉が落ちる。落ちた葉が空に舞い上がる。重力が逆さま。でも誰も驚かない。白いから。

雲が地面を歩く。人々が空を泳ぐ。魚が道路を走る。全て普通。白いから。

彼は叫ぶ。「私は誰だ?」 答えが返ってくる。「君は白秋。秋なのに白い君」

彼は笑う。笑うと、花が咲く。口から、耳から、目から。花は全て白い。当然。白いから。

突然、世界が逆さまになる。 上が下に。 右が左に。 過去が未来に。 白が黒に。

いや、違う。 白は依然として白いまま。

彼は目覚める。夢から覚めたはずなのに、世界は相変わらず白い。 彼は自問する。「これは現実?それとも夢の続き?」

答えはない。答える必要もない。なぜなら、

白いから。

(了)







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