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同性愛は先天的なものではない

今年5月、韓国の7大日刊紙に「差別禁止法」に反対する全面広告が掲載された。
その中の「同性愛に関するファクト」という項目には、次のような一文がハッキリと掲載されていた。
 
「1.(同性愛は)先天的なものではありません。
 
同性愛は、先天的なもの(生まれつき)ではないのか? 
 
今回は、当会の一員で、同性愛を研究する筆者Hがナビゲートする。

札幌地裁の判決文

昨年3月17日、同性婚をめぐる札幌地裁判決が注目を集めた。
判決文には「同性愛は精神疾患ではなく、自らの意思に基づいて選択・変更できないことは、現在は確立した知見になっている」と明示された。
 
果たして、同性愛は「自らの意思に基づいて選択・変更できない」のだろうか?
 
結論から言えば、同性愛は遺伝でも先天的なものでもない
よって、「自らの意思に基づいて選択・変更できない」と言い切ることはできないのだ

「性的指向」に関するRCPとAPAの考察

前回の記事でも紹介した『大衆の狂気』(ダグラス・マレー著)に、「性的指向」に関するイギリス王立精神科医学会(RCP)の声明と、アメリカ心理学会(APA)の提言が掲載されていたので、抜粋して紹介したい。
 
RCPの「性的指向に関する声明」(2014年)
 「王立精神科医学会の考察によれば、性的指向は生物学的要因と出生後の環境的要因の組み合わせにより決まる
「性的指向は不変であり、人生の間に少しも変わることはない、とはいえない」(注1)
 
APAの提言(2018年)
 「異性愛、バイセクシャル、ゲイ、レズビアンといった性的指向を持つようになる正確な理由については、科学者の間で意見が一致しない。遺伝、ホルモン、発達、社会、文化が性的指向に及ぼす影響を検証する無数の研究が行われているが、性的指向が何らかの具体的な要因により決定されると結論できるような発見は、いまのところまだない。それでも多くの科学者は、生まれと育ちの双方が複雑な役割を果たしていると考えている」(注2)
 
本書にも登場する、元ゲイのマイケル・デヴィッドソン博士が主張するように、「アメリカ心理学会もイギリス王立精神科医学会(RCP)も同性愛が変更できない生得的なものとは考えていない」ことがわかるだろう。

「同性愛遺伝子」など存在しない

2019年8月には、世界的に権威のある科学雑誌「Science」が、米国と英国の研究者による調査結果を掲載した。米国マサチューセッツ総合病院とハーバード大学、英国ケンブリッジ大学などの国際共同研究チームは、米国と英国で同性間の性的関係を結んだことがあると回答した男女約47万人の遺伝形質を調査。
 
その結果、同性愛に関係する特異遺伝子は発見されなかったと明らかにした。同性愛と関連があると思われる5つの塩基のバリエーションは発見されたものの、特定の遺伝子が同性愛に影響を与える確率は「1%未満」だということも分かった。
 
つまり、同性愛を誘発する「同性愛(ゲイ)遺伝子」など存在せず、同性愛は遺伝しないことが改めて明らかになったのである。

胎児期のホルモンは同性愛に影響しない

遺伝子以外にも、「同性愛は胎児期のホルモンによる影響ではないか」との見方がある。
 
しかし一般的に、成人の男性同性愛者(ゲイ)と異性愛者の性ホルモンの数値には全く差がなく、性ホルモンは性欲の増減に作用する一方、性的指向には影響を与えないとされる。
 
内分泌代謝科専門医ルイ・グーレンは、「ホルモン異常を持った多くの患者に会ったが、それが彼らの性的指向に影響を与えたという事例は発見されなかった」と述べている。
 
また、胎児期のテストステロン(男性ホルモン)の数値と同性愛性向の相関関係を立証する直接的な調査結果も存在していない。以上のことから、胎児期のホルモンは同性愛形成に大きな影響を及ぼさないと言えるだろう。
 
では、何が同性愛を生じさせるのだろうか?

同性愛を生じさせる要因とは?

1990年に精神科医ジェフリー・サティノーヴァーが、1000人のゲイを対象に行った調査では、「37%」が19歳になるまでに年上か、より力のあるパートナーに性的に襲われた体験を持っていたことを明らかにした。(注3)
 
心理学者リチャード・コーエンは、著書『ストレート(異性愛)へのカミングアウト――同性愛の理解と治療』(2000年)で、「男の子が父親との精神的な絆を持てなかった時に同性愛になる」と指摘。「大人になったゲイは、男性とセックスすることにより、思春期に得られなかった父親からの愛情の埋め合わせをしているのだ」と述べている。(注4)
 
一方、元レズビアンの著述家アン・ポールクは、自分と同じ元レズビアンの女性265名を調査し、「同性に惹かれるのは、性的欲求そのものが原因ではあるケースはむしろまれ」で、「愛されたい、誰かを信頼したいという無意識の欲求の表れである。女性らしさを取り戻したいという願望が間違った形で表れているケースも多い」と指摘している。(注5)
 
さらに「レズビアンになる典型的なパターン」には、「母親が支配的で口やかましく愛情に乏しいか、弱い人間だったケース。父親が愛情に乏しく批判的だったか、虐待していたケース。あるいはその両方のケース」だという。
 
また、「驚くことに、90%が何らかの虐待体験を持っている。性的なものが60%以上だが、心理的なものも70%に上り、半数以上が言葉による虐待を受けている」と。
 
これらの調査から、同性愛者の多くが幼年期から青年期に性的虐待を受けているか、機能不全に陥った家庭に育っていたことが推測される
 
男性から性的虐待を受けた男性は、自分は同性愛者であると誤解し、同性愛を学習するほか、男性から性的虐待を受けた女性は、男性との性的関係を拒もうとするのだ。
 
また、同性愛を美化する映画やドラマ、同性愛ポルノなどの文化が、多感な青少年期に与える影響も軽視できない

200万人を対象としたデンマークの調査

2006年に200万人のデンマーク人を対象に行われた調査では、田舎で生まれた人よりも都市で生まれた人のほうが、同性のパートナーがいる比率が高いことが明らかになった。(注6)
この調査からも、同性愛が遺伝的な要因より育った環境、つまり後天的な要因の影響をより強く受けることがうかがえる。
 
もし「同性愛が遺伝子などによって先天的に決定される」のであれば、同性愛者の年齢が上昇しても同性愛者の比率がさほど変わることはない。
しかし、デンマークの調査によると、男性同性愛者と女性同性愛者の比率が、年齢の上昇に比例して急激に減少しているのが明らかになっている。

後天的な要因がより大きな影響を与える

ここまでの内容をまとめると、同性愛を生じさせる要因について、以下のようなものが挙げられるだろう(『同性愛は生まれつきか?』を参考にした)。
 
幼少期の身体的・性的虐待
家庭問題
父母の間違った性役割モデル
幼少期の不安定な性同一性
誤った性的体験(性的虐待)
同性愛を美化する作品や同性愛ポルノなどの文化
同性愛を認める社会風土(推進される教育)
 
以上のような後天的な要因と、容姿や体型などの身体的な要素、性格などの先天的な要因によって、同性愛といった性的指向が形成されると考えられている。
 
ただあくまでも、後天的な要因が先天的な要因より大きな影響を与え、先天的な要因は間接的なものなのだ。よって、幼少期に形成された同性愛の性的指向は確定的ではなく、柔軟なものと言える。
 
しかし、「自らの意志に基づいて選択」することで同性愛の性向を拒否せず受け入れてしまえば、性的指向は心に深く定着。強い依存性によって同性愛行為を反復することにより、同性愛という性的行動様式が形成され、もはや「自らの意思に基づいて変更できない」と考えるようになってしまうと考えられる。
 
この他にも、一卵性双生児の著しく低い(10%程度の)同性愛一致比率によって、同様の環境と要因をもった人の中で、ごく一部のみが同性愛者になるという事実が挙げられる。このような事実からも同性愛が環境と後天的な要因によって「決定」されるわけではなく、個人の選択の余地も残されていると推察できるだろう。
 
昨年3月の札幌地裁判決で、同性愛について「自らの意思に基づいて選択・変更できないことは、現在は確立した知見になっている」と謳われた。
 
しかし、その主張は科学的にあまりにも根拠の薄いものだったと言わざるを得ない。
 
もう一度言おう。
同性愛は先天的なもの(生まれつき)ではない
よって、「自らの意思に基づいて選択・変更できない」と言い切ることはできないのだ
 
同性愛についてさらに理解を深めたい方には、2020年に邦訳出版された『同性愛は生まれつきか? 同性愛の誘発要因に関する科学的探究』(吉源平、他5名)をお薦めする。
 

1 Royal College of Psychiatrists' statement on sexual orientation, Position Statement PS02/2014, April 2014
2 Website of the American Psychological Association, ‘Sexual Orientation & Homosexuality’
3 『Homosexuality and American Public Life』(1999)
4 『Coming Out Straight: Understanding and Healing Homosexuality』(2000)
5 『Restoring Sexual Identity』(2003)
6 Frisch, M and A. Hviid(2006)Childhood family correlates of heterosexual and homosexual marriages: a national cohort study of two million Danes. Archives of Sexual Behavior 35(5). 533.

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