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『大衆の狂気』から読み解く「性別違和」

前回の記事では、東京都が創設を目指す「パートナーシップ宣誓制度」の素案および「意見募集結果」から、「多様な性」とは何かについて考えた。
 
今回は、3月末に邦訳出版されたばかりの『大衆の狂気』(徳間書店)を紹介しながら、「性別違和」や「性的指向」について考えてみたい。

『大衆の狂気』

『大衆の狂気』とその著者について

『大衆の狂気』の帯には、「世界26カ国で翻訳のベストセラー!」「英語版だけで累計28万部超!」などの文字が踊り、海外でかなりの反響を呼んでいることがうかがえる。
 
さらに、アマゾンをチェックしてみると、5,800件以上もの評価がついており、「星5つ中の4.7」と、驚くべき高評価である。

アマゾン公式サイトより

著者のダグラス・マレー氏(現在42歳)は、英国人ジャーナリストで、保守派の論客として知られる人物だ。「著者紹介」によると、「《タイムズ》紙、《ウォール・ストリート・ジャーナル》紙などへ多数寄稿し、英国議会、欧州議会、ホワイトハウスでの講演実績もある」。前作『西洋の自死』(邦訳は東洋経済新報社)は世界的ベストセラーだ。ツイッターのフォロワー数は47万人以上(2022年5月19日時点)で、欧米における有力なインフルエンサー(大きな影響力を持つ人物)である。さらに、「自らゲイであることを公表」した性的マイノリティでもある。

『大衆の狂気』に寄せられた賛辞

本書の最初に掲載されている「賛辞」の中から、ほんの一部を紹介したい。
 
「マレーの最新刊は、すばらしいという言葉ではもの足りない。誰もが読むべきだし、誰もが読まなければならない。ウォーク(訳注/社会的不公正や差別に対する意識が高いこと)が流行するなかではびこっているあきれるほどあからさまな矛盾や偽善を、容赦なく暴き出している」リチャード・ドーキンス(イギリスの動物行動学者)
 
「読者が本書の主張に同意するかどうかはともかく、ダグラス・マレーは学界にも一般社会にも認知された現代最高の知識人だ」ベルナール=アンリ・レヴィ(フランスの哲学者)
 
アイデンティティ・ポリティクスの狂気についてよくまとめられた、理路整然とした主張が展開されている。興味深い読みものだ」《タイムズ》紙
 
「マレーは、疑念の種をまき散らす社会的公正運動の矛盾に切り込み、大衆の95パーセントがそう思いながらも怖くて口に出せないでいたことを雄弁に語っている。必読書だ」《ナショナル・ポスト》紙(カナダ) 

『大衆の狂気』の概要

本書では、「この社会において絶えず取り上げられる四つの問題」として、ゲイ(第1章)、女性(第2章)、人種(第3章)、トランスジェンダー(第4章)を重点的に扱っている(500ページ近くあり、読み応え十分!)。
 
全編を通じて、実際に欧米で起こった数多くの事案に言及しながら、「性や性的指向、肌の色がすべてだと考えれば、致命的な結果を招くことになるだろう」と警鐘を鳴らす。
 
また、「同性愛と異性愛との間、男性と女性との間、ある人種とほかの人種との間に違いはないという主張を受け入れるよう求められるのであれば、大衆はいずれ狂気に陥る。私たちはいま、その狂気、すなわち大衆の狂気のただなかにいる。どうにかして、その狂気から抜け出す方法を見つけなければならない」と問題提起する。

『大衆の狂気』から読み解く「性別違和」

冒頭でも述べたように、「性別違和」や「性的指向」にフォーカスして本書を見ると、例えば、「イギリスではわずか5年で、ジェンダークリニックを紹介される子どもが700パーセントも増えている」という(The Sunday Times 2018年11月25日)。
 
一般的にも、「性別に違和感を感じていると診断される子どものおよそ80パーセントは、思春期の間に問題が自然に解決する」と言われるが、それでも欧米では近年、「性別に違和感があると主張する子ども」が急増しており、その主な原因の一つに、「クラスター効果」が挙げられる。
 
ここでの「クラスター効果」とは、「学校で自分の性別に違和感があると主張する子どもが増えると、同様の主張が急激に広がっていく現象」のことだ。
 
新型コロナウィルスの蔓延によって広く認知された言葉だが、ウィルスではなく、性別違和や性的指向にもクラスターが起こるとすればどうだろう。

日本では現在、東京都や埼玉県が条例・制度を通じて、学校現場などで「多様な性」「性の多様性」に関する理解を積極的に推進しようとしているが、イギリスのようにクラスターが起こりかねないのではないか。
 
また、欧米では「性の多様性」といったイデオロギーが浸透する余り、2020年2月、イギリスの女性・平等担当大臣を務める下院議員が、「子どもは性別なく生まれる」といった主張を平然とするような事態になっているのだ。
 
日本でも昨年、歌手の宇多田ヒカルさんが、「ノンバイナリー」(自身に「男性」「女性」の枠組みを当てはめたくないという考え)であることを告白して注目を集めたが、ダグラス・マレー氏は本書の中で次のように述べている。
 
「私は以前から、『ノンバイナリー』だとカミングアウトするのは『私を見て』と言っているのと同じだという私の主張に、納得のいく形で反証してくれる人がいたら、その人に報酬を支払ってもいいと言っているが、これに挑戦する人はまだ誰もいない」
 
「多様な性」を推進したくてたまらない東京都総務局人権部やLGBT活動家の皆様は、ぜひマレー氏への反論にチャレンジしてみてほしい。
 
「多様な性」というイデオロギーによって、「性」や「性別」について普通に考えることが困難になりつつ昨今、本書にも登場する米国の「保守派の評論家」ベン・シャピロ氏の、トランスジェンダー女性に対する発言は鋭い。
 
あなたの感情など、事実とは何の関係もない。一部の精細胞を除き、ケイトリン・ジェンナー(元オリンピック選手)の体内にあるあらゆる細胞は男性のものだ。彼はまだ、男性の付属器官をすべて備えている。彼が心のなかでどう思っていようと、生物学的な自己の問題とは無関係だ
 
‟Facts don’t care about your Feelings”あなたの感情で事実は変えられない)がベン・シャピロ氏のモットーだが、「性」や「性別」について、ごく一部の当事者や活動家の‟お気持ち”に寄り添うだけではなく、科学的な事実に基づくキチンとした検証が必要なのは言うまでもない。
 
ダグラス・マレー氏も、欧米で拡大する同性婚合法化などを念頭に「本来であれば、これほど急速な道徳観の変化には、細心の注意や熟慮が必要である。だがこの世界は、細心の注意や熟慮もなく、ただ突っ走っていくことに満足しているようだ」と、疑問を呈している。
 
大衆が「性」や「性別」をめぐって「狂気」に陥りつつあるなか、ぜひ正気を取り戻すキッカケとして、『大衆の狂気』をオススメしたい。
 
合わせて、現在発売中の『正論』令和4年6月号、八木秀次・麗澤大学教授による「『同性愛は先天的』否定する科学的根拠」も合わせて参照してほしい。
 
「同性愛や両性愛は生まれつきで異性愛への変化は不可能」といった主張に対し、「生化学や遺伝学の立場から異論を唱え続けているニール・ホワイトヘッド(Neil Whitehead)博士の主張」を分かりやすく紹介している。
 
結論的に、「同性愛や両性愛は先天的でも不変でもなく、心の問題であって望めば『修復治療』などによって異性愛に変化する」というのだ。
 
八木教授も述べているように、「同性パートナーシップ制の導入や理解増進法の制定など、LGBTに関する政策は科学的な立場から再考されなければならない」
 
東西の論客が、「LGBT」をめぐる現在の風潮に強く警鐘を鳴らしている。パートナーシップ制度を推進する東京都総務局人権部や、埼玉県「性の多様性」理解増進条例を主導する自民党埼玉県連の県議の皆様、ぜひ虚心坦懐でご一読いただきたい。


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