心はアフリカ2
アフリカ文学が面白い。コンラッドの『闇の奥』と言う本を4回ほど読んだ。読むまで知らなかった本だが実は有名な本らしい。 訳は光文社古典新訳文庫が分かりやすい。しかし作品の迫力が伝わってくるのは断然岩波文庫訳だ。 やや分かりにくいが。もっともこの本は何回か読まないと分からないようにできている。 しかし短い本だ。お薦めだ。
優れた文学の古典は作者の感動を如実に伝えてくれる。 文学はただの文字のようだが、読める人が読むと作者の感動が時代と地域を超えて確かに伝わってくる。
『闇の奥』の作者のコンラッドはポーランド系イギリス人で、 19世紀末に船乗りとなり当時まだ文明の光が届いていなかった鬱蒼たる熱帯雨林のコンゴ川を遡った。 文明とアフリカの初めての邂逅だ。岩波文庫訳から引用する。
作者は大地に根差した真実がアフリカにはあるという。文明人の吹けば飛ぶような「主義」ではない。それは大地に根差していない。 文明人が忘れた人間の原初的な真実がアフリカには確かにあると言う。それは善ではない。しかし「外被を引き剥がれた赤裸の真実」なのだ。
『闇の奥』から文明とアフリカの最初の出会いが臨場感を持って伝わってくる。 文明人側の緊張感、そしてアフリカ側の緊張感の両方が確かに伝わってくる。
現代でもアフリカに旅行には行ける。しかし19世紀末の最初の出会いの時の緊張感は二度と味わえない。 しかし『闇の奥』のような優れた文学作品に触れると、二度とは味わえないはずのその時の緊張感が、 現代日本に住む私にも時代と地域を超えてリアルに伝わってくる。
そして本を閉じてVRでコンゴ川を見る。oculus quest2は素晴らしい。眼前に広がるはるかなコンゴ川。 私は現代の旅行者としては見ない。『闇の奥』の著者コンラッドのように文明人として初めてコンゴ川を訪れた人間のつもりで見る。 コンラッドが体験した緊張感をもってコンゴ川を体験するのだ。
ツアーもない。ホテルもない。休憩所もない。売店もない。舗装道路もない。 たよりは船とライフル銃、手持ちの食糧と水。心細さと緊張感と壮大な風景。
そしてしばらくするとVRを消して部屋を暗くし、ヘッドホンでアフリカ音楽を聴く。 twins seven sevenがもっともアフリカ的で迫力がある。
アフリカ人に村に招待された、もしくは捕えられたというつもりになる。『闇の奥』の緊張感を自分の中に再現しVRの遥かなコンゴ川を思い出す。 そしてアフリカ人に捕えられ彼等が目の前で音楽を演奏しているというつもりになって迫力のあるアフリカ音楽を聴く。強烈なアフリカ体験。 そして料理が出されたとイメージし、昨晩街で食べ感動したアフリカ料理を思い出す。
要は自分のもっているアフリカに関する知識や体験をフル動員して疑似的に総合的にアフリカを体験する。強烈なアフリカ体験だ。 文学や音楽CDは昔からあったし、インターネットでアフリカ美術を手軽に見れるのは20年前からあった。 しかし最近になってVRが手に入るようになったのは大きい。疑似的に世界旅行ができる。 金がなくても感受性さえあれば楽しく暮らせる時代がすでに来ている。金は要らんのか?いやいやそんなことはない。 金があればさらに感動は5,6倍になるはずだ。
これからはΠ字型人間が重要になると言われる。Π字型人間は二つの要素がある。
①二つの専門を持つ。
②大雑把に色んなことを知っている。
①の意味が注目されやすいが②も大切だ。私が日本に居ながら疑似的にではあれ総合的なアフリカ体験ができるのは、 いろんな分野を広く浅く知っていてそれなりに感受性があるからだ。
人はみな専門を持つ。それは人間の能力が限られているから当然だ。しかし専門に分かれるのは人間の事情であって、 世界は分野ごとに分かれて存在しているわけではない。
アフリカも分野ごとに分かれていない。たしかにアフリカ史、アフリカ文学、アフリカ美術・・と分野ごとに分けて考えることはできる。 しかしアフリカは区分できない一個の全体であって、アフリカ史、アフリカ文学と分けるのは人間の都合である。
私が『闇の奥』を読んで深く感動するのもVRやアフリカ音楽、料理、美術などアフリカのいろんな分野に触れているからだろう。 全体はつながっている。
ところでアフリカ文学には二種類ある。欧米人が書いた文学とアフリカ人自身が書いた文学。欧米人が書いた本も読みごたえがある。 『闇の奥』もその一つだ。しかしアフリカ人が書いた本のほうがアフリカ人の素顔がわかる。内面が分かる。
『やし酒飲み』という本が岩波文庫からでている。アフリカ人による文学だ。 アフリカ的な自由なイマジネーションにあふれた作品だ。 私は文明人のつもりだし合理的なものがすきだから文明人だと思っている。 しかしアフリカ的なイマジネーションも自分の心にすっとはいってくる。 私は意外とアフリカ的なところがあるのかもしれない。
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