瀬尾朋子

瀬尾朋子

最近の記事

本屋という名の食べ物

東京で一番好きな場所はどこかと聞かれたら、恐らく私は東京駅の丸善本店と答えるだろう。もちろん全国にある支店(順天堂も含む)も好きだ。 ふと仕事で早上がりなどのチャンスを掴むと、自然と足は東京駅に向かう。 東京駅はいつも人で賑わっている。営業で回っているのであろうサラリーマン、足取り優雅なご高齢マダム、重いスーツケースを引きずって次の電車に乗るために走る旅行客、ニッカポッカで闊歩する職人さん、とにかく様々なドラマが広がっているロマンあふれる場所である。 そんな人混みをひょいひょ

    • 肉まんが落ちる音

      音、というのは摩訶不思議なものである。 昨日私は生まれてはじめて肉まんが落ちる音を聞いた。ふと立ち寄ったコンビニで肉まんを一つ購入したのだが、店員さんが紙の袋に入れる寸前で手を滑らし、ほかほかの肉まんはポロッと床に落ちていった。それが床に衝突したときの音をなんと形容すればいいのだろうか。メチョ、とかいう外殻が破れ中身の餡が床にぬめっと散乱する音を予想していたのだが、現実は違った。どちらかというとボンッというタイヤが落ちたのに似た音であった。もしかしたら肉まんにはゴムの要素が

      • 私の散歩道 神田~東京駅

        時折ふといつもと違う道を歩いてみたくなる。 そんな時、頭に流れるテーマソングは「遠くへいきたい」である。現実逃避感極まりない。が、実際に歩くと面白い発見があったりするからこれはやめられない。 今回は神田から東京駅に向かう道。 【行く前に準備するもの】 ー神田の飲み屋街の誘惑に負けない勇気。ここで負けると散歩計画はおじゃんになる。 ー500m歩く体力 ー10分その場にとどまる忍耐力 さて神田駅南口からJR線路沿いに南下を始める。連なる飲み屋街の恐ろしく美味しそうな

        • 白髪記念日

          分け目から ぴよんときらっと 光るから 2月16日は 白髪記念日 洗面台の鏡越しにそれを発見した時、頭の中に「おおっ」という音が響き渡った。 なんと白い毛が生えているではないか。 ハツモノである。人生におけるハツモノ。 これは西を向けばいいのか東をむけばいいのか、と妙にソワソワしながらも 私はなにかめでたいものとしてソレを眺めていた。 もちろん抜いても西に向かって食べてもいないし、お赤飯を炊くこともない。 30代半ばごろからいつかは生えてくるだろうとは考えていたが、 その

        本屋という名の食べ物

          大きな月の日に生まれた子

          私は自分の名前が好きだ。 名字も捨てがたいが、名前が好きだ。 物心ついた頃からいつも父が私に物語のように言い続けた言葉。 「おまえが生まれた日、大きな大きな月が出ててな。だから『朋子』にしたんだよ。」 見ようによっては至極単純な名前付けの動機ではあるが、 私は幼心に娘の誕生を知った父が病院の廊下を一人歩き、ふと見上げた夕暮れの窓の外に大きな月がみえている、 という情景を心に想像していたものだ。 その時父が抱いたであろう感動を自分のことであるかのように感じていた。 実際には

          大きな月の日に生まれた子