入学式

 生まれて初めてのスーツ。親から依頼を受けた背広の仕立て屋さんが、自分のアパートにやってきた。採寸の途中で、男の一物をズボンの右側に置くか、左側に置くかによって、スーツの寸法が変わることを知った。そして、青地に縦縞の、若者にしては渋いスーツが出来上がった。
 そのスーツを着ての大学の入学式だ。電車に乗る。運賃は90円。病院前の駅停でおりる。大学はすぐそこ。多くの新入生で歩道は埋め尽くされている。大学の入り口付近では、看板を掲げたり、ユニフォーム姿の在校生たちが待ち構えている。自分達のサークルや愛好会に、新入生を勧誘するためだ。続々と新入生たちが、大学の門を通り過ぎる中、自分もその流れに乗る。自分の耳のそばで、声が聞こえた。
「おい、あれ、本当に新入生?」
新入生だよ、二浪してるけど。新しい学生生活のスタートだ。

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