![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/47340153/rectangle_large_type_2_3a38fa68c9cd93d614e9616ed4bb5533.png?width=800)
お気に入りのお店で一緒に過ごして一番楽しい相手は「自分」なんじゃないか説。
来れば必ず楽しい時間を過ごせる。
居るだけでホッとする。
自分の心の拠り所と言える場所。
就職がきっかけで関東に出てきて、私にできたとびきりにお気に入りのお店たち。
今回はその中のある一つのお店から考えさせられた出来事についてのお話です。
1.出会い
きっかけは休日に出かけられるブックカフェを探していたことでした。都内のおしゃれなブックカフェをまとめて紹介しているサイトにそのお店はありました。今近くに友達があまりおらず、休みも平日であることがほとんどなので、最初は必然的に一人で行きました。
都会の喧騒を抜け地下にあるそのお店に入った瞬間、まず店内があまりにもおしゃれで思わずため息が出そうになるほどときめきました。
お店に入って数秒で心を鷲掴みにされ、店内で流れるジャズ、店内を彩るたくさんの本やおしゃれなインテリア、おいしいメニューに何より店員の方のとても丁寧な対応を一度に経験でき、お気に入りのお店にならないはずがありませんでした。
「今度来る時は絶対に誰かと一緒に来たい、そして一緒に来た人にも今日みたいな充実した時間を過ごしてほしい。」
そう強く感じた初来店でした。
2.二度目の来店のチャンス到来
それから二ヶ月ほど経ち、今度は一人ではなく「誰かと一緒に」あのお店へ行くチャンスがやってきます。
この頃某マッチングアプリで知り合った人(以下Aくん)と初めて会うことになり、その日初めて会ったとは思えないほど会話が盛り上がり、また出かけることになりました。この日はAくんからお店を提案してもらっていたので二回目のお店として私から提案しました。
またあのお店に行ける。
しかも今度は一緒に過ごして楽しかった人と行ける。
「二回目のデート」という名の二度目の来店が待ち遠しくて仕方ありませんでした。
3.念願の再来店のはずだったのに…
二回目のデート当日。
お店に入るや否や、やはりAくんもお店の雰囲気に心を奪われている様子で、その日も終始会話が弾みました。
美味しい料理にこの上なく豊かな空間。
日頃の疲れなど軽く吹き飛ぶくらい楽しい時間でした。
このお店を選んで本当に良かったと心の底から思いました。
「また会いたいな。」
そう思いながらお店を出て、駅までの道を二人でしばらく歩いているとき、「この後どうする?」とAくんから聞かれました。
このとき私はてっきり二軒目の話をしているんだと思っていました。
しかしこの直後Aくんから発せられた言葉はここまでの時間を覆すような思いがけないものでした。
Aくんは私をホテルに誘いました。
Aくんから言葉が発せられた瞬間、世界が白黒になり時が止まったような気がしました。
信じたくない気持ちが強すぎて何が起こっているのかわからなくなりました。
私には全くそのつもりがなかったのでいきなりそんなことを言われても頭が追いつかず、その後とにかく気まずい雰囲気になり、駅まで二人で地獄のような時間を過ごしながら歩きました。
「じゃあ、また。」なんてひどくその場しのぎな言葉を交わし合い、Aくんと駅でわかれました。
一人になった瞬間、涙が止まりませんでした。
悲しかった要因は多々ありますが、中でもショックだったのはあの大好きな、私の大切なお店をたった一晩の出来事でめちゃくちゃに汚された気分にさせられたことです。
Aくんとならあのお店で楽しい時間を過ごせると思ったのに。
Aくんだからあのお店を教えたのに。
あのお店が大好きだった分、その日の悲しみも底知れないものとなりました。
4.三度目の来店
二回目のデートの翌日、私は大学時代の友人(以下Bちゃん)と一年ぶりに遊ぶ約束をしていました。
お互いのスケジュールの都合上たまたまそうなってしまったのですが、Bちゃんには今考えても申し訳ないくらい、その日の私は昨夜の出来事を引きずっていました。
Bちゃんとは日頃の悩みからお互いの恋バナまで何でも話し合う仲だったので、その日の私サイドからの話のネタはAくんとのエピソードばかりになりました。話すうちに昨夜の出来事がどんどん蘇ってきて、Bちゃんと過ごしているのにさも昨日であるかのように辛くなってきてしまいました。
二人でいい感じのカフェを探していた時、私は思い切ってBちゃんに、よかったらAくんと行ったお店に今から行って一緒に思い出を上書きしてほしい、と頼みました。
Bちゃんとお店に入ると、昨夜はあんなに大人でミステリアスな顔をしていたこの場所が、今度は優しい顔で暖かく迎え入れてくれているような気がしました。
ずっとAくんとのエピソードを聞いてくれていたBちゃんは突然言いました。
「今度からはそういう相手と行くの、好きなお店じゃなくて普通のお店にしたら?」
そっか。
私も結局Aくんを利用していたんだ。
今度は「誰か」とあのお店に行きたい。
お気に入りのお店の力を借りられるし、きっとうまくいくだろう。
でもそれって「誰か」ならAくんじゃなくてもよかったのかもしれない。
お気に入りのお店という自分に都合の良い要素を取り入れて一人で勝手に盛り上がっていたのかもしれない。
Bちゃんが言った言葉の真意は、私のお気に入りのお店を無駄にすることないよ、ということだとはわかりつつ、そんな自分の密かな煩悩に気付かされた瞬間でした。
5.四度目の来店
それからまた四ヶ月程経ち、先日久しぶりに一人でお店へ行きました。
今度はいい雰囲気作りのためにとか、思い出を消すためにとか変な魂胆などなく、純粋に一人で楽しむために。
通された席は、まさかの初めて来たときと同じ席。
誰かと一緒に来た時、本当は座りたくて座りたくてたまらなかったけど一緒に来た人に必ず譲っていたふっかふかのソファ。
心地良い空間が生み出すお客さんたちの楽しそうな会話。
急に静かに、ゆっくり流れ出す自分だけの時間。
あぁそういえば、私の好きな場所ってこういうことだったよなぁとじっくり再確認できた時間でした。
誰かと来たいとあんなに思っていたのに、二度目・三度目の来店より一人の今の方が遥かに心地よく感じました。
お気に入りのお店を気に入ったのは紛れもなく自分。
お店に対する好きな気持ちを寸分の狂いなく、1ミリも誤差なく理解できるのは自分だけ。
そんな当たり前のことに気付き、深く心に刺さった瞬間でした。
お気に入りのお店を一緒に過ごして一番楽しいのはきっと「自分」。
そんな風に思う今、これから出会うまだ見ぬ素敵なお店たちは「自分」という最高の相棒と楽しみ尽くそうと思ってやみません。
最後までお読みいただきありがとうございます。 頂いたサポートは次の記事を書くための書籍代、または経験代にさせていただきます。