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全感覚祭について思うところ

全感覚祭というのは日本のバンドGEZANが提唱し、実践しているいわゆる都市型の音楽フェスだ。今までもいくつかの場所で開催して気になっているのでこの三連休で行ってきた。結局入れなかったんだけど…。色々思うところがあったので書いてみる。

まず全感覚祭が特徴的なのは投げ銭形式だろう。ドリンク代を支払えばあとは基本的に支払の義務がない。無料のイベントと言うよりは協賛を募る形で、受け手がドリンク代(今回は600円)だけしか支払わないことも可能。(公式では入場無料だがタダのイベントではないことがちゃんとアナウンスされている。)

今回は10月12日に昼間の東京での開催が予定されていたが、台風によって延期。翌13日の夜22時から開始に変更。すごい対応力だ。

気になっていたイベントだし、切腹ピストルズというバンドが見たかった私は渋谷へ。

複数ある会場のどれでも入場前のIDチェックが実施されていたがオフィシャルで推奨されていたDUOへ。ここはホテル外のど真ん中にクラブが集まっているスペースで三連休の中日ということで酔漢だらけ。私は渋谷という街が好きじゃなかったことを急に思い出しながら、かなりの長蛇の列に並ぶ。並んでいるのは、印象だけど純粋に音楽好きな人でおとなしくしている人は2割くらい。良い感じに仕上がっているが過半数で、その中には「なにかやっているのかな?」という好奇心や無料だから(これはそう話しているのを実際に聞いた)という理由で来た人もいると思う。

30分くらいかな?結局IDの上限に達したということで解散がアナウンスされた。このまま帰るのはもったいないので向かいのクラブに入ってBig Roomが爆音で流れる中、静岡から来た韓国コスメが好きな大学生の女の子と仲良くなれる人間ならこんな文を書いていないので、おとなしく家に帰った。無。

全感覚祭のオペレーションがまずかったとか、不満があるとかはまったくない。(ちゃんと公式に「混むから早めに来て」、って書いてあるからね。入場できなかったのはおっとり駆けつけた私が悪かった。)良かったとは言えないかもだが急な延期でむしろすごいなと言うのが正直なところ。

むしろ私が感じたのは新しさと面白さだ。正確にはイベント自体には参加していないからこんなこと書くのもうどうかと思うんだけど…。

今まで私が行ってきたライブはいずれも料金が発生していた。酔っ払っている人や潰れている人ももちろんたくさん見たが、共通しているのは金を払ってでもバンドが見たい、またはライブハウスが好きという人でほぼ観客が構成されていたこと。

私の想像力は「無料だととにかくとりあえず来てみる、という人が多いこと」に追いついていなかった。来た人の大半がバンドに興味がないということはないし、彼らはむしろ音楽好きなんだろうと思う。

ただ例えばまさに同時期に開催しているカッパンクというイベント、去年行って相当な人出だと思ったのだけど、やはり全感覚祭とは雰囲気が違う。

以前同じく渋谷のRuby Roomで日本のGRANULEを見ていたらたまたま来ていたおしゃれな男性に「面白いイベントだねー」と話しかけられた事がある。彼は出ているバンドを全く知らなかったけど、たまたま渋谷にいて面白そうだからRuby Roomに来たのだろう。私は違和感があるけど、むしろイベントとしては非常にいいことだと思ったし、今もそう思っている。

時間帯と場所も共通点あって、全感覚祭にはこの感覚があるなと思った。

重ねて言うけど私は「騒ぐのが好きな人達がほぼ無料を魅力に来て楽しみ、私のような普段金を払っている本当の音楽好き(そんなこと思ってないよ)が弾かれてしま」ったとは全く思っていない。

私は以前ネットの有名人みたいな人が音楽などのイベントのチケットはオークションなどで値が上がるのはむしろ市場としては普通のことで望ましい、というようなことを行っているのを見て非常に腹が立ったことがある。

市場原理では正しいのかもしれないが、そうすると次第にそういったイベントは金を持っている人だけのものになってしまうからだ。金がない人たち、学生や貧乏人はどうすんだろ。またチケット自体に価値があるから転売人も増えて本当に見たい人が見れないじゃんと思ったわけ。でも今この日本では貧乏なのは自己責任なんだよね。お前の努力が少ないので金が無いのよ、ってわけだ。(つまり頑張れば必ず報われるって思ってんだろうか?)

以前日本の音楽レーベル3LAの方がkillieのメンバーが「GEZANは時代性がある」といっていたということを言ったいたことがあった。(伝聞の伝聞なんで間違っていたら申し訳ない)

その時は時代性ってなんだ?と思っていたけど、なんとなく今回でわかってきた。例えば今は音楽に対して金を払わないのが普通になっている。BandcampのNYP(投げ銭)、そして何よりサブスクリプション。若い人たちはサブスクリプションに対して金を払っているのであって、音楽に対して支払うって意識は希薄になっているんじゃないかな?と思う。

そういう潮流の中での投げ銭の音楽フェスというのはたしかに時代性がある。なるほどと思ったわけ。

そして無料というのは面白い。普段見ない人たちがライブハウスに来るからだ。どんなジャンルでも新しい人が入ってこないと駄目だと思う。いくら暗黙の了解のローカルルールでもわかりにくいのは障壁になる。だってめんどくせーもの。そんなら別の無料の音楽聞くよ。

そしてお金が厳格にもっていたハードルが取っ払われるとそこは純粋に興味があるから、という新しい参加希望者が山のようにいたわけだ。

これは痛快で、とくにライブハウスに人が来ないと頭を抱えるバンドマン、企画者を有る意味では爽快に笑い飛ばしている。

ただ全てのイベントを無料にすればいいじゃんというのは暴論だ。理由はいくつかあって、そうなると無料にできない事情がある(例えばつい先日も少し話題になりましたが赤字前提で外国のバンドを呼んでくださる方々)人のイベントが立ち行かなくなってしまう。前述のチケットを市場原理に任せるとある意味では同じだよね。時代に合わせて無料にすればいいってもんじゃない。正解というよりやり方は、少なくとも可能性の余地はあるはずで、イベンターはここに引き続きなにより力を割かなくてははいけないだろうと思う。(大変だと思います。なるべく気になったのは行って物販で買うようにします。)

全感覚祭みたいなイベントはまさしくお祭りだし、(お金で成立していないところも含めて)音楽業界非常に価値があると思うけど、全部のイベントがこうなったらそれはそれで困る。私行くライブでチケット代が本当高いな、というのはないし、基本的にはお金払っていくのが性に合っているかなと。ただこれは老害的な考えかなあ?と思う。クローズドなサークルに落ち込んでいるから。でも酔漢だらけの人混みで毎回列に並ぶのもどーかな。私は友達がいないからいつも行くライブでも一人で観てすぐに帰っちゃう。場が好きなんであって、誰かと喋りに行くわけではない。(喋りたくないのではない。)

GEZANは引き続き有料のライブをやっているわけだし、全感覚祭は文字通りまつりだ。GEZANはすべてのライブを無料にしろと訴えっているわけではない。全感覚祭はとにかく面白い。そこには時代性があって新しい形についていこうという気概があるから。

無料のライブなら地元のジャズフェスティバル見たいのでもいいんだけど、GEZANがすごいのはとにかく有料でも全然見たいアーティストたちを集めちゃうところ。逆に言うとおじさんたちがやっているフュージョンめいたジャズバンドは無料でも見たくないけど、有料でも見れる世間的に凄いバンドなら無料で見たいぜ!ってことでこれもまた、うーん???と思ってしまうところでもある…。

GEZANがすごいのはこういうまだよくわからないものを確固とした独自のポリシーで強く実践することだ。そもそも物事を良い悪いなんて判断するのは無理だ。これは問題を抱えたやや地下よりの音楽シーンに投げ込まれた一石であり、またオルタナティブ(第二)のプランなのだ。行動があり、結果を反省し次につなげるのだ。もし入場に関して問題があるなら、次にはきっと改善策があるだろう。全感覚祭について話すのと、時代性を持っった新しさが今後どうなるのか?と考えることは一個の音楽好きとしては同じくらい楽しいことだ。

#音楽 #ライブ #GEZAN #全感覚祭

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