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嫉妬心

私が小4の頃、施設に新しい子が入ってきた。
安奈という名前で私と同じ学年の子だった。
(当時の施設では、何ヶ月かに数人新しい子が
入って来ていた)


安奈はとても明るくておしゃべり好きで
親しみやすい雰囲気を持っている子だった。


同じ歳だったし先生達にも安奈と
仲良くするように言われ、私は安奈と
一緒に過ごすようになった。


ある時安奈は、自分が施設に入った
理由を教えてくれた。


安奈が赤ちゃんの時(生後半年頃)
お父さんの運転する車で事故に遭ったこと。
助手席にお母さんが座っていて杏奈を抱っこ
していたこと。


その時、安奈を庇ってお母さんは亡くなり
お父さんと安奈は助かり、お父さんは骨折
で足を悪くし安奈は大きな手術をしたこと。


安奈の後頭部にはその時の傷が残っていた。

杏奈のお父さんはよく施設に来て安奈を
連れて外出していた。


帰宅した安奈は、お父さんに買ってもらった
お菓子や文房具類を嬉しそうに抱えていた。

当時施設では、親のいる子は夏·冬休みには
一時帰省ができたり、土日の休みの日に
親が迎えに来て外泊する事ができた。
逆に親のいない子は、ずっと施設で
過ごさなければいけなかった。


安奈は、部屋で私に「食べる?」と言って
お父さんが買ってくれたお菓子を差し出して
くれたけど、私は素っ気ない態度で
「いらない」と断った。


私は、頻繁にお父さんが来てくれる
安奈が気に食わなかった。


安奈と私の間にもう1人仲良くしていた子がいた。

1つ年下のかりん。

私は、安奈にかりんを取られたくなくて
必死だった。

だけど、いつもお父さんからお菓子や
欲しい物を買ってもらえる安奈は
そうゆうものでかりんを自分の方に
引き寄せていた。

本当は安奈はそんなつもりではなかった
と思う。だけど当時の私は安奈に対して
物凄い対抗意識を向けていて心の中で
「かりんを安奈に取られる」と思って
必死にかりんの気を引こうとしていた。

だけどとうとう…

かりんと安奈は2人で仲良くなり
私を遠ざけるようになった。

何がきっかけだったか忘れたけれど…
私はそんな2人に対して煮えたぎるような
怒りが込み上げてきて、晩ご飯の時間
同じテーブルだった2人を睨みつけてこう言った。

お前ら覚えておけよ!
ただじゃ置かないからな!


…と。


安奈もかりんも怯えた目で私を見ていた。

2人にそんな言葉をぶつけたけれど
その後、私は2人に攻撃することもなく
2人から離れ、安奈もかりんもお互い自然に
離れた。

高学年になり、安奈と遊ぶことも
話すこともなくなり、安奈に対する
嫉妬心もいつの間にか薄れた。

最初に施設に入ってきた時の
明るかった安奈はどんどん物静かに
なっていった。

そしてそんな安奈とは対照的に
私は、学校で明るくなり友達も
たくさんできて小学校の卒業アルバムでは、
クラスの「ひょうきんNo1」に選ばれた。

あの頃私は、頻繁にお父さんが来てくれる
安奈が羨ましかった。そして安奈は自分よりも
いつも「いいもの」を持っていると思っていた。
それが安奈に対する”嫉妬”に変わり安奈の
ちょっとした事でも許せなかった。


本当は、安奈は一人きりで孤独を感じて
いたのかも知れない。

いつも寂しかったのかも知れない。

あの頃、そんな安奈の気持ちを感じる
事はできなかった。

最初から安奈とは、特別仲が良かった
わけではないけれど大人になった今でも
ふと、安奈の事を思い出す事がある。

安奈は今元気かな…と。

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