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(日記)広島旅行の記録・1日目

広島にひとりで旅行にいった。思い立って2日前に宿や新幹線をおさえたのでかなりバタバタだった。ふつうにオフの日として休みをとっていたけれどしっかり休めるのは最後かもしれないと思ったし、そういえば春休みにどこにも旅に出ていないことに気がついて、前から行こうと思っていたいくつかの土地の中から広島を選んだ。

行きの電車から新幹線のなかでは『ぼくはうそをついた』を読んだ。広島原爆の記憶を扱った物語だが、主人公は現在を生きる小学生・リョウタだ。彼は親族に被爆者がいて、原爆を自分ごととして知ろうとする姿勢の持ち主だけれど、当事者の記憶には簡単には触れ得ない難しさも描かれている。感想はうまく言葉にならない。たくさんの子どもたちに読まれるといいなと思う。正直、どんな気持ちになればいいのか絶望するかもしれないけれど、それでも。

作者の西村さんの名前を見たとき『ぼくの、ひかり色の絵の具』を書かれた方だ、と覚えていた。とても好きな作品だったから。加えて今回、『ぼくがバイオリンを弾く理由』の作者さんであることも知った。小学生の頃に読んで今でも覚えているこの作品が、『ぼくはうそをついた』の姉妹編であったと知って、不思議なピースがかちりと嵌ったような感覚を個人的に覚える。この作品を書くのには十年以上の歳月がかかっているそうで、まだ経験したことのない長さの、創作をめぐる時の流れに畏れのようなものが生まれる。

本を読み終えたあと、おやつりことチョコボール(カラフルミンツ)を食べながら仕事をしていたら結構しっかり酔ってしまった。情報を遮断するために目をつぶってあとはそのまま寝た。ちなみにおやつりこ(あんバター味)はとてもおいしいのでおすすめ。じゃがいもとあんバターの組み合わせがしっくりこないのか、結構売れ残って割引されている場面を見かける。名前でかなり損をしていると思う……じゃがりこのビッグネーム遺伝子が強すぎるのも考えものだなと思った。

4時間ほどかけて広島に着く。駅はとてもきれいだった。とりあえず宮島に直行すると決めていたので、宮島口駅行きの電車にのり、フェリーに乗り、宮島へたどり着いた。春休みだからかなりごった返している。日本語じゃない言葉がたくさん耳を通っていく。桟橋口を出てすぐに鹿がいた。奈良の鹿よりも心なしかのんびりしているような気がする。

フェリー。
鹿。

まずはロープウェーを目指した。なんとなくロープウェーというものに乗りたくて、閉まってしまう時間が早いものから目指そうと思ったのだ。(天候がまだマシだったのは午前だけだったので、この判断はあとでとても正しかったと思うことになる……)ロープウェー乗り場までの道のりはだんだんと大通りの喧騒から離れて奥まっていくような感じだった。途中で「乗り場までは歩いて10分、ときどき走って7分」という看板があった。ときどき走れるタイプの道ではなかったな。乗り場について、ロープウェーに乗り込む。自分と、英語圏の人の2人組*2という構図で、なんとなくきゅっと小さくなりながら乗った。そういえば高所も閉所もそんなに好きじゃないのになんで乗ろうと思ったんだろう。でも、一方は山、一方は海、自然のなかに放り込まれたようできれいだった。眼下では少しずつ植生が変わっていくのが目に見えて、生物基礎の教科書で読んだ内容を思い出した。

ロープウェーは2本を乗り継ぐ。2本目は25人程度が乗れる大きなものだった。そこにみんなが鮨詰めになる。ところどころから"squeezed……."という単語が漏れ聞こえた。本当にsqueezedだった。やっと到着して駅を出ると、思ったより見晴らしはない簡素な場所だった。どうやらここから展望台までは、1km程度のミニ登山らしい。すでに少し雨が降り始めていて迷ったが行ってみることにした。自然のなかに身を置いたり見渡したりしたかった。

道のりは、整備されているとはいえまあまあアップダウンがあってちょうど良い運動だった。とは言いつつ、途中にあるお寺に着くころには暑くなっていて、コートとマフラーをとってその先の展望台まで上がった。途中で大正時代に皇太子殿下がいらっしゃった、という細い石碑を見つけ、あ、昭和天皇がいらっしゃったのか……と思い当たる。登りながら、自然は、あるべきところにあるべきものがあるな、と思った。湿って暗くなっている場所には苔が生えるとか、日当たりのいい場所にはこの木が生えるとか。雑多なように見えてちゃんと秩序のなかにある。

ぐねぐねした道を抜けて弥山の頂上に着いた。すでに雨はしっかり降っていた。かすんだ海と島、広島の市街地も見えた。水平線はとても煙っていた。さすがに疲れて、風に吹かれたり少し座って連絡を見たりした。なんかプロダクトに関するやりたいことが浮かんできてそれをメモしたり、短歌をメモしたり……。

道中にある「くぐり岩」というスポット。

下山は、さらに雨模様で足元がかなり悪かった。HARUTAのローファー系の靴で挑むもんじゃないとは思った。足を滑らせないように気をつけながらロープウェーまで戻り、降りる。帰りのロープウェーは雨のなかで、反対側からくる人は少なかった。空のゴンドラをいくつか見た。

駅についた後、MTGの約束があったのでそこのフリーWi-Fiを使ってしゃべっていた。すぐ隣ではスタッフの人がセブンティーンアイスの入れ替えを黙々と行っていて、もしかしたら睨まれていたかもしれない……とはいえ仕事なので、すみません……何度かWi-Fiが途切れたが無事に終わった。駅を出て道をもどると、人はほとんどいなかった。出くわすのが人→鹿→鹿→鳩→人→鹿みたいな感じ。

厳島神社の近くに戻ると人が増えてきた。参拝しようとして、すっかり水が引いて社殿の足が剥き出しになっていることに気づく。最初は「しまった」と思った。海上に浮かんでいる幻想的な感じが好きだったから。でもまあいいか、と思いつつ進んでいくと、どうやら鳥居まで歩けるくらいに水が引きいているらしい。これは降りねば、と思いつつまずは参拝した。今回、広島に来たかったいちばんの理由は2年前に見たアニメの「平家物語」にいたく感動したからだった。特に、維盛が舞台で美しく舞うシーンを思い出して、そしてその後に訪れる滅びのことを思って、とても胸が切なくなった。舞台は残念ながら改修中だったが。

大鳥居まで歩く。ところどころ、水たまりになっているのでうまく避けながら……と思いつつ、ズボンの裾に盛大に跳ね上げていて途中で諦めた。こういうところの身体感覚は本当に下手だ。鳥居に近づいてみると、真ん中の柱は真っ直ぐではなく、大樹をそのまま植え付けたようにでこぼこと歪んで下にいくにつれて太くなっていることがわかった。さすがに近づくと圧巻だった。


しばらく眺めて、また島へ戻った。水平線付近は海と空が曖昧な暗い灰色だった。以前、小3か小4のときに訪れた際、もみじ饅頭を揚げた「揚げもみじ」が美味しかったことを覚えていたので、また食べたいと思って買った。やはり美味しかった。ぜんぜん覚えていなかったが、衣は天ぷらに近い感じだ。急に満足したので、さっさとフェリーに乗ってそのまま戻った。船の上でカメラのフィルムを取り替えた。

天ぷらみたいな衣。味はこしあんを選んだ。

広島駅まで電車で戻る。夜は、駅のビルに入っている有名なお好み焼き屋さんで食べた。お好み焼きが食べたいというよりは、お酒と一緒に何かを食べたかった。もちろん心の別の部分で、そばの入ったお好み焼きをまた食べたい、とは思っていたので、そことミックスした感じだ。この、心のいろんな部分をその場その場で適当に満たしながら旅ができるのが、一人旅のいいところかもしれない。かっちりと決めておくわけではなく。頼んだのは、メニューの名前は忘れてしまったが、海鮮メインで「イカ天」なるものも入ったやつ。それと生ビールの小。ひとりだったので鉄板の前の席に通してもらい、目の前でお好み焼きが焼けていくのをみる。しっかりベルトコンベアー式になってじゃんじゃん作られていた。最初は、小麦粉を水で溶いたようなものをひく。その上に、基本の野菜やおのおのの具、茹でたそばが乗る。そことは別のところで卵を割ってつぶして広げ、その上に先ほどの具と麺を乗せる。ひっくり返すと卵がしっかり焼けている。そこにソースと青のりをふって完成。ざくざくと、食べやすいように切られていくのが見ていて気持ちよかった。

運ばれてきたときは、このボリュームで食べ切れるか?と心配になったが、意外といけた。ビールと一緒に食べすすめながら、結構、いい意味でめちゃくちゃな食べ物だなと思った。まず食べるときにバラバラになってしまって、ひと口ごとに口に入ってくるものが違う。麺、卵、柔らかくなった小麦粉の皮、えび、いか、イカ天、豚肉、野菜。そのどれかが口に入ってきて、ソースですべての辻褄が合っていく感覚。おいしい。けれどカオスだ。途中でマヨネーズを足して味変しながら一気に食べきった。さすがにお腹いっぱいにはなったけれど、隣の人も、ひとりでぺろりと平らげていた。

微妙に時間があったので、カラオケに行った。奈良・京都を旅したときもなぜかこれをやっていたな……とにかく歌うのが好きで、旅先でもやってしまう。あと、「広島に来たから広島っぽいものを見なきゃ」という観念もそこまでないので、楽しさを優先してしまった。自分ではいいと思う。かっこいいMVも発見して満足だった。1時間弱歌って、ホテルのチェックイン時刻に合わせて向かう。夜の川を渡るとき少しだけ不安になった。

ホテルは、東横インが取れなかったので別のところにしたが、ふつうに過不足なかった。強いていえばスキンケア系を置いていなかったのが落とし穴立ったな……やむを得ずコンビニで小さいセットを買ったが、若干肌に合わなくてピリピリした。ついでに買った、広島のウイスキーのハイボールを飲みながら仕事の連絡を返していく。プルタブを引いた瞬間、とても良い香りがした。風味もよくて好きだったけれど、8%は濃くて明日のことも考えるとすべて飲み切ることができなかった。ちょっと早めにベッドに入って眠った。

そういえば書き忘れたけど、宮島では焼き牡蠣も食べた。

(次につづく)


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