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「精神科に行った方がいい」症候群

ネットで「この症状があったらうつ病」「これが当てはまる人はADHD」みたいな投稿をたびたび見かけます。たいていバーナム効果(占いとかで、誰にでも当てはまるようなことを言うアレ)だろうなと思っているのですが、投稿を見た人から「やっぱり自分はうつ病/発達障害だったんだ!」みたいな声もけっこうある。おそらく、そういう人たちは日々辛い思いをしていたり、生きづらさを感じていたりするのだろう。その気持ちや悩みは、なかなか他人に伝えづらい。「うちの会社の上司が本当にしんどくて〜」と言ったところで、友人にその大変さは半分も伝わらない。同じ社内の人間ならともかく、友人はその上司を直接知らないのだから。苦しみは主観的なものだけど、それを他の人に共感してもらうには客観的な説明が必要。となると、病や障害の名前はかなり有効な手立てになる。医学という威を借りて「自分はうつ病(になるくらい辛い思いをしている)」と証明ができる。

しかし、果たして世の中にうつ病や発達障害の人間がそれほど多くいるのか。人は機械ではないので、一連の投稿に書かれているようなうっかりミスは誰でもする。発達障害というのは、その頻度や程度が甚だしいのである。身体的なけがや病気と違って目に見えないのをいいことに、誰も彼もが「精神科に行くべき」のラベルを貼られる。しかも、本人はまるでそれを名誉であるかのように開けっぴろげにするのだから、ちょっと可笑しな気もしてくる。

ほら、少し要領が悪かったり、うまくコミュニケーションが取れないのは発達障害だからなんだよ!だから理解してよね!と言ったところで、そんなに世間は甘くない。言葉では同情してくれても、内心そこまで関心を持ってはいない。人によっては軽蔑の対象にもなるでしょう。その手の診断というやつは、自分が自分のことを理解したり「この悩みを抱えているのは自分だけじゃないんだ」と気持ちを落ち着けたりするために使うものであって、決して勲章ではない。

そもそも、バズってTLに流れてくる「これに当てはまったら精神科へ行こう!」的リストに書かれているようなことは、本当に悩んでいる人間であればとっくに知っている。その程度のことは自分で調べているから。そうして、ファッション感覚でうつ病や発達障害を自称する人たちがどんどんと増えて、深刻な症状に悩む人は一層身を潜めることになる。うつ病や発達障害の認知度がよくない方向に高まり、カミングアウトしても「ああ、君もか笑」と、集団的オオカミ少年みたいな状況になっているのだ。

僕も診断持ちではあるけど、会社には言わずにいる。言ったところで何もメリットがないどころか、変なレッテルをはられる恐れもあるからね。まあ、報告せずとも僕の挙動はおかしいでしょうから、何となく察知されていそうですけども。そのぶん他の人よりも成果を出して挽回するしかないのですよ。ハンディキャップはファッションアイテムでも甘えるための手段でもない。

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