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5. 体と病魔との闘い

本章では、健康を維持するために体で起こる争闘について述べます。体の防御機能では対処しきれず、それゆえに病気になることもあります。病気が人から人へ、ものから人へ拡がってゆくのがわかることでしょう。病院や医療施設は、そもそも健康を取り戻すところですが、同時に感染のリスクが高いところでもあるため、感染予防のためにはあらゆる手を尽くさなければなりません。


5.1 「永住者」と「短期滞在者」:常在菌と通過菌

体表や体内に厖大(ぼうだい)な微生物が生存していることは、表4.1で見たとおりです。大腸、小腸、鼻、のど、皮膚、髪、口腔、直腸、手指など、外界とどのくらい接触しているかにかかわらず、微生物はあらゆる場所に棲息しています。数が多いばかりではなく、実に多くの種類があります。多くの微生物は植物として見なされます。植物学では、ある区画の植物を総称することが多く、この総称を「フローラ」と呼びます。同じく、体のいろいろなところに生育するさまざまな微生物もフローラと称されます。鼻内細菌フローラ、口腔細菌フローラ、皮膚細菌フローラという具合です。
体表や体内に普通に棲息する微生物フローラは、常在フローラ(常在菌)と呼ばれます。その多くは無害であるどころか、たとえば食物を消化する、あるいは、より有害な微生物から私たちを守るといった、重要な役割を担っていることさえあります。このように無害な微生物は片利共生生物と呼ばれています。

私たちといつも共生している微生物とは別に、一時的に一緒になる微生物もたくさんいます。呼吸とともに吸い込むこともあれば、食物とともに取り込んだり、単に接触して付着したりもします。これら「一時的な旅客」は、一過性フローラといいます。その多くはやはり無害ですが、なかには危ない厄介者もいます。多くの細菌を概観し、常在菌がどのように生じ病気が惹き起こされるかについては、資料1を参照してください。

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5.2 汚染

病原菌が私たちの体に入ったときを、「感染した」といいます。つまり、体が病原菌で「汚染」されたわけです。人だけでなく医療器材も、それが病原菌を有する患者に使用された際には、汚染されたものと見なされます。



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また、逆もしかりです。清潔でない機器で手術を受けた患者は、機器に付いた細菌で汚染されます。その細菌は、以前その機器が用いられた患者の病原菌かもしれません。このようにして、患者から別の患者へと病気は感染していくのです。


5.3 病気を惹き起こす微生物

前章で、危険な微生物もいることを見てきました。そのような微生物は体内に侵入し、傷害し、病気の原因となります。こういった微生物はパソジェニック(パソ=病気、ジェニック=原因)、つまり病原性であり、体に滞在する期間はほとんどが一時的です。私たちが微生物で病気になるのには二通りあります。

• 病原菌が成長し、増殖して体を「食い荒らし」、周辺組織を傷害するとき菌が宿主を貪食するため、「寄生体」とも称します。

• 一種の毒性物質(毒素)を体に放出する病原菌もあるが、体がその毒素に陥されたとき。たとえば、破傷風菌は神経系に影響を及ぼす毒素を放出します。


5.4 危険な微生物から体を守る

極めて有害な微生物がどれほど速く自己増殖するかを知ると、多くの人がまだ生きていられ、健康でさえあることは驚嘆すべきことと言えます。病原菌は空気中にも、食べ物の中にも、私たちの身の周りいたるところに棲息します。おもに、呼吸したり食事をとったりする口から体にいつでも入り込みます。それはごく当たり前の日常茶飯事なことです。微生物は傷口からも侵入します。しかしながら人間の体は危険な細菌との戦いに備え、その侵入者から自らを守る素晴らしい防御システムを授かっているのです。

• 外界と直接接触する皮膚やあらゆる体表が防御の最前線です。
• 微生物が体のバリアをなんとか通り抜けても、なお第二の防御線があります。免疫システムです。
• 体があまり丈夫でない場合、投薬して外部から助けることができます。

-5.4.1 体防御の最前線

皮膚:侵入者からの防御の最前線です。堅固で、微生物のほとんどが侵入することができません。また、汗にはたいていの微生物を殺す化学物資が含まれています。

粘膜:組織表面を覆う特殊な被膜です。皮膚とは別に、外界と直接接触しています。皮膚と細胞構造が似ており、皮膚とつながっており皮膚同様の防衛機能があります。この被膜はぬるぬるした粘液を分泌します。粘りが強いので、通りかかるちり粒子や微生物を捉えます。この粘液に含まれる化学物質でほとんどの微生物が死滅します。粘膜がある組織には以下のようなものがあります。

 消化器系(口、食道、胃、腸)
 呼吸器系(気道、肺)鼻や口を介して
 泌尿器系(尿道、膀胱)
 生殖器

:食事を摂ると食物が体に入ります。食物はかたちを変え、体をつくっていくのです。そのため、食物のなかの危ない生物は何とかしなければなりません。食事をすると、食物は口、咽喉(いんこう)、食道を通り、胃に至ります。もし、食物中の生物がとても危ないものである場合、すぐに拒絶され嘔吐されます。胃内にとどまったままの場合、いくつもの液体が混ざりあい消化が始まります。そのなかには塩酸といった酸を含む液体もあります。この酸で多くの微生物が死滅します。

呼吸器:気道は繊毛細胞に覆われています。繊毛は上方に波状運動を繰り返し、微粒子や微生物を上方にゆっくりと押し上げます。

:眼は極めて繊細な器官で、いつも涙という液体で満たされています。涙はどんな汚れや細菌も洗い流します。またほとんどの細菌を殺す物質が含まれています。

• 腸内には食物の消化を助けるさまざまな種類の微生物が棲みついています。それら微生物は普通の細菌フローラの一部であり、侵入者からの防御に関わっています。

私たちの体は、いわば途方もない犠牲をともなう正真正銘の戦場なのです。

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-5.4.2 体の第二の防御線:免疫システム

生体防御バリアの最前線を生き抜き、なんとか血液に入り込む微生物もいます。血液に入ると、体全体に急速に病気が拡がることがあります。

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怪我をしてできた傷や手術の切開創を介して、微生物はいともたやすく素早く血液中に入り込みます。

侵入者は急激に自己増殖し、体全体への攻撃を準備しようとしますが、血液中には、外来侵入者と戦う特別に訓練された軍隊が待ち受けており、侵入者のほとんどを見事退治します。この戦士の一団は、敵をひたすら捕食するように訓練されており、貪食(どんしょく)と呼ばれます。たとえばマクロファージは、健全な組織と認識しないものすべてを平らげます。 

敵を倒すために化学物質を放出するものもいます。これらの血流とともに循環する小さな戦士細胞は、さながら哨戒(しょうかい)中の部隊のように、いつも戦い攻撃する態勢をとっています。ときには新たな敵(病気)が体に侵入することがあります。そうすると、まったく新しい細胞が速やかに訓練され、新たな侵入者をなんとか退治してゆきます。この体の防御システムは免疫システムと呼ばれます。

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Point!
病原性の侵入者に対する独自の防御システムによって、人々は健康でいられる。


-5.4.3 病気に対する特別な防御措置: 予防接種

しかし、新たな病気の侵入がとても危険なことがあります。体が新たに戦士を訓練し終えるよりも早く細菌が自己増殖することがあるからです。そのような場合重体になることもあり、最悪の場合命を落とすこともあります。けれども幸いに、数多(あまた)の細菌の侵入から身を守る方法があるのです。特定の病気に対する、死滅化あるいは弱毒化した細菌を接種するやり方です。このような細菌は、見かけは本物の細菌ですが、もう活動することはなく害はありません。
例えるなら、すべての武器は装備しているものの、弾薬の備えがない軍隊が侵入するようなものです。私たちの防御システムは、実弾を装てんした武器を携え、新たな戦士の訓練を直ちに始められる正真正銘の軍隊のようなものです。見せかけだけの弱い敵部隊など、造作もなく撃退します。弱毒化した細菌で病気になることはありませんが、その間に体は特別な戦士(抗体)を訓練し始めます。訓練された抗体は血液中に長期間、ものによっては一生残り、将来本当の襲撃があったとき、すぐさま対応できるのです。病気から体を守るため弱毒化した細菌を接種することを予防接種またはワクチン接種といいます。

予防接種キャンペーン期間中、はしか、ジフテリア、破傷風、天然痘(※8)、ポリオなど、もっとも一般的でかつ危険性が高い病気に対する予防接種を行います。このようにして多くの人々が病気から守られているのです。このキャンペーンはEPI(予防接種拡大普及計画)とよばれ、WHO(世界保健機関) 、UNICEF(国連児童基金)、その他の政府組織が支援しています。

※8
世界的なワクチン運動の結果、天然痘は絶滅しました。

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5.5 病気と闘うための外からの味方:薬

体の防御システムは、外界からの攻撃の多くから私たちを守ってくれます。予防接種でさらに防御を固くできる病気もあります。しかし、大きな開放創があったとしたら、事態は深刻です。細菌の自己増殖があまりに速く、免疫システムが追いつかないおそれがあるからです。腫脹(しゅちょう)や炎症が進み、侵入者の自己増殖に歯止めをかけなければ、命を落とすことさえありえます。

体内に病原菌がいるから人は病気になります。それで薬を用いて、体のなかの戦士を援護する方法を取ります。これらの薬は微生物を殺滅しても患者を殺すことがないよう、入念に選ばなければなりません。多くの薬は生きた植物もしくは他の生物体から取り出され、ほかは医薬品工場で製造されます。さまざまな病気に対し、特定の薬があります。

細菌を殺す薬を「抗生物質」と呼びます。真菌を原料とするペニシリンは最も有名な抗生物質であり、細菌を原因とするいくつもの病気の治療に利用されています。

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体内に病原菌がいるから人は病気になります。それで薬を用いて、体のなかの戦士を援護する方法を取ります。これらの薬は微生物を殺滅しても患者を殺すことがないよう、入念に選ばなければなりません。多くの薬は生きた植物もしくは他の生物体から取り出され、ほかは医薬品工場で製造されます。さまざまな病気に対し、特定の薬があります。

細菌を殺す薬を「抗生物質」と呼びます。真菌を原料とするペニシリンは最も有名な抗生物質であり、細菌を原因とするいくつもの病気の治療に利用されています。


5.6 感染

細菌が防御線を超えて体に入るやいなや、免疫システムは細菌への攻撃を始めようとします。普通、体が丈夫な時には侵入した細菌は即ちに殺されて、感染を意識する間もないくらいです。しかし体が弱っている時は、免疫システムも活発でなく、侵入する細菌が強力で細菌を利する条件下では(栄養・温度など)、細菌は自己増殖してしまいます。この際、自己防御システムで体は強く反応し、炎症や発熱といった病状を生じさせます。これを「感染している」といいます。何か手立てを講じなければ、体の防御システムでは対処できなくなり、病気は最後まで進んでしまいます。感染は動物や人体でのみ広がります。機器や布類は汚染されることはあっても、微生物に反応することはありません。

条件に恵まれていたとしても、起こりうることはせいぜい微生物が自己増殖するくらいで、感染が生じることはありません。

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毒性
健康な体ではなかなか反応を生じない病原菌がいます。めったに感染を惹き起こすこともなければ、ひどく具合が悪くなることもありません。健康なときには、ある病原菌のキャリアであっても、病気にはならないこともあるのです。体が弱ってくると、潜んでいた細菌が自己増殖できる好機に乗じ病気を惹き起こします。しかし、とても丈夫な体に対しても、攻撃力が極めて強烈で、最初から重篤()な感染症を惹き起こす細菌もわずかですが存在します。そのような微生物にはとても強い毒性があるといえます。

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たとえば、腸チフスを惹き起こすサルモネラ菌は毒性が極めて高い菌です。サルモネラ菌は、体に侵入するとたちどころに感染を惹き起こします。この毒性は、最少感染量(MID)で表示されます。MIDとは、深刻な感染症を惹き起こす細菌の最少限量のことです。

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潜在的な病と共に生きる:おとなしい共生生物が病原菌に変貌する
人体の中の共生生物は、ふつうの環境で棲息していれば害となることはありません。しかし体の別の部分に入り込むと、深刻な病気を惹き起こすものがいます。とてもありふれたもののひとつが腸内に棲む大腸菌でしょう。大腸菌は常在フローラの一種であり腸内では害がありませんが、尿道や膀胱()に何らかの拍子で入り込むと、深刻な感染症を惹き起こすことがあります。また、鼻腔(びくう)内は黄色ブドウ球菌にとって格好の棲家(すみか)です。この共生生物が開放創に侵入すると、ひどい創傷(そうしょう)感染(かんせん)を惹き起こします。このように、体には共生生物が多く棲みついていますが、本来の棲みかから離れず、体が丈夫である限りはなんら問題ありません。健康な体の防御システムは共生生物が少しくらい間違った場所に入り込んできても、充分に戦えるほど強固であり、その共生生物の数を病気にならないくらい低いままに維持するのです。

しかし、私たちの体が弱ると、この防御システムが損なわれて、侵入した微生物はこの好機に乗じ増殖し、防御システムにそれまで押さえつけられて「隠れて」いた病気が進行します。この防御システムは、怪我や手術後に弱くなることがあり、マラリアなどの病気によっても弱まります。また、ただのストレスや疲労も、防御システムによくない影響を与えます。このような場合、共生生物はここぞとばかりに膨大な数に増大し、感染症を惹き起こすのです。資料1では、たくさんの共生生物とその発生機序、体に入ったときに惹き起こされる病気について記載しています。

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5.7 病気の拡大

細菌は身の周りのいたるところにいます。あまりに小さいので、どんな物や粒子にも付着します。細菌のほとんどは自身で移動できないので、付着して移動するキャリアを必要とします。キャリアは、埃、動物、昆虫、ヒト、医療機器なんでも構いません。微生物が付着したキャリアが移動して、病気が蔓延してゆきます。

数ある細菌の拡がり方としては:

• 直接体に接触。細菌が付いた人に体が触れただけで、その人に伝染します。
• 汚染した食物
• 汚染した動物、昆虫
• 空気を介して。水滴や粒子に付いて空気中を漂い、皮膚に付着したり、呼吸とともに吸い込まれたりするものもあります。
• 汚染医材や機器との接触。機器は細菌で汚染されていることがあります。そのような機器に接触すれば細菌が体に移り、感染します。

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-5.7.1 体への進入路:感染リスク

細菌は、いろいろな方法や経路で体に侵入します。細菌が侵入すると、体は必ずその防御システムで侵入者を撃退しようとします。攻撃の成否は、どの部位に攻撃が行われるかにより大きく左右されます。傷のない皮膚はとても強固な防壁なので、感染が生じるおそれがほとんどありません。しかし、開放創を介して攻撃されると、深刻な感染のリスクが非常に高まります。細菌が体のどの部位に接触するかにより、感染のリスクは異なってきます。

感染リスクが低い部位(低リスク部位):皮膚。傷のない皮膚は、事実上あらゆる微生物に対して万全な防御機能を発揮する、強固なバリアをなしています。

感染リスクが中程度の部位(中リスク部位):粘膜。粘膜で覆われているどの器官も数多(あまた)の微生物に対し充分な防御機能があります。たいてい、傷害される前に粘液が微生物を退治してしまいます。とはいえ、いつも功を奏するわけではありません。その場合、感染が進むおそれが大きくなります。

・感染リスクが高い部位(高リスク部位):無菌組織、体液(※9)などです。傷ついた皮膚や粘膜も感染リスクが高い部位に分類されます。この部位では、微生物が体液に直に接触します。体液に達するまでのバリアがないのです。このような場合でも免疫システムは細菌と戦おうとしますが、感染が進むおそれがとても大きくなります。

※9
普通の環境では、微生物は皮膚、粘膜、消化管、泌尿生殖器(尿道や生殖器の後端)にのみ存在します。他の器官や体液には微生物は普通生存しません。そのため、体のなかでも無菌組織と呼ばれます。無菌体液とは、血液や脳脊髄液(脳や脊髄を満たす液体)を指します。

普通は、生活空間や仕事場で感染源に触れて病気にかかります。伝染病の人に接触して感染してしまったのかもしれません。あるいは、開放創ができたり、四肢を骨折したりする事故にあったのかもしれません。医療施設にでかけるのは、治療を受け回復するためのはずです。でも病院では、新たに訪れる人も入院患者さんも病人です。防御システムが弱まって、開放創があればなお、感染するおそれがいっそう高くなります。さらに、衰弱によって潜んでいた病気が一気に進むおそれもあります。

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-5.7.2 医療施設内で発生する感染: 院内感染

通常、病院やクリニックとは、さまざまな病気にかかった人たちがいる場であり、数多の細菌にとっては天国なのです。あらゆる細菌に取り巻かれている病院は汚染しやすいところだといえます。患者の多くは弱くなっているので、汚染で深刻な感染を生じるおそれが強いのです。健康を取り戻しにでかけたはずの病院で、他の病気にかかってしまう。よくあることです。

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病院やクリニックで入院していたり治療を受けたりしている間にかかる感染症を、院内感染と呼びます(Nosocomial Infections : NI)。日々の診療活動でこうした感染はよく起こります。

その理由は以下のようなものです。

• 手術に使われる機器の細菌が除去しきれていない
• 感染症患者を治療する前後に適切な手洗をしていない
• 創傷処置に使う機器の細菌が除去しきれていない
• 汚染廃棄物が適切に処理されていない
• 食物が汚染している


交差感染
患者から他の患者へと、汚染された医療機器、器材を介して感染してゆくことを交差感染と呼びます。交差感染は、院内感染の重大な原因の1つです。

院内感染:重大な問題
WHO(世界保健機関※10) が実施した調査によると、西欧の病院でさえも、5%の患者で院内感染が起こったことが明らかになっています。

※10
WHO(世界保健機関)による調査” Hospital Infection Prevalence Survey(1987年6月)”

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院内感染は、患者を苦しめ、病院にいることに恐怖を抱かせるだけでなく、さらに深刻な病気に感染したり、思わしくない手術結果をもたらしたりします。死亡させることさえあるのです。また、院内感染を起こした患者に行う特別な治療は、本来なら支払が生じることもなかった高額費用につながってゆきます。このように特別な費用が発生するかもしれないものとしては、

• 入院日数の延遷(えんせん)
• さらに手厚い治療
• 薬、包帯その他医材の使用量増加
• 特別な検査
• 手術のやり直し
• 特別な理学療法やリハビリ

これらの費用は病院予算の10%にも上ります。これから明らかなように、院内感染を起こした病院には莫大な費用がかかるため、適切な感染予防の方針があれば、院内感染によって生じる余計な費用の多くを節減できるのです。


-5.7.3 医療施設の役割

医療施設の大きな役割は地域社会に良質な医療を提供することですが、これには院内のそこかしこに存在する多くの病気が拡がるのを防ぐこととも関係しています。
以下の章では、増殖し惨禍(さんか)をもたらさんと機会を伺う病原菌の拡散を食い止める手立て、機器、手順について学びます。

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感染が拡大する危険をはらむ状況では、交差感染を根絶できるかどうかが鍵であり、それは器材を適正に再生処理することで実現できるのです。

手指衛生
医療施設で作業を行う時、ほとんどいつも手を使っています。それゆえ、手は汚染を拡大させる重大な経路なのです。手指衛生水準が高ければ、極めて効果的に汚染拡大に歯止めをかけられることが立証されています。手指衛生をしっかり行うと、汚染サイクルの「感染経路」の連鎖を断ち切ることができます(図5.17)。
普通、液体石鹸で手洗いしペーパータオルや回転タオルで拭き取るだけでも、手指衛生の対策として充分です。医療施設では患者治療の際に、普段の手指衛生以上の手順をきっちりと行うことが求められます。特に、汚染のおそれがより大きい場合(感染力が強い微生物が存在するとき)や、感染に対しての患者の感受性が増大しているとき(たとえば、手術後で患者が弱っているときや免疫システムの状態が優れないとき)です。このようなとき、必ずディスペンサー式液体石鹸とティッシュを使うことが推奨されています。また、手指消毒用アルコールも使用することがあります。手指消毒は創傷に触れる前後、汚染のおそれがあるものに触れた後に行います。菌に汚染された患者(もしくはその疑いのある者)や汚染されたものに接触したときも同様に毎回行います。中央材料室では、手指衛生として、ディスペンサー式液体石鹸、ペーパータオル、手指消毒用アルコールを使うことが推奨されています。
手の全体をしっかりと手洗いする手順(※11)は既に確立されています。

※11
オランダ、WIP(感染管理ワーキンググループ)のガイドライン” Hand hygiene for staff (Hospitals)”を参照。ダウンロードはコチラ

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メモ:
固形石鹸を使う場合、石鹸そのものが汚染され、感染拡大の経路となるおそれがあります。固形石鹸は病気の伝染を防ぐものと考えられていますが、感染拡大の経路にもなりうるのです。固形石鹸による感染を防ぐためには、肘で操作するディスペンサーを使うことをお勧めします。もしそれがかなわなければ、固形石鹸を流水でよくすすぎ、蛇口のノブもよく清浄します。

手洗いの手順は、手指のすみずみまでしっかりと洗いきるために設けられました。


5.8 本書の目的

本書では、感染の連鎖を断ち切るため、以下の方法につき特に論じます。

• 器材に付いた微生物を取り除き殺滅する方法(清浄、消毒、滅菌)
• こうした器材が再び汚染するのを防ぐ方法

院内感染を防ぐ他の方法もとても重要ですが・・、本書で論じるには紙幅(しふく)が足りないので割愛します。

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出典:医療現場の清浄と滅菌
この本の内容にご興味のある方はお問い合わせください。
株式会社 名優






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