見出し画像

1.はじめに

1.1 適正な感染管理を求める声が増している

病院やクリニックで患者の治療に使用されるあらゆる機器や医療材料は絶対的に安全なものでなければなりません。つまり、こうした機器や器材から病気が広がる危険性は最小限に抑えなければならないのです。この絶えず存在する病気の脅威と闘うために欠かせない方法が、洗浄、消毒、滅菌です。特に致命的な疾病AIDS(後天性免疫不全症候群)が世界中に拡がってからは、適正な感染管理を求める機運が一気に高まりました。また、汚染した手術器材を介して感染するB型肝炎などの病気の影響により、
ただ訳の分からないガイドラインを設けて、どのように実践したらよいかを明らにせず、現場の人たちを困惑させているのが現状。【所感】

1.1.1まとめ


1.2 本書が対象とする読者

本書は以下のような読者を対象に書かれました。

・中央材料部の技術者・監督責任者で、洗浄、消毒、滅菌の技術的説明をわかりやすく簡潔に理解したい人

・中央材料部の保守サービスや滅菌サービス業務の企画に関わる技術者

・発展途上国で、滅菌サービスの促進または開発に携わる人

そのほかにも洗浄器、滅菌器を実際に操作、メンテナンスするなど、滅菌供給業務に携わっている人すべてに読んで頂きたいと考えています。

滅菌の目的とは、医療機器を患者に対して安全に使用できるようにし、患者と作業者の双方にとって不用意に危険が降りかからないよう処理することです。「確実な安全性の保証」、これが滅菌に携わる者の責務です。

本書は、滅菌供給業務を適正に遂行するための情報を提供することを目的としています。

画像1


1.3 滅菌:広範なサイエンスや技術が出会う世界

医療機器や医療材料が間違いなく安全に滅菌されるためには、滅菌機を操作する者が熟練しており、滅菌機が安全な状態にあることが不可欠です。

職務をしっかりと遂行するためには、作業者は以下のような広範な知識が必要とされます。

・感染の原因となる生物の性質

・病気の拡大を予防するための手段

・病気を惹き起こす生物を殺滅する方法

・洗浄器、滅菌器の安全で正しい利用法

・洗浄器、滅菌器の構造と操作手順

・あらゆる種類の被滅菌物とその包装法、また被滅菌物が滅菌剤(蒸気)に曝露(ばくろ)した際におきる現象

・洗浄器、滅菌器の性能と確認方法

読者の皆さんが滅菌器の修理や保守を行う技術者であれば、適切な技術的サービスを提供するためにさらに以下のような高度な知識が求められます。

・滅菌器の個々の部品が果たす役割及び構造

・滅菌機の故障時の対処方法

・洗浄器、滅菌器の発注時、据え付け時の適切な助言内容

周知のとおり、滅菌とは、細菌学、医学、物理学、機械・電子工学、処理技術と言った多くのサイエンスや技術が出会う分野です。つまるところ、滅菌とは「生」そのものと真っ向から取り組む分野であり、私たち自身を護るために、生と死とが邂逅(かいこう)する世界なのです。私たち人間を含む生命、そのあらゆる活力や神秘に満ちた仕事なのです。

画像3


1.4 滅菌=難しい?

「滅菌」というと取りつきにくい感じがあるかもしれません。しかし、この本はページをめくらずにいられないよう、頭に入りやすいよう工夫を施しました。

・医学的な訓練や経験は必要としません。どのページであっても、関連する用語には説明が加えてあります。

・滅菌過程や機器の理解の助けとなる物理や工学の概念、原理は、初歩の初歩から解説しています。唯一の例外として、電気配線等が数カ所に掲載されていますが、電気配線図を正しく理解するには、基礎的な電気工学の知識が必要となります。

• わかりやすく読みやすい文章になるよう工夫しました。難解な言葉が使われているページでは、その意味を解説するか、意味が明らかになるような言葉づかいを心がけました。どうしても理解が進まない場合にも、本書巻末の用語解説が理解の助けとなります。

• 250点以上用意されたカラー図説、写真、グラフ、表が本文の理解を深めます。

本書は学校の教科書としても使えますし、皆さん方自身の独習のために使うこともできます。

画像6

1.5 本書の主題:湿熱(蒸気)による滅菌

本書は、中央材料部で利用されている滅菌方法のうち、もっとも一般的で安全な方法である高圧蒸気滅菌に主眼を置いています。その他の滅菌方法については、簡潔な解説にとどめていますが、さらに掘り下げた情報が必要な場合には、本書巻末に掲げた参考文献をご覧ください。


1.6 医療機器に関する法規:滅菌に関するISOおよび CEN規格

医療機器は、医療分野で重要な役割を担い、多かれ少なかれ患者や作業者を直接危険に晒すおそれがあるため、最低限の安全要件を満たすよう法整備がなされています。この法規では、安全性・公衆衛生・環境に関連したもっとも基本的な要求を規定し、それを「指令」として発令しています。ヨーロッパの法制では、「医療機器指令(MDD)」となっています。この指令によれば、滅菌器は医療機器の一種であって、指令の要求に正確に合致していなければなりません。

器材の滅菌は、いまや最高水準の安全性、工程や作動の品質管理が求められる究極の工学分野となりました。過去には、独自の異なった内容の法制を敷いた国が数多くありましたが、国際的な交易量やコミュニケーションが増大するにつれ、滅菌に関する規格を改良しようという機運が高まりました。その結果、国際標準化機構(ISO)内で技術部会を発足させ、滅菌についての国際規格(※1)を取りまとめることになったのです。関係する団体は欧州標準化委員会(CEN)です。

※1
蒸気滅菌に関する最も重要な規格は以下のとおりです。
EN285   大型蒸気滅菌器の要求事項
EN13060  小型蒸気滅菌器の要求事項
ENISO17665 医療器材の滅菌:医療器材の高圧蒸気滅菌工程の検証および日常管理に関する要求事項
EN556  医療器材の滅菌:医療器材に「滅菌済み」と表示するための要求事項

画像5

将来的には、より多くの国家が規格作成機関による指令や関連規格を採用するようになるでしょう。そうなれば、医療機器や医療手続きはそのガイドラインに準拠すべきことになります。しかしながら、指令は義務である一方、ISOやCENが作成した規格はあくまで任意に採用されるものという違いがあります。そして「CEN規格に準拠している」という事実は、欧州の立法に準拠していることを対外的に立証することになります。また、欧州規格には付属書(Annex)があり、そこでは規格内にある要求事項が欧州指令(特に「医療機器指令」(※2))に準拠する際、指令のどの部分をもとに規格が作成されているかを明示しています。指令や規格については 14章 で詳述します。

※2
Medical Device Directive (MDD)と呼ばれ、93/42EECの番号で知られています。


各国のISO機関

多くの国々では、標準化に関わる政府機関がISO関連業務に携わり、規格の翻訳や配布を行っています。

規格協会についての詳しい情報は、国ごとの協会のWebページを参照してください。


国家立法

通常、国ごとに医療機器や滅菌供給業務に関する法律があり、政府・自治体のWebサイトなどで情報を確認することができます。


1.7 遠隔地や被災地における滅菌法への提言

これまで見てきた規格による要求はたいへん厳しいため、水、電気、熟練技術者、高度技術のスペアパーツなどの物資・人的資源がままならない遠隔地においては必ずしも適切ではなく、また現実的でもありません。

しかしながら、限られた状況下であっても可能な限りガイドラインには沿うべきです。

画像6


=========

出典:医療現場の洗浄と滅菌

内容に関するお問い合わせは、株式会社名優まで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?