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「春画」に見る翻訳の難しさと面白さ

昨日放送されたタモリ倶楽部の「第1回春画脇役大賞」が話題ですね。

あいみょんさんが2015年に永青文庫で開催された春画展の図録を紹介していました。この春画展、当時はかなり大きな話題になりました。来場者数は4ヶ月間で20万人以上と、予想以上の大盛況だったもよう。私も見に行きましたが、こじんまりとした小さな美術館に長蛇の列! 芋洗い状態で春画を鑑賞しました。

実は、それに先駆けて開催された大英博物館での春画展を、2013年のロンドン滞在中に見ていたんです! たまたまタイミングよく見れてラッキー!

通っていた大学院が大英博物館の隣にあったので、ロンドン滞在中は本当に何度も通った博物館。入場料が無料なので大学院の課題に行き詰まると散歩がてらふらふらと。1階のエジプト・エリアが特にお気に入りでした。

このアルカイック・スマイルに何度癒されたことか。そういえば「アルカイック・スマイル」って言葉を初めて知ったのは『マスター・キートン』だったな。(NHKの「漫勉」がまた始まるのが楽しみ!)

そして春画展。学生料金5ポンドを払って中へ入ります。

夥しい数の春画が展示されていました。永青文庫は幾つかの部屋に分けて春画が展示されていましたが、こちらはものすごく広いフロアにずらりとありとあらゆる春画! まさに圧巻です。170点もの作品をロンドンに集めたことにも、それが大英博物館に展示されていることにも、とにかく「すごい…」の一言でした。

来場者はインテリっぽい感じの中高年層が多かった印象です。その時の男女比は男性7割・女性3割くらいだった気がしますが、全会期を通すと女性は約6割ほどいたようです。

この"Shunga"展、大英博物館、ロンドン大学の東洋アフリカ研究学院(SOAS)、国際日本文化研究センター(京都市)と立命館大学の4団体が共同プロジェクトとして3年半もの月日をかけて準備したとのこと。それぞれの作品についている解説もとても詳しく興味深いものでした。

なかでも面白かったのが、葛飾北斎の「蛸と海女」。有名な春画ですね。

設定もモチーフもクレイジーなんですが、なんといっても絵の周りに日本語で書かれている台詞!(詳しくはウィキペディアをご覧ください。)私が感心したのは、その台詞の英訳が絶妙なこと!
展示の解説ではこの台詞部分について、日本語とその英語訳の両方が書かれていたのですがその英訳が面白かったんです。

写真撮影は禁止だったので、購入したカタログから引用します。

海女の台詞です。             

ヱゝ、モゝウ、くすぐつたく(くすぐったく)なって、ぞつぞつと、こしにおぼへ(覚え)がなくなって、フゝゝゝウ、フゝゝゝウ。きり(切り)もさかい(境)もなくの、ヲゝヲゝヲゝ、いきつづけ(行き続け)だアな。アゝアゝアゝ、アレアレ、ソレソレ、ウゝゝくゝゝ、フンムフウム、ウゝウゝ、いゝヨいゝヨ。

(引用元:Wikipedia 「蛸と海女」

 そしてこちらが英訳版。

'Ee, moo, I'm becoming ticklish. One after another until I lose track fu, fu, fu, fuu, limits and boundaries are gone. Oo, oo, oo, I've come, anna, aaaaaa, there, here, here, uu, mu, mu, mu, fun, mufu, umu, uuuuu. Good...good!

(引用元:Buckland, R. 2010. Shunga: Erotic art in Japan. The British Museum Press.) 

翻訳した人、さすがプロですね〜。オノマトペは日本語の発音で残して雰囲気を出しておきながら、英語だけ読んでも意味は分かる感じで、絶妙だと思いました。

なんてったって、出だしの「ああ、もう」"Ee, moo"ですからね。天才か。

なんか面白すぎて、一人でニヤニヤと日本語と英語の対訳を長時間見比べてたら、気付いたら私の周りに他のお客さん(イギリス人)が5,6人くらい集まってきてました。ガランとしたフロアの一角で、「海女と蛸」の台詞を読むためにちょっとした人だかりができていて、なかなかシュールな光景…

以上、春画展で思いがけず日本語と英語の翻訳の難しさと面白さに触れた思い出でした。

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