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マジックの本を称賛するだけの文章(クリス・ケナー エキセントリック・マジック)

注意:この文章ではただ私が私の感じるままに、良書を褒めるだけの文章です。

クリス・ケナー エキセントリック・マジック

東京堂出版から販売された2019年に販売された『Totally Out of Control』の翻訳です。この本はコインマジックを語る上で欠かせない本となっています。

私の歴史観ですが、コインマジックはいくつかの代表的な書籍が存在します。
『Modern Coin Magic』(1952)
『Stars of Magic』(1961)
『CoinMagic』(1981)
『The Complete Works of Derek Dingle』(1982)
『Expert Coin Magic』(1985)
『Sankey Panky』(1986)
『Totally Out of Control』(1992)
『The Long Goodbye — Latta on Coins』(2017)

この他にも動画(1980年代には映像媒体が存在)やヨーロッパやアジアの書籍までを含めると、取り上げるべき本は数えきれない数があります。
しかし、北米のコインマジックで本に限った話で言うと、上記が最低限になると考えています。

今回の「クリス・ケナー エキセントリック・マジック」はその中の一冊が翻訳されたもので、現代のコインマジックにつながる現象やハンドリングが多く含まれています。その中でも特徴的なのは、そのビジュアルさだと感じています。これは1980年代後半に一世を風靡する奇抜な現象(オフビートな現象)からの発展であり、現象が目の前で起こることに注力したビジュアル派の興りではないかと思える現象が多く含まれています。
このビジュアルな現象に対するアプローチは、その後、動画文化に後押しされる形で現代まで綿々と続いています。

歴史的な観点からも重要な位置を占める本書ですが、掲載されている作品も新しいだけではなく実際に演じる上でも秀作揃いです。この文章ではコインマジックから「Hellbound」「スリーフライ」を紹介し、カードマジックからは「Sybil」に関連する作品を紹介しますが、当然、この他にも素晴らしい作品が多く掲載されています。

「Hellbound」は類似の作品を行う際に生まれる"悩みどころ"をうまく逆手にとった構成となっています。誰でもできるプレゼンテーションでは無いと思いますが、一読の価値があるものだと確信しています。構造という観点でもあまり使われていないものが活用されており、ワクワク度の高いものになっています。この作品を難易度で語られることを見ましたが、これは彼がレパートリーとして行うような作品であり、単に紙の上か、鏡の前にしか存在しないものだとは思ってほしくないと考えています。

また、本書を語る上で避けられないのが「スリーフライ」の原案です。最近ではVanishing Inc.のMasterclassでも語られている本作品のオリジナルの完成度は欠かせない本書の魅力になっています。もちろん、その後発表された作品の素晴らしさやオリジナルの何をどう変えたかったのかという意図は理解できますし、それらもそれぞれが素晴らしいものだと思います。しかし、サメ映画においてジョーズが外せないように、スリーフライにおいてクリス・ケナー氏のオリジナルを外してはいけないと言えるほどの作品になっています。私自身、オリジナルの完成度の高さに触れた際はとても感動しました。

本書にはカードの作品も掲載されており、その中でもSybilは現在のカーディストリの先駆けのような作品になっています。実際、本書の中にSybilに関連する作品はSybil、Sybil the trick、The Five Faces of Sybilの3作品が掲載されていますが、これらを見つけたときは書籍を追いかけるときにのみ生まれる「あった!」を感じさせてくれると同時に、有用性と新しさの高いバランスが実現されているように感じました。あまりこの手のフラリッシュは行われないという方も読んでいて損は無いと言えるものになっています。
今、「有用性」という言葉を使いましたが、本書を通じて掲載作品はいくつかの特徴が見えるようになっています。それは、彼が働いていた「イリュージョン」という環境を意識をしたものであり、時代の変化を踏まえたものであり、そして彼自身の表現となっています。

マジックの本を大別すると、入門書のように読者の知識や技術レベルに合わせた書籍、理論書のように知識の整理、新規性を追求した本、そして、本書のようにマジシャンに焦点を当てた本が存在します。このようにクリス・ケナー氏の表現となっている書籍は読んでいてとても楽しいものになっています。マジックの説明というだけではなく、自分には無い考え方に触れる機会であり、新しい知識を得る機会になっています。
そして、本書において彼らしさを感じる最大の点が本書の記載にあります。通常は各作品の成り立ちや歴史などのコメントから始まり、現象の紹介、説明と続きます。つまり、ともすると味気なく書籍を書くこともできてしまうのですが、本書はいたるところにジョークが散りばめられ、機知に富み、本全体を通じて変化の激しいものとなっています。この点も本書の魅力になっています。

また、本書には原書にはない『Magic Man Examiner』(1991 - 1992)が収録されているところも嬉しいつくりになっています。すでに絶版になっており、原著は入手困難であることから、日本語版を買うことでクリスさんが出された書籍の大半を読むことができます(無いとは思いますが、知られていないレクチャーノートがあるかもしれないので「全て」という言葉は避けています)。
『Magic Man Examiner』はクリス・ケナー、ホーマー・リワッグ、マイケル・ウェバー、リチャード・カウフマン、マック・キング、ジョン・カーニー、フィル・ゴールドスティン、トロイ・フーサーなどの作品・アイディア・技法が収録されています。この部分だけでも実際に原著を揃えようとすれば、この本の値段くらいになってしまいます。
お金について初めて触れますが、上記の全ての魅力が詰まっていると同時にその他の多くの作品が掲載されており、原著が絶版になっていることを考慮するとコスパの高い本であることは間違いありません。

本書の魅力を伝えきることは難しいと思いますが、短いながらも『クリス・ケナー エキセントリック・マジック』の紹介となります。この文章は決して書評ではありません。ただ褒めるだけの文章です。力不足ながらも、この本が持つ大きな魅力の一片を伝えられれば幸いです。


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