〝野良ガイド(?)〟に遭遇した話
某国の工作船が展示されている事で知られる横浜の海保資料館。そこで公式にはいないはずの〝解説スタッフ〟に遭遇したという話題が流れてきた。
美術館や博物館で、一見の来場客に対し、そのようなボランティア精神を発揮してくれる御仁 –––––〝自主解説員〟あるいは〝野良ガイド〟とも名付けるべきか ––––– をしばしば見かける。中には間違った情報を伝えていたりするケースも、となれば有難迷惑なハナシで、善意からか自己顕示欲からかはともかくとして、出来る事なら敬して遠ざかりたいものではある、が…
…何年前だろうか、クリスマス時期の横浜・山手界隈で恒例の洋館めぐり。
主だった洋館ではそれぞれ世界の国々のクリスマスを感じさせる飾り付けを楽しませてくれていた。
そのうちの一館であるベーリックホールでは、その年はカナダ関連の展示をしていて、テーブルのしつらえやら子供部屋の雑貨やらが色とりどりに並べられていた。
そんな展示を家族(母・妹)と眺めていると、ある一人の年配男性に声をかけられた。
「カナダって国はね…」
…と、その人物は、特にこちらが頼んでもいないのに展示物の解説を一席ブチはじめた。
はじめは「スタッフの人かな」と思い「はあそうですか」と聞き流していたのだが、どうも雰囲気がおかしい。展示内容というよりも「私は○年住んでいたんだけどね…」といったような、自慢めいた〝どうでもよい話〟が多いのである。
母も妹も、苦笑しながらもとりあえず「はい、はい…」と話を合わせて相槌を打っていた。
「東京オリンピックも近いから、簡単な英語でもやっとくといいですよ」
挨拶の言葉はどうこう、と得々と説明を続けるその御仁。
「そうですねぇ…」と相槌を打ちつつ視線を移すと、ふとその傍にあるスポーツ・チームの宣伝写真に目がとまった。
「あぁ、この写真のチームはケベックですね」
と思わず呟く。すると
「ほぉ、ご存知で」
「フランス語でそう書いてありますし」
「フランス語?え?…」
「ケベック州はフランス語が公用語でしたよね」
「………」
暫し沈黙。
ややあってその年配男性は、そこにあった件のチームの集合写真(パネル大)をやおら差し出し「これ持ってきなさい」と言う。
「え、いいんですか?」
「いいからいいから」
押し付けられて返す間もなく、その男性は別の来場客に声をかけに去っていった。
「いいの、これ?」と訝しげな妹に
「うん、まぁ… どうも紹介用の印刷物っぽいし」
同じものが複数枚あったようなので、多分配布可能な資料だったのだ、とは思う。他のスタッフに格別咎められることもなく、それはそのまま持って帰る事になったワケだが…
ベーリックホールを後にした道すがら、妹が一言。
「さっきの人だけど…」
「何?」
「…入館証とかスタッフ証、下げてた?」
「あ、そういえば…」
………
その持って帰ったパネル様の写真は、今も家のどこかにある。
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