見出し画像

mask 隠された真実



この問いに答えよ…  と彼は言った...

それは言葉のない呼びかけだった。
反転した意識から届く閃光のような姿なき声...

我と汝とのあいだに発現する時空とでも言うべき色彩を帯びた次元のなかで、それは私でもなく彼でもなく、私の背後にいるものと彼の背後に控えているものとが出遭ったのだ… ということを暗示させる響きを持った言葉のようなものとして発せられたものだった。

それは言葉でありながらも、言葉以前の禅問答を思わせる不思議な力を帯びて存在していた...我と汝の世界を大きく超えた磁場の中に発現した世界のように、それは身体を貫く磁力線に捕えられてゆく諍い難い静かな力を持っていた...

磁石がなければ磁力を感じることは無かったであろう世界に、とつぜん出現した原初的な磁力をもった響きは、その顔の下にあるものの影を浮かび上がらせようとしていた。

磁場のなかに透かした顔はその口で何を語ってきたのか...
問いの磁界のなかで、知は迷いの密林でしかないのかもしれない。
内奥のコンパスだけが反応するのは、隠されたものが自身のなかに在ることを暗示している。

視えない問いの磁場は、知という名の迷妄が人々の生気を吸い取り、不安の密林となって閉じ込めてゆく姿を描き出してゆく...知ですらないものに縋り付き踊らされてゆく狂気...問いを忘れた者ほど自身が掴んでいるものの正体を知らない...私たちはいま静かなる狂気のなかにいるのかもしれない..

我々が見ているのは誰かによって作られた虚妄の顔なのではないのか...
大地の磁場によって投げかけられた問いは、虚妄の顔を透かして見せる磁力線によって浮かび上がってくる影と、眼に見える姿との乖離を描き出してゆく...

この石は静かなる狂気に侵されてゆく私たちをずっと見ていたのだろうか...時代の迷妄をわたる私たちは、大地の力を借りなければならない時が来ているのかもしれない...

地上の不穏を敏感に感じ取っていたのは、我々以上に切実なこの大地だった...日常に成りすました静かなる狂気に翻弄されてゆく私たちに、空気に踊らされない真実を視る眼を、この大地は問うているのかもしれない...


27th   OASIS 2022   出展作品





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?