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「ラ・カンパネッラ」〜フランツ・リストの宗教的ピアノ曲

 フランツ・リストというと、悪魔に魂を売ったと噂された超絶技巧のヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニの演奏を聞いて感銘を受け、ピアノのパガニーニになると決心したという逸話があるように、超絶技巧のピアニスト・作曲家というイメージがあるが、じつは彼は宗教的な雰囲気に満ちた曲をたくさん書いている。

 リストは、演奏会での派手なパフォーマンスや華やかな女性関係とは裏腹に、晩年は僧籍に入ったほど敬虔なカトリック信者だったのだ。

 リストが書いた主な宗教的ピアノ曲には、『詩的で宗教的な調べ』や、小鳥に説教したアッシジのフランチェスコと波を渡ったパオラのフランチェスコという二人の聖人の伝説を音楽化した『伝説』、教会の鐘や宗教的な絵画・彫刻、ダンテの『神曲』からインスピレーションを受け、またエステ家の別荘にたたずむ糸杉や流れ落ちる噴水の水に宗教的感情を投影した『巡礼の年』などがある。

 また、『パガニーニによる大練習曲』の第三曲「ラ・カンパネッラ」はリストのピアノ曲の中でも特に有名で人気のあるものだが、これも派手な技巧の裏に宗教的な気分が秘められた曲である。

 そもそもラ・カンパネッラとは鐘を意味するイタリア語で、ここでは教会の鐘を指す。

 もうずいぶん前のことだが、わたしは大学院生だった頃、イギリスに滞在する機会があり、そのとき静かな町で教会の鐘の荘厳な音があたりに響き渡るの聞いて、あぁヨーロッパに、キリスト教の世界に来たのだなと感慨深く思ったものであった。

 話が逸れたが、つまりこの曲を弾くときにはこのような宗教的気分、この曲の持つ精神性をきちんと感じ取って表現できないといけない。

 だが、これができているピアニストは意外と多くはないように思われる。技術面では申し分ないが、リストの曲が持つ宗教的情熱や豊かな精神性があまり感じられない、そんな演奏がけっこうあるのだ。

 もちろん、「ラ・カンパネッラ」はかなりの難曲なので、演奏するには高い技術が必要だ。それをクリアするだけでも相当大変なことではある。けれどそれだけでは不十分なのだ。

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