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Rulkov Mapモデルによって株価変動からランダムネスを除外する実験①

前回の記事に引き続き、神経の活動電位を単純化した決定論的方程式で表すrulkov mapを利用した金融データ解析についての実験をおこなったので、備忘録として記しておきたい。また、同じアイデアを使って実験を行う人がいたらさらに研究が進むので、そういう人のためにも書いておく。もちろん、このアイデア自体が全くのナンセンスであることも十分あり得るので、その時は夏の自由研究の思い出として。

前回の記事では、ルルコフ写像によって金融時系列データをモデル化し、その際にカギになるのが写像内に埋め込まれた外生変数に影響を与える「パルス」であることを考察した。

x[n+1] = f(x[n], y[n] + beta[n], alpha)
y[n+1] = y[n] - mu * (x[n+1] + 1) + mu * delta[n]
beta[n] = beta_star * I[n]
delta[n] = delta_star * I[n]

ここで考察するRulkov mapは、上記の式で定義される。
ここにおいてβ(n)とδ(n)を支配するのはI(n)というパルス関数であり、ここにランダム性(実際の株価変動においてはファンダメンタルズである程度予測が可能?)が集約されている。つまり、x(n)およびy(n)は決定論的にシミュレーション可能である。

ここで、株価のボラティリティ予測で標準的に用いられているGARCHモデルと比較してみたい。分散項に自己相関を盛り込んだGARCHモデルは、かなりの精度で株価データを類似することが可能であり、しかも実際の株価のログリターンのデータからパラメータ推定によってモデルに落とし込み、ある程度の予測に役立てることが実用化されている。これはすごいことだ。

ところが実際にはGARCHモデルは、ボラティリティの予測をすることしかできない。なぜなら、データの変動からランダムネスを分離することができていないからだ。すなわち、「どのくらい上がるか、下がるか」の絶対値を予想することはできても、肝心の「上がるか、下がるか」を予言することができない。これは確率論を中心に組み立てたモデルの決定的な欠陥である。

Rulkov mapを使ったモデル化の優位性がここで明らかになる。Rulkov mapにおいては、外生変数のランダムネスが、決定論的カオスとしてのx, yという内内生変数から分離されている。すなわち、ランダムな外生変数の完全な「歴史」を推定することができれば、次にサイコロを投げた時にxとyが振る舞う決定論的な挙動を相当な精度で予測することができる。もちろん、サイコロの目が何になるかは結局のところわからない(経済統計の数値がどう出るか、突然の戦争の勃発による相場環境の激変など)。これが相場のランダムネスである。しかし、そのランダムネスに、カオスがどのように反応するかは予測できる。そして、予想されうる範囲の一定の帯域のランダムネスに対して常に同じような反応をカオスが見せるような時、それは「決定した未来」になる。

実験からの実例

上記は、あるI(n)をランダムに生成し、それを逆さまにしたI*(n)でシミュレーションした場合のx(n)の振る舞いを比較したものである。大まかな挙動としては、I(n)が正反対の結果を示すことでx(n)も正反対の結果を示しているが、一部のスポットではI(n)の値に関わりなくx(n)が同方向に触れている箇所が見つかる。こうしたことが起きる時、ランダムネスにかかわらずカオスは同じ振る舞いを示しているといえる。

ここで2点の問題点が浮上する。
①I(n)の過去の挙動はどの程度の長期間にわたってx(n)の挙動に影響を与えるか?
②のI(n)を1と0の値しか取らない数列と仮定する場合と、1と0の間の任意の有利数値を取るランダムな数列と仮定する場合に、どのような違いが生まれるか?
③②の場合の前者だと仮定したとしても、I(n)を推定するためには実際には2のn乗の組み合わせを試して元データとの適合度を比較する必要があるが、このプロセスはあまりにも膨大なので、どうにかして簡単な操作に縮約したい。どのような方法が考えられるか?

上記2点についての検証が必要だが、もしこのアプローチに一定の妥当性が見込める場合、どれほどの時間をかけたとしてもこのランダムネスのヒストリーを可能な限り長期間にわたって推定する作業には価値がある。なぜなら、一度そのヒストリーが掴めて仕舞えば、あとはその「先端部分」を更新し続けるだけで常に正しい予測が行えるからである。

上記③の実験結果が出たら、またこの自由研究の続編として備忘録を記す予定だ。もし関心のある方がいたら、ぜひ研究結果を教えてほしい。

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