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揮発性

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書いたおはなし。
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#シナリオ

【おはなし】雲をかたづける

【おはなし】雲をかたづける

 たとえば誰かが頭の中で空想をする。

 多くの場合、それは白くてもこもこしたキャンバスの中に形成され、まとめて頭の斜め上辺りに出力される。ホワンホワン〜というSEが付いてくることもある。

 授業中の妄想も、コンクールで優勝する夢も、書きかけの台本も作り途中の舞台の構想も、この白いもこもこの中に展開される。

 空想が途切れたあと、このもこもこは頭から離れ、イメージを抱えたまま空に昇っていく。空

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【おはなし】天国のモフモフ

【おはなし】天国のモフモフ

 「よし、そろそろ行こうか」
 レネが僕の先を歩いていく。

 庭の花壇にはたくさんの種類の花が植えられていたけど、すべて枯れてしまっている。

 庭を出て町を抜けて酉の方角へ向かうと、森に入る。森の中を少し進むとやがて■■■■の白い巨大な体が見えてくる。

 そいつは体を丸めて、目を閉じたままじっとして動かない。胴体の高さは僕の背丈の倍はあるだろうか。顔の大きさは、両手を広げても足りない。
 顔

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【おはなし】それぞれ

【おはなし】それぞれ

 人が発する言葉が、すべて文字で見えるようになった。
 みんなの唇から次々と出てくる黒い明朝体の文字は、煙のように出てきては消えていく。

 あんまり小さい声の時は色が薄く、大きな声の時は色も濃い。煙の性質上、口から生み出された文字は後から出てくる文字とぶつかり合って、顔の前の方に溜まっては消えて行く。短い単語なら何とか読み取れる場合もあるが、文章になるとぐちゃぐちゃして殆ど読めない。

 「卡め

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【おはなし】或る言葉の居場所について

【おはなし】或る言葉の居場所について

 町の端っこにはこの家以外には建物がない。
 周りを背の高い林に囲まれていて、ここに近づく人はほとんどいなかった。

 生い茂る木々の間にぽつんと隠れるように立っている小さな屋根の家。
 そこからコーヒーの匂いが漂ってきて、確かに人が住んでいるのだとわかる。

 扉を開けると室内は机と椅子があるだけの空間と、壁ぎわには本が高く積み上げられている。薄暗い部屋の中に窓から細く差し込む光で、舞ったほこり

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