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『からすのパンやさん』の生存戦略

「子供のころ好きだった絵本は?」という問いかけに、
「からすのパンやさん」と答える人は少なくないのではないでしょうか?

私もそのひとりで、かわいいカラスの家族が営むパン屋さんやたくさんの種類のパンがぎっしりつまったページにわくわくした気持ちを今でも覚えています。初版から50年近くたった今でも、児童書のコーナーに平積みされている伝説の1冊です。

しかし、最近改めて読み返してみた『からすのパンやさん』は
ただただほのぼのとするかわいいお話ではなかった?!
大人がハッとする、5つのポイントがありました。

①苦労が絶えないカラスのご夫婦。

いずみがもりでパン屋を営むカラスの夫婦は決して順風満帆ではなく、
慣れない四つ子の子育てに翻弄され、お店の経営にも影響が出始めます。

お客さんへの対応が遅れたり、店舗の掃除が行き届かなくなったり、生焼けや丸焦げのパンを作ってしまったり。
徐々に客足が遠のいて貧しくなってしまいます。
しかし、お店が忙しかろうが、貧しくなろうが、逆境のなかでもいつだって子供たちへのケアを最優先にしていました。
(後に、そんな一家のピンチを救うきっかけを作ったのは、大切に育てた4羽の子供達でした。)

②100点満点じゃない子育て

カラスの夫婦は商品にならない失敗作の丸焦げのパン、生焼けのパンを
自分の子供たちにおやつ代わりに食べさせます(笑)
実際に同じことをやってしまうのはアウトだと思いますが😂、子育てと仕事の完璧な両立を描いていないところにも励まされる自分がいました。

子供達も「そうさ、これはせかいじゅうでおとうさんしかやけない、めずらしいおやつパンなんだぞ」と失敗作のパンを好意的に思ってくれています。
(実際ちょっと苦いけど、こうばしい味がおいしいらしい笑)

世界にひとつだけのパン。いつかのSMAPの歌みたいでもあります。

③1973年代前半、作者はイクメンの登場を予感していた?!

子供たちをお世話するのは母カラスだけではありません。
父カラスと母カラスで家事も仕事も半分こして取り組んでいました。
この時代に、この家庭の姿はかなり斬新なのでは?!と思い調べてみたところ、1970年代前半は日本で初めてウーマン・リブ大会という女性解放運動がおこった時期で、作者のかこさとしさんは女性が社会進出し、男性も家事に関わることが当たり前になる時代を予感していたのかもしれません。

実際にからすのパンやに関する過去のインタビューにおいて、ご本人も20年後の未来にも通用するような作品を作りたいと思って絵本を作っていることをお話されていました。

④商機を逃さず、集団心理も利用する賢いカラス。

子供たちのおかげで掴んだ再起のチャンス。
客足が遠のいていたお店に、たくさんのカラスの子供たちがおやつパンをもとめてやってくるものの、値段が高い、お店が汚い、もっと種類が欲しいなどクレームや要望をいただきます。
一家がちょっぴり悲しげに反省会をしているようなイラストもありますが、立ち止まることなく顧客の意見を受けて即時改善。
カラスの子供たちを喜ばせるために、わが子のアイデアも積極的に取り入れて商品開発を行います。ご夫婦の子供たちの意見を軽視せず、積極的に取り入れる柔軟性も素晴らしいと思いました。

また、早とちりの大人たちによって引き起こされた事件によって購買意欲のない大群衆がパン屋におしかけますが、1人3個までの購入制限を設けつつ、
3個買う人の列、2個買う人の列、1個買う人の列、買わずに見学する列を作るように群衆に呼びかけます。
すると、カオスだった群衆が一斉にきちんと整列し始めるし、不思議なことに買わずに見学するカラスは誰もいなかったとのこと、、(笑)
日本人の集団心理を描き出しているし、そういう集団心理をとっさに利用するカラスはやっぱり賢いなと思いました。

⑤多様性を受け入れるとは

よんわとも そろって、ちいちゃくて、
かわいい あかちゃんでしたが、
からだの いろが くろでは なくて、
みんな ちがった いろをしていました。
それでも、からすのおとうさんとおかあさんは、
にこにこ うれしくて、

からすのパンやさん

周りの子や自分たちとは違った容姿で生まれてこようが、我が子はかわいい。
一羽一羽の個性を大切に描かれた、いずみがもりのバリエーション豊富なカラス達。
生焼けやこげたパンもすんなり受け入れるカラス達。
子供たちの意見をすぐに取り入れるカラスの夫婦。

読み手が意味を持たせすぎかもしれませんが、『カラスはこうあるべき』『パンはこうあるべき』と、自分の中の正しさを押し付けていない世界も居心地がいいなと感じました。色が違うからと特別視されるわけでもなく、他人の意見もそうなのかもねと、するっと受け止め、時に受け流せるような受容できる私たちでありたいです。

【まとめ】『からすのパンや』は令和の日本のバイブルかもしれない。

忙しい毎日のなかで、子供との時間も仕事に圧迫されて「お金がないと何も始まらないんだから。子供たちにいいものを食べさせるためにお仕事をがんばってるんだから!!」と気張ったり、『これはこうあるべき』という自分の常識を他人にもつい当てはめてしまうパターンが多いのが昨今の日本社会じゃないかなと感じていますが、無理やり伸びしろを増やそうとしている資本主義経済のなかで、経済的に豊かになることを第一にめざすのが本当の豊かさの実現につながるのか。
(最終的に一家はパン屋の経営も成功していますが)豊かさや幸せとは分かりやすい経済的な成功をめざすだけでは実現はできないのかもしれないと、からすのパンやの家族との向き合い方から考えさせられました。

初版から50年たった今でも私たちにハッとするような問いかけをくれる、子供が読んでも、大人が読んでも面白い絵本ですね。


メモ
紙粘土や本物の生地でからすのパンやごっこをしたい。


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