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僕とThe Black Crowes

はじめに

第一印象はさして良くなかった。正直物足りなさも感じた。それなのに、"Gotcha moving, gotcha moving"というフレーズが頭から離れなくなった15歳のあの日から、僕の一番好きなバンドの座はずっと、ずっと彼らのものになっている。

「The Black Crowesが17年ぶりに日本にやってくる」

この事実が僕にとってどれだけの意味を持つものなのか伝えたくて久々にnoteの編集画面を開いた。これはThe Black Crowesの話ではない。これは"僕とThe Black Crowes"の話だ。彼らの魅力を語り尽くすことはできるが、ここではあくまで僕の個人的な思い出を記す。

出会い

僕が音楽を主体的に聴くようになったのは中学生の頃。Bon Joviをきっかけに、ハードロック、ヘビーメタルを愛聴するようになった。当時ハマっていたバンドの1つがSilvertide。デビューアルバムの『Show and Tell』のライナーノーツで同系列のバンドとして紹介されたのがThe Black Crowesだった。当時はサブスクもYouTubeもなく、お金のない中学生の頼りはレンタルショップだった。早速ベストアルバム『Greatest Hits 1990-1999』のCDを借りたが、当時の僕が期待していたハードさ、ヘビーさは感じられず、物足りなさが残った。CD-Rに焼いたものの、あまり聴くこともないまま棚の中に眠ることになった。

しばらく経って、なぜか頭の中で繰り返し"Gotcha moving, gotcha moving"というフレーズが流れるようになった。誰かの曲のフレーズだと思うが、なかなか思い出せない……そんな日々が続き、ふとした拍子にそれがThe Black Crowesの「Go Faster」という曲であることに思い当たった。久々に聴いた僕の耳に、The Black Crowesの音楽はとても心地よく入ってきた。ちょうどAerosmithの『Honkin' on Bobo』というアルバムをきっかけに、ブルーズやブルーズロックにハマり始めた頃でもあった。

そこからは速かった。

ベストアルバム以外の作品もどんどん借りて、のめり込んだ。特に『By Your Side』は文字通り毎日、何回も何回も聴き返した。中学3年生だった僕は、「今日のヘビロテ」として、頭の中でその日一番よく流れていた曲をメモしていた。中3の後半、そのメモはほぼThe Black Crowesの曲で埋まった。

活動休止、再開、休止

僕が好きになったときには、The Black Crowesは活動休止中だった。それでも2005年に復活すると、Summer Sonicに出演するために来日した。当時僕は高校生。お小遣い制でお金もない上、野球部の練習で忙しく、観に行こうという発想すら起きなかった。そして、残念ながらそれ以降彼らが来日公演することはなかった。

2008年3月。僕が好きになってから初めて、彼らはオリジナルアルバムをリリースした。『Warpaint』。僕はこのアルバムを大学の後期試験の帰りに買った。「落ちたな」という実感を慰めてくれる作品だった。「Wounded Bird」という曲が、浪人期間中を、いや、それからの人生の苦しいときを支えてくれた。"Need no wings, just set your mind to fly(翼はいらない、飛ぶ気持ちさえあれば)"という歌詞を何度も口にして自分を奮い立たせた。スライドギターが光るアウトロは、傷ついた鳥が何度も堕ちそうになりながらも必死に羽ばたき、最後には軌道に乗ってどこまでも自由に飛んでいく姿を連想させた。僕はその鳥に自分を重ね、落ち込んだときを乗り切った。

現役では届かなかった大学に、一浪の末に入学した。そこで初めて音楽の趣味が合う友達に出会った。『Before the Frost… Until the Freeze』が2009年に発売されると、その友達と大興奮で素晴らしさを語り合った。バイトを始めてお金が出来て、これまでレンタルしていたCDも、改めて全作品購入し直した。

ジャズやR&B、ファンクやヒップホップといった音楽も聴くようになり、好きなアーティストランキングの2位以下はコロコロと変わるようになったが、1位だけは一度も変わることがなかった。

The Black Crowesは、特別なのだ。

大学生になってから、自由にライブを観に行くようになった。社会人になると、大阪から東京、横浜、新潟にもライブを観に行くようになった。The Black Crowesのためなら、アメリカまで飛んでもいいと思っていた。

しかし、その頃には、彼らは活動を休止し、解散していた。

アメリカでの思い出

2017年11月。会社から有休をしっかり取得するようにお達しが出て、1週間まるごと休みを取ることになった。せっかくだからと、これまで行ったことがなかった海外に1人で行くことにした。行き先はアメリカ。主目的はライブを観に行くこと。3組のライブを観に行くために、スケジュールを組んだ。

Chris Robinson Brotherhood、Kamasi Washington、そしてThe Magpie Salute。

Kamasi Washington以外の2組は、The Black Crowesに関係するバンドだった。Chris Robinson Brotherhoodは、名前の通りThe Black Crowesのボーカル、Chris Robinsonのバンド。The Magpie Saluteは、Chrisの弟であり、The Black CrowesのギタリストであるRich Robinsonが組んだバンドだった。

両者ともに、他にも元The Black Crowesのメンバーがいた。Chris Robinson BrotherhoodはThe Black Crowesの曲は演奏しなかったが、Chrisの声を生で聴くことができただけで感激だった。The Magpie Saluteは逆にThe Black Crowesの曲を数多く演奏してくれた。旅の終わりに聴く「Wiser Time」は驚くほど心に沁みた。しかし、Chrisの声の不在が際立った。

Chris Robinson
The Magpie Salute


2018年9月。思い立って仕事を辞めて、インターンシップ制度を使ってアメリカで働くことにした。1年半をロサンゼルスで暮らした。その間、Chris Robinsonを観る機会が3回あった。

1度目は、ロサンゼルスにChris Robinson Brotherhoodが来たとき。Meet & Greet付きのVIPチケットを買って、ワクワクしながら会場に向かった。握手しながら、これまでの思いの丈をぶつけるのだ。英語で話す言葉を何度もシミュレーションした。

しかし、到着すると様子がおかしかった。どうやら、チケット会社からの案内メールに書かれていた集合時間が間違っていたようで、到着したときにはすでにMeet & Greetが終わっていた。

必死になった僕は、親切なファンに教えてもらい、ツアーマネジャーを見つけて事情を説明した。これからMeet & Greetすることはできないから特典のプレゼントだけあげる、返金できるかもしれないから、メールのスクリーンショットを撮ってテキストメッセージで送ってくれ、そう言われたので電話番号を聞き、言われた通りにメッセージを送った。ひとまず気持ちを切り替えて、その日のライブは目一杯楽しんだ。

数日後、休みの日に車で2時間ほどの距離にあるサンタバーバラでChris Robinson Brotherhoodのライブがあることを知った。「これだ」と思った。僕の手元にはツアーマネジャーの連絡先がある。サンタバーバラまで観に行くから、この前できなかったMeet & Greetをさせてくれないか、と交渉した。「特典のプレゼントはもうあげられないけど、いいよ」と返信が来た。

サンタバーバラでひとつの夢が叶った。Chrisとついにご対面を果たし、握手し、写真を撮り、熱い気持ちを伝えた。さらに、思わぬ出来事があった。外で並んでいるときに、日本人に声をかけられた。意気投合してこれまでの経緯を語ると、彼は「よかったら…」と驚きの提案をしてくれた。最上級のVIPチケットを持っていた彼は、その特典であるステージ横からのライブ鑑賞の権利を僕に譲ってくれたのだ。忘れられない、これ以上ない夜だった。

Chris Robinson BrotherhoodとのMeet & Greet
ステージ横からのライブ

そして、最後の1回はChris Robinson Brotherhoodではなく、As the Crow FliesとしてBeachLife Festivalに来たときだった。このバンド、Chris Robinson Brotherhoodと違って、ChrisがThe Black Crowesの曲をやるために作ったバンド。つまり、僕はついにChrisが歌うThe Black Crowesを観ることができたのだ。Richのギターも、Steve Gormanのドラムもないけど、これまでで一番The Black Crowesに近いものが観られた。震えた。泣いた。中学生だった僕は、このとき30歳に近づいていた。

As the Crow Flies

再結成

2019年11月。The Black Crowesの再結成が発表された。ChrisとRich以外のメンバーは昔と全然違うけど、それでも兄弟揃ったThe Black Crowesが戻ってくる。ツアーが始まるころには僕はもう日本に帰っている時期だけど、またアメリカにだって飛んで行く。そんなつもりでワクワクしていた。

コロナ禍がやってきた。

日本には無事帰国できたが、The Black Crowesのツアーは延期となり、再開してもアメリカに観に行くのは容易ではなくなった。

待ち望んでいる間、元ドラマーのSteve Gormanが書いた自伝をKindleで買って読んだ。Robinson兄弟の次にThe Black Crowesに欠かせないSteveが、バンドに戻ってくるのは難しいだろうことを悟った。

Steve Gormanの自伝

2022年6月。17年ぶりの来日公演が発表された。チケットは抽選だったが、なぜか外れる気は全くしなかった。予想通り、一発で当選した。

2022年11月。大ファンになってから18年の時を経て、ようやくThe Black Crowesのライブを拝むことができる。気がつけば、人生の半分以上の時間を、一番好きなバンドとして支えてきてくれた。あっという間に終わってしまうだろうが、1秒も無駄にせず、五感全てで味わいたい。

The Black Crowesは、特別なのだ。

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