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宇宙に鳴る潮騒

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宇宙に憧れ、星を愛し、それを糧として生きる人たちの群像劇です。少しずつ更新していきます。少し、切ない。そんな気分になりたいときにおすすめです。一話完結ですのでお気軽にどうぞ。
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記事一覧

真実のロマンチスト

私がその店に足を踏み入れると、今しばらく終電までの時間を楽しみたい男女で込み合っていた。…

星見さとこ
2か月前
2

想い人の彼

「ただいま。」  玄関からリビングに抜けると私はそのままソファーに突っ伏して倒れこんだ。…

星見さとこ
2か月前
2

光の速さで

 私は星空ツアーガイドを生業にしている。  地域のキャンプ場や文化施設、学校の課外授業な…

星見さとこ
2か月前
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抜けぬ太刀

さて、快刀乱麻を断つ、などと言いますが。 これはよく切れる刀で、複雑にからまった麻を切る…

星見さとこ
2か月前
3

二重スリットの彼女

その日、彼女がふたり来た。 「ごめんねー、待った?」「服選んでたら遅くなっちゃった」 小…

星見さとこ
3か月前
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星のラブレター

私は古い灯台の上にいた。写真部の私は星空の写真が撮りたくて、新月の夜にはこうして家を抜け…

星見さとこ
3か月前
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私の先輩

ゼミの懇親会の帰り道、先輩とキスをした。何故それに至ったのか覚えていない。 何か口論になって、最後に感極まってキスした記憶だけがはっきりとしている。どちらかというと、私から迫った気がしないでもない。 これはまずい。やってしまった。まるで思い出せない。 洗面台の鏡に映るぼさぼさの髪を前に、私は葛藤していた。この状況、どうしたらいいんだろう。すごく学校に行き辛い。どんな顔して先輩に逢えばいいのか。二十歳も超えて、なんて流されやすく不甲斐ないんだろうと自戒する。はぁ。 まずもって

私を月に連れてって

背が高いのは、私のコンプレックスだった。 小学校に入った頃から席は一番後ろで、中学に入っ…

星見さとこ
3か月前
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友達のロケット

ここは海沿いの小さな町だ。随所古びてはいたが、漁師町として今でも活気がある。 魚市場を中…

星見さとこ
4か月前
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空の向こうの彼女

妻は私の弾くピアノを愛してくれた。しかし彼女はもういない。 私はピアニストだ。駅や空港、…

星見さとこ
4か月前
1

祖父の空

私の祖父はかつて空軍のパイロットだった。 私が物心つく頃には現役の飛行機乗りを退いていた…

星見さとこ
4か月前
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投影機が照らすもの

学芸員の彼は小さなプラネタリウムに勤めている。 ベッドタウンの脇に建てられたその施設は、…

星見さとこ
4か月前
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星占いは嘘をつく

 少女は朝から極めて上機嫌だった。気が付けば鼻歌交じりで制服のブレザーに袖を通している。…

星見さとこ
4か月前

レンズの先に

 私は天体望遠鏡の修理職人として働いている。小さな工房を構えて、個人や団体からの依頼を受けている。  仕事は好きだが、本当は天文学者になりたかった。幼い頃から星や宇宙に興味を持ち、夜空を眺めるのが好きだった。しかし、家庭の事情で大学に進学できず、修理職人として働くことになった。それでも仕事を通じて様々な天体望遠鏡や光学機器に触れることができるのは幸せだと思っている。  でも、時々自分の夢を諦めたことに対する後悔や不満も抱えてしまう。  初夏のある日、いつものように工房で積ま