【三題小説】胃カメラ、電球、反抗期
味がしない。
いや、喉を通らない。
リビングには24インチのテレビがあって、大音量でバラエティ番組が流れている。
テレビから漏れる気の抜けたコメントに妻は大笑いして、口からビーフンを吹き出した。
「きったねな、呑気にしてんじゃねよ!ババア!」
反抗期真っ盛りの高校生の息子は、母親に怒鳴った。
それでも、ご馳走様、と行儀良く言い放った息子は、ビーフンが半分残った食器をそのままに、自分の部屋に戻っていく。
「やあねえ、もう、カリカリして、なんなの?」
テレビのボリュームを落とし、妻は私を見た。
「ねえあなた、ごはん食べないなら、トイレの電球替えてくれない?」
私の健診の結果が悪くて、再検査になった。もう一回胃カメラ呑まないといけないのが嫌だとぼやいていたら、ついでに私も受けようかしら、なんて呑気に再検査先の大学病院に、妻も予約して向かった。
何故か妻は手慣れた様子で受付を済まし、私を送り出す。
最近飲み会続きで荒れてたため、影が見えたらしいが、再検査の結果、問題なし。
「よかったわ、何ごともなくって。」
その後、また大学病院へ行くとは思いもしなかった。
妻が、再検査先の大学病院に通院していた。
私の同行じゃなかったのだ。
切れかけの電球を外すとまだ暖かい。
私は暗いトイレで嗚咽を漏らした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?