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句養物語エクストラ 月影の小部屋

皆様、大変お待たせしております。


例の小説紛いのアレの読後企画、句養物語エクストラでございます。AだのBだの申しておりましたが、今回はAでございますね。


えーと、Aは何でしたっけ?ああ、そうそう。アンサー俳句でしたね。…AってアンサーのAなの?


一応「月影の小部屋」というタイトルがついてましたが、もうどうでもいいですね。早速応募作品を見てみましょうか。


あ、でもその前に、アンサー俳句の例を一つご紹介したいのです。実は劇中の句のいくつかは、こっそりアンサー句になっていたりしますが、どうしてもこれだけは見て欲しかった!というわけで、こちら。



真夜中の月ニケ像へ集う彼我

(みづちみわ)


月影や脳死は永き終の頁

(太郎)



みわっちさんの句、劇中では猫のたま子がラジオで金曜に読まれた設定で登場していました。真夜中、頭のないニケ像に何かが集まってきていて、月明かりだけがそれを見ているという、一読してセンスしか感じない名句です。これは花野編の途中で出てくるので、作者的にはボチボチ蓑虫編の流れをどうするか、考え始めていたところでした。手元に蓑虫の没句(蓑虫や父は脳死のまま生きて)があったので、ラストシーンへの展開の大ヒントになったといういわけです。ついでに、こうしてみたら、もっと分かります。



真夜中の月ニケ像へ集う彼我

(みづちみわ)


月影や脳死は永き終の頁

(太郎)


脳眠る綺麗なままの月ですか

(明美)



明美は太郎の句に対して返事をしていましたが、作者的にはこの流れです。みわっちさん→明美の流れでもいいですね。一時期、アンサー俳句を繋いでいくっていうのを、チェーン俳句と呼んだりしていた事もありました。超面白いし、やり出すとキリがないんでやりませんけどね。。


前置きが長くなりましたが、本編の俳句のご紹介に移ります。拙いながらも、寸評を付けさせて頂きましたので、あわせてご覧下さいませ。


※なお、小説の読後企画という特性上、追加のご参加があった場合は、その都度更新させて頂きます。追加情報については、基本的には先頭に追記していきますので、ご了承下さい。



火の粉めく詩の鱗粉や春夕焼

(恵勇)


詩のようにゆっくり積もる落葉かな

(ヒマラヤで平謝り)


原句は春の季語であるのに対して、アンサー句は冬の季語です。しかし、このアンサー、順番を逆にして考えると、かなりしっくり来ると思います。冬の間に積もった落葉は、やがて腐っていき、土壌を強くしてくれるのです。あの時、舞い落ちる落ち葉に乗って土へと吸い込まれて行った詩の欠片は、春の訪れと共に、肥沃な大地より再び湧き上がるのです。

※こちらの原句は、本編ではなく読後企画のリプライズの中に登場したものです。



流れ星ぼくのウルトラマンはどこ

(みづちみわ)


銀杏散るきみのウルトラマンだつた

(梵庸子)


一筋の流れ星へ願いを込めた少年は、あくる日、落葉した銀杏で埋め尽くされた並木道に一人で立っていた。もし昨晩、流れ星に「散らないで欲しい」とお願いしていたなら、この銀杏は散らずに済んだだろうか。また一枚、また一枚と、銀杏の葉はこの手をすり抜けて落ちていく。ぼくが助けた君は、もうここにはいない。



コスモスに吹く風君のせいじゃない
(太郎)

遊園地は季節外れの猛暑にて
(里山子)


劇中で二人の出会いを切り取った句として出てくる原句に対して、猛暑という季語を夏以外の季節で使うという、かなりのチャレンジ句をぶつけています。これはアンサー俳句が必ずペアで存在していることを、逆手に取った手法と言えます。単独ではどの季節かを特定させる事が難しいからです。コスモスが咲いているので、残暑の時期よりももっと後なのかもしれないですね。コスモスに吹いてくる風は、暑さを和らげてくれたかもしれないし、何かの熱を帯びてじりじりとその身を焦がしていたのかもしれません。




風のままさやさやうたう花野かな
(染め物屋)

花野風ビッグになりたかったぼく
(里山子)


風に吹かれるまま、自由に歌う花たちの日常を描いた原句。それに対してアンサー句は、一人の少年像を付しています。果たしてこの少年は、歩いているのでしょうか。それとも立ち尽くしているのでしょうか。もしくは少年の心のままで、大人としてこの花野へ戻ってきて、風に乗ってくる歌の中で、自分を肯定しているのでしょうか。



流れ星或いはタイムマシン哉

(たろりずむ)


星流る昔の俺の夢乗せて

(山川腎茶)


アンサー句の「昔の俺の夢」がある事によって、原句の「或いは」が一気に現実味を帯びて来ますね。果たして「俺」は過去に追いかけていた夢を、今も追い続けているのでしょうか。





流れ星消えては生まる星の界や

(れな)


星流れ双子は同じ夢を見る

(山川腎茶)


悠久の時の流れを湛える惑星も、宇宙規模で見ると実は儚いものであるという原句。それに対して、アンサー句は「双子の同じ夢」を添えました。この双子が赤ん坊なら、すぐそばで並んで見ている夢かもしれません。大人になって別々の世界で生きている双子でさえ、その夢は遠いようですぐそばにあるのかもしれません。





流れ星背負う願いの重かろう

(猫髭かほり)


願い叶えて星飛ぶや己がため

(鈴白菜実)


流れ星を擬人化した原句ですが、ピントは託された願いの方へフォーカスされています。それに対してアンサー句は、流れ星が願いを叶えるのは、翻って自分の為であると説いています。どちらも擬人化が上手いですが、少し視点を変えて、互いの句の鑑賞を深めているように感じます。





花野へはひとりぼっちが丁度いい

(猫髭かほり)


流れ星小石ける孤独の君へ

(大山和水)


「花野へは」と道程を示している原句。それは一定の時間表現でもあります。ずっと一人で小石を蹴っていた「君」は咲き乱れる花々を満喫したのち、一筋の流れ星を見つけてしまうのでした。これだけで、ほぼ小説みたいですね。





秋蝶を閉じ込める灰色の空

(常幸龍BCAD)


てふてふよ舞へよこの星飽きるまで

(大山和水)


これは実に印象深いペアになりました。両者が表現している事は、真逆のように見えて、根源的には同じです。蝶を閉じ込めた空とは、この星の外周のようなものです。原句で閉鎖的に思えた空に、果てしない開放感を与えたアンサー句となりました。





正解を言ったら消える秋の蝶

(里山子)


間違いを気づけた朝の夏の蝶

(ヒマラヤで平謝り)


正解したのに消えちゃう謎システムを導入していた原句に対して、アンサー句はそのシステムを踏襲しつつも、一年という歳月をかけて、何らかの正解へと辿り着きました。その時には既に季節が移ろっており、蝶は消えずに済んだのです。





流星に縫い合わされてゆく二人

(??)


朝月の薔薇やてふてふ巡り合う  (直)


流星に縫合される二人は、決して瞬間的に一つになれたわけではありません。そう感じたからこそ、アンサー句は季語を3つも使わざるを得なかったのです。しかしアンサーの本意を汲めば、主たる季語はてふてふだと分かりますね。





花野ゆく俳句が好きで好きで空

(里山子)


花野ゆく君の翼は大きくて

(でんでん琴女)


これまた素敵なペア句の誕生です。それ自体俳句なのに、俳句が好きと言い切る原句の潔さ、その力強さを後押しする形で、アンサー句は翼を授けたに違いありません。花野から空を見上げていた俳句好きが、大きく羽ばたいて空へと舞い上がり、今度は大好きな花野を俯瞰で眺めているのです。





流れ星ぼくのウルトラマンはどこ

(みづちみわ)


流れ星ウルトラマンは君なんだ

(でんでん琴女)


原句で探しものをしている僕に対して、探しているのは君自身の在り方だと語りかけるアンサー句。季語には願い事をするという側面がありますが、実はそれを叶えるのは自分自身であると、諭しているのかもしれませんね。





接吻を真二つに裂き星流る

(恵勇)


人間の明美ほほえむ花野かな

(でんでん琴女)


これは完全に物語へ没入してますね。知らない人が見たら、明美は普通人間だろ…と思うでしょう。でも、いいんです。アニメ俳句なんかと一緒で、固有名詞が出てくるのと同じです。そういう意味でこれは、Bの俳句としても成立する句と言えます。花野に佇む明美の姿から始まる、アナザーストーリーを想起させてくれます。





三万年後迎えに来てね流れ星

(嶋村らぴ)


朝霧を君と約束した場所へ

(梵庸子)


三万年は長いよなぁ〜とつい思ってしまいますが、流れ星という季語にかかれば、あっと言う間です。流れ星が流れたあくる日の朝、霧の中に二人の約束は叶えられるのです。それは途方もなく遠い未来の出来事のようで、実は目の前で起き得る事でもあるのです。





くたびれて蓑虫にまで嫉妬する

(里山子)


鬼灯や嫉妬が君を強くする

(梵庸子)


中身が窺い知れない蓑虫に対して、中身が空洞の鬼灯をぶつけて、嫉妬という目には見えない概念を用いて、二句を見事に繋いでみせました。個人的には、なんだか禅問答みたいだなと感じましたが、皆さん如何でしたでしょうか?





花野まであと25kmの青看板

(ヒマラヤで平謝り)


ボリュームを上げ秋風に「麦の唄」  (梵庸子)


原句の時点で、既に車という乗り物は脳内再生済みでしたが、窓を開けて吹き込んでくる風の触感を植え付けたのは、アンサー句の功績と言えるでしょう。どこにも時間は書いてないですが、目的地までの距離が明記されているので、唄はきっとエンドレスリピートされたのではないでしょうか。





チーム「星」の特攻隊長流れ星

(ヒマラヤで平謝り)

チーム「空」のダンスマスタージェラート

(風早杏)


季語になりたてホヤホヤのジェラートを、ダンスマスターに仕立ててしまいました。先行部隊の頭(かしら)としての流れ星、後続はジェラートを舐め舐め続いていきます。それにしても一体全部で何チームあるんでしょうか。早くもシリーズ化の様相を呈しています。なんだかメルヘンチック?な感じもしてきました。不思議な世界観が漂います。





三万年後迎えに来てね流れ星

(嶋村らぴ)


たどり着く熱さこのまま流れ星

(ヒマラヤで平謝り)


三万年も待てないと言い張る男子はモテない。モテる男子はこの熱量を保ったままで、女子をお迎えに上がるのです。本人がイケメンと言い張るので、これはイケメン句。





チーム『星』の特攻隊長流れ星

(ヒマラヤで平謝り)


チーム『星』解散命令星流る

(ヒマラヤで平謝り)


今世紀最大の自作自演が、これにて完結した。自ら集めた部隊を、自らの手で解体したのだ。後を追ってきていたチーム『空』の安否が気にかかるところだが、命令は命令だ。やむを得まい。さようなら、また会う日まで、お元気で。


「解散!!」



句養物語リプライズ 序章 
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