墓参り(文学フリマあかさたな雑記『は』)
初回の「あ」はこちらから
父親の葬儀後、亡くなったことを後から知った父親の会社のお友達に墓の場所を聞かれたことがあった。その方の名前は子供のころ、父親から何度も聞いたことがあった。葬儀についてはOB会へ連絡しておけば、そこから会社関係の人に届くだろうと思っていた私は申し訳ないことをしたと思った。にもかかわらず、その方は「釣りでしょっちゅう近くを通るから、ちょこちょこお参りしておくね」と言ってくれた。自分が死んだら連絡してほしい人リストは必要だと思った出来事だ。
私も私で、1周忌が終わるまでの1年は毎月、墓参りに行こうと決めて家から電車で1.5時間ほどのお寺まで定期的に通っていた。
何度目かの墓参りに来たときのこと。墓を目指してえっちらおっちら坂を上っていた私は、墓前へ何か供えられているのに気付いた。なんだ?なんか、ビニルに入ってて平べったくて……
釣り針だ。「仕掛け」と呼ばれる、針に糸が付いていてボール紙に巻かれて袋に入ってるやつ。「イサキ用」って書いてある。おいしいよねイサキ。塩焼きも良いけど釣ってきてもらうと刺身で食べられてこれがまたウマくてね。いやそうじゃない、今はそうじゃない。
危ないだろ……
はんにn、じゃなかった、墓参りに来てくれたのが誰か、すぐ思い浮かんだ。お墓の場所を聞かれた父親の会社のお友達だ。老人怖い……
ありがたく思いつつ申し訳ないけれど釣り針は回収させてもらった。
その後も毎月お寺に通った。途中から弟が参加するようになった。弟と一緒に行った何度目かの墓参りのこと。
線香を上げようとしたら香炉に線香がたくさん残っていることに気づいた。「誰か来てくれたんだね。ありがたい」と言いつつ燃え残りの多い線香を不思議に思いながら片づけようと香炉を引っ張り出したら、紙が巻かれたままの束になった線香が出てきた。
「えっ」
「えっ」
弟と2人同時に声が出た。
「これって、アリなの?線香がバラバラにならないようにとか、そういうこと……?」
私が聞いた。
石材店で働いたことのある弟は小さな目を精いっぱい開きながら言った。
「これまでけっこういろんなお墓に行ったけど、初めて見たな」
これじゃぁ燃えずにたくさん残ってるわけだよ、と2人でゲラゲラ笑った。場合によっては紙が燃えて大変なことになっていたかもしれない。笑いごとで済んで良かった。これもたぶん父親のお友達の犯行だろう。あ、犯行って言っちゃった。老人、手段を気にしなくて怖い。
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