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短篇小説『平成観音功徳記』連載3回    最終回でございます。

 月曜になった。敢えて東京駅近くの銀行で当選手続きをした。金曜日には入金され その確認をして 直ぐに旅行代理店に向かい旅行代金全額を支払った。プランを作成した女性社員が居なかったのが 少し残念だった。そして錦司は都内の銀行に貸金庫を借り、三百万円を給与振込に使用していた北関東の地方銀行口座に移し、残りの当選金額が入った銀行口座の通帳と当選証明書を入れて保管した。

 ゴールデンウィーク直前 漸く錦司の銀行口座に退職金も振り込まれていたのを確認した。兄の来訪を避けるために 錦司は 日中は図書館、夜は映画館や漫画喫茶で過ごし 錦司の自宅方面に向かう最終のバスに乗って 十一時過ぎに戻り、朝も八時に家を出て 図書館でハワイに関する本を読み、すっかり観光気分に浸っていた。 

 そして五月二十日。錦司は午後三時成田発の飛行機でハワイに向かった。あのUFOよりも乗り心地が悪い飛行機でハワイに着くと未だ夜明け前で 乗り継ぎのハワイの国内便まで数時間あったが ビジネスクラスに乗ったお蔭で空港内の航空会社が設営するラウンジで休むことができた。そして再びコナ空港まで飛び 旅行代理店が用意していたホテルまでの送迎サービスが用意したマイクロバスに錦司以外は新婚カップル一組だけでワイコロアビーチのホテルに向かった。道中眺めるハワイ島の溶岩だらけのゴツゴツして 地球以外の惑星に迷い込んだような光景に錦司は 空の上から眺めたホノルルとは違ったビックアイランドと呼ばれる島に来たことに呆然としていた。同乗していた新婚カップルは しきりにビデオカメラやスマートフォンのカメラで車窓越しに撮影し驚嘆の声を上げていた。やがてワイコロアビーチの一画にバスが入ると 俄かにモダンな建物が並び立ち 人工的な街路樹が溶岩だらけの荒野からの圧迫を心細げに支えていた。新婚カップルは錦司とは別のホテルで送迎バスから先に降り、錦司は更に海辺に近いヒルトンホテルに到着した。
日本語サービスの在る受付を身振り手振りで教えられ 
ロビーの一階下へ降り 手続きをした。未だチェックインまで時間があったので大き目の荷物をコンシェルジュで預かってもらった。
その際 オプショナルツアーなどを説明された。
なんとなくホテル内にあるイルカと遊ぶコースを予約した。

広い敷地内を移動するモノレールのような電車に無料で乗れること 
レストランの説明 スパリゾートの説明などなど 薄らボンヤリした頭で聴いた。 
チェックインまでホテル内のレストランや敷地内の散歩を薦められた。
昼飯はイルカが居る人工の入り江・ラグーン近くのカフェでタコスを薦められたが 錦司はタコスとは何だかわかなかった。
チェックインまでの仮のルーム・カードキーを身分証明書代わりに首からぶら下げて 先ずは薦められたまま ゴンドラ・・・というか小さな漁船のようなボートに 所定の場所で待っていると碇泊したので乗船した。
英語で話しかけられたが全く分らず 次から乗ってくる客たちに押されるまま 狭い船内に乗り込み 小一時間 ホテル内とホテルに面した海辺を走り 結局一周して乗船したホテルのロビーに近い碇泊所で降りた。
海辺に出た時は結構荒い波で錦司も陽気な外国人たちも嬌声を発していた。

 船を降り 行き交う小さなトラムと呼ばれる電車に童心を呼び覚まされて ハワイの強い日差しを浴びながら頬は緩みっぱなしだった。
欧米人が ホテル内のプールサイドで寝そべっていたり プールで遊んでいた。
そして明日お世話になるイルカの居るラグーンへ向かうと 既に子供たちが数名水着にライフガードを羽織って イルカたちに触ったりして歓声を上げていた。喉が渇いた錦司は恐々(こわごわ)と近くのカフェに行き 
なんとかコカコーラを注文し 渇きを癒した。一休みしても未だ昼食など入る余地がないほど腹は膨れていた。機内食が次から次へと出てきて大層美味かったので全部平らげていたので タコスなんて食べなくてもいいやと思った。暫くサングラスをかけて ビーチパラソル下のテーブルで頬杖つきながら 平和に裕福な時間を満喫している人々を眺めていた。
海辺ではサーフィンをする勇者たちが 雄叫びを上げていた。いい気持ちになって眠気がさしてきたが 此処で寝るのはまずいと想い どっこいしょ と席を立ち、当てもなくフラフラと散歩した。
とりあえずホノルル空港のビジネスクラス客専用のラウンジで上はポロシャツ一枚になり 下は短パンとビーチサンダルに履き替えていたので 錦司は海風に汗を弾かせ ショルダーバックから取り出した野球帽をかぶってホテルの敷地内を歩き トラムに乗り 冷房が効いている中でウットリと
自分が棲んだ事の無い別の星へ来たような錯覚を愉しんでいた。
あのゴツゴツと剥きだした溶岩ばかりの荒野。色の白い欧米人ばかりがいて 誰しもサングラスをかけ 表情が分らないし 英語だらけで耳はうわの空だ。トラムを適当に降りて、錦司は兎に角歩き回った。
海岸を臨む小高い丘に達すると仏像があった。海の方を瞑目し座る仏像はかなり大きかった。傍には 魚が大口開けて空に向かって直立している金属製の像があり 口の中には煙草の吸殻が在った。灰皿らしかったので錦司は一服した。喫煙家だが 一日に数本喫えれば満足する体質だったけれど なんとなく一本点けた。周囲に人も無く 海鳴りに耳を潅がせ喫い終ると仏像の真横に同じように結跏趺坐し両手を膝の上に乗せ 指で印を拵えたのも仏像を真似た。
そして徐に日蓮宗の開経偈を小声で唱え 続いて観音経偈頌を読誦した。
まだグレイスキンからの指令などなかったが 読誦した。
薄目を開けて 波濤をボンヤリ眺めながら。勿論 野球帽を脱ぎ、禿げた頭頂部を強い陽光がチリチリさせていたが 清々しい風で寧ろ心地よかった。そして偈頌を読み終えると両手を合わせて南無観世音菩薩を三十三回唱えた。目を開けて正座して海と仏像に向かって深々とお辞儀をした。するといつの間にか錦司の傍らに 誰かが居た。英語で話しかけられても応答不可能なのでそそくさとその場を逃れようとした。すると「オボウサンデスカ」という片言の日本語が錦司を捉えた。錦司はその声の主へ向き返り「いいえ 違います。私は僧侶ではありません。オボウサンじゃないです」と応えた。その声の主は意外にも若い女性だった。長い栗色の髪を風に靡かせ Tシャツにショートパンツ姿からは長い手足が伸び碧い瞳を眩しそうにして錦司を見詰めていた。彼女は「お経よんでましたから オボウサンだと思いました」というと恥ずかしそうに微笑んだ。錦司は「日本語お上手ですね」と言って会釈をして立ち去ろうとした。しかし若い女性は更に錦司に問うてきた。

「お経、何読んでましたか?」 錦司は 仕方なく
「法華経の観音様の部分、短いところを暗記、覚えているので。私はそれしか覚えていませんけど」
こんなことを言っても判ることもなかろうと思いつつ応えた。
「観音様のお経ですか」
日本語をたどたどしく話す美しい女性はそういうと
徐に両手を胸の辺りで合わせ錦司に礼拝した。錦司はギョッとした。
自分はオボウサンではないのでやめてくださいと照れ笑いしながら
その場を逃げ出した。錦司の背中に「ありがとうございました!」という声が追っかけてきた。振り返ると美しい女性が手を振って笑っていた。
錦司は恐縮してペコペコしながら小走りで丘を越えた。
丁度トラムが停車していたので飛び乗った。そして野球帽を脱いでいたから坊さんと間違えられたのだろうと思った。
ロビー近くの停車場で降りて館内の通路を散歩した。
それにしてもこのホテルは仏像だらけだと思った。
インドの仏像に混じってヒンドゥー教の神様のレリーフが在ったりした。
錦司は 未だチェックインまで時間が在ったのでイルカが居るラグーンに向かった。イルカは人間相手から解放されてラグーンで突然水中から空中に跳躍したりしていた。
錦司は 明日、自分もあのイルカと遊ぶ予約をしたけど 
グレイスキンの御用とやらがその時間帯でなければよいなと思った。
ラグーンの裏手の丘に上がって海を暫く眺めたあと 
地下一階の日本語コンシェルジュの居るロビーに向かった。すると日本人女性のコンシェルジュから声を掛けられ
「少し早いですけど もうお部屋の準備はできていますのでご案内します」
そう言われてホッとした。手荷物を持って一階に戻り正式になったカードキーを首から下げてトラムに乗って説明を受けた場所で降りて 部屋に入った。冷房が効いた部屋には キングサイズベッドが在り どこもかしこも
錦司の住んでいる日本の小さなマンションより広くて大きかった。
そしてサッシ越しに見渡すとさっき自分が観音経を読誦した場所が見えた。歩いて5分ぐらいのところだった。
日本語版・ホテル内の施設地図を見るとあの仏像が在るところは 
ブッダポイントだと知った。シャワーを浴びてサッパリした後 
錦司は 転寝した。
グレイスキンが 目覚めた錦司の視界に現れていた。夕陽を眺めながら窓辺近くのロッキンギグチェアーに身を預けて揺れていた。
「お目覚めですか」
グレイスキンは振り向きながら言った。錦司はベッドに胡坐をかき両手を伸ばして欠伸をした。彼にとってこの異星人製サイボーグは戦友だった。
未だ数回しか遭ってもいないのに 随分長く前から知っていたような気がしていた。グレイスキンは 「昼間 観音経読んだね」と訊く。
錦司は「ハイ 読みました。ついつい読みたくなってしまって。問題ありましたか?」と訊き返した。
グレイスキンは「オッサン・・・とんでもないことを・・・」と言ってため息ついた。
錦司は意外な反応にギョッとした。 ええっと言いかけると 
グレイスキンは 椅子から立ち上がり錦司に歩み寄り
「とんでもなく素晴らしいことを俺のミッション告知前にしやがって!」と言うなりベッドに飛び乗り笑っていた。
「なんだ よかったのか」と錦司はグレイスキンに向かって呟いた。
仰向けに寝たグレイスキンは両手で後頭部を支えて
「ええ よかった。此処での使命は完了ともいえるのだけど まぁ明日はこのぐらいの夕刻にもう一度してください。朝起きたら この部屋でも 一度読んで下されば更に素晴らしい! この島でのミッションは完了!」
そしてオアフ島のホノルルに着いたら そのホテルから近いロイヤルハワイアンセンターにある日本の旅行代理店の支社を見つけて翌日にはワイキキの逆方向にあるカネオヘ湾で海中散歩をして 海の中で南無観世音菩薩を三十三回唱えてくれという指令を伝えた。
「ワイキキのホテルにも日本語サービスコンシェルジュが居るからその人に旅行代理店の場所が描いてある地図を貰えばいい」
そう言いながら立ち上がり 
「とても綺麗な女性から拝まれていたじゃないですか」と笑った。
「君はなんでもお見通しだったんだね」錦司はそう言い、できればもう少しお喋りでもしていかないかと言いたかったが グレイスキンが帰り支度の猫皮を取り出していたので諦めた。
ただ「今度はいつ指令しに来るですか?」と訊いた。グレイスキンは錦司を見詰めて
「これが最後です」 そう言って照れ笑いのような戸惑い隠しをしていた。

「そうか じゃあ もう少しお喋りしていきませんか」錦司は 掠れた声で呟いた。

グレイスキンは分ったと言って猫皮を仕舞い
「とりあえず 夕飯でも買ってきなさいよ。留守中に居なくなったりしないから。待っているさ」そう言うとため息をついて笑った。
錦司は促されるまま 夕飯を買い込んだ。グレイスキンが何も食べないのは知っていたがつい2人分のスパムおにぎりを買い アサイーボウルもコンビニで買って帰った。部屋を開けると グレイスキンが居なかった。錦司は呆然とした。嘘つきだなと呟くと
彼の足元に猫姿になったグレイスキンが「誰が嘘つきなんだよ」と日本語で話しかけていた。錦司は満面の笑みを湛えていた。猫姿をしてグレイスキンは錦司と話し続けた。

数時間話しているとすっかり夜の帳が降りていて 満天の星を共に見上げた。サッシを開けると小さなバルコニーの上空から母船に向かう猫姿になった時に遣うフリスビーサイズのUFOがスッと現れた。そして異星人製サイボーグは猫姿のまま超小型空飛ぶ円盤から発せられる光線に包まれ 上昇した。
「また会える日も来るさ」という声がした。その瞬間あの顔が錦司の視界に一瞬、現れた。そしてあっという間に消えていた。上空にボンヤリとしている雲のような影に小さな発光体が吸い込まれていった。

「さよなら 俺にとって生まれて初めての親友 」と呟き 錦司はそっと指で目の辺りを拭った。眠れるかなぁと思いつつ彼は寝返りを2回打つと泥のような眠りに落ちた。目覚しをかけるのも忘れたが 錦司は6時には目が覚めた。10時頃にはグレイスキンが帰って行くのを見送ったから充分な睡眠を取ったわけだ。歯を磨き 錦司は約束通り観音経偈頌だけでなく本文も読誦した。サッシを閉め切って結構大きな声で読み上げた。人生で初めて出遭った友、グレイスキンに届くように。そう願い込めて読んだ。

 そして錦司は欧米の子供たちと一緒にドルフィンクエストというイルカと触れ合う このホテルの売り物の一つであるアトラクションに参加した。勿論大人たちだって参加できるがその日は 大人は錦司だけ。正確に言うと錦司より顔一つ背が高い十七歳の米国人少女がスラリとした肢体で大人びていたが 彼女は未だ少女だった。錦司も彼女も救命胴衣など必要ない浅瀬で幼稚園児ぐらいの子供たちとお揃いのオレンジ色の空気入りベストを着用していた。英語が全く駄目な錦司にインストラクターの事細かな注意事項や指示を通訳してくれたのは ポニーテイルにしていたので 錦司は気が付かなかったが昨日のブッダポイントで錦司に話しかけてきた若い女性だった。
彼女は人懐っこい性格らしく錦司に片言の日本語で話しかけてくれた。
ドルフィンクエストが始まる前に 
「マリオン=デュカシィス・ディアンターレです」と自己紹介し握手を求めてきてくれた。
錦司も「マイネームイズ キンジ クラハシです」と背の高い十七歳の少女と握手していた。マリオンは幼い頃から日本のアニメと仏教に強く魅かれて 日本語を勉強していること、ニューヨークから来たこと、京都や奈良にも去年寺社巡りをした事を話してくれた。イルカとの触れ合いを楽しみながら錦司は こんな不思議な出遭いなど全く予想もしていなかったので 
グレイスキンとの嵐のような出遭いと別れにひどく落ち込むこともなかった。イルカたちのいたずらっぽい眼差しを見ている時 不図 グレイスキンが思い出されて小声で「又会いたいよ グレイスキン」と呟いたけれど。

 錦司がハワイ島でイルカと遊ぶ日の夜明け頃。 
オアフ島・ホノルルのチャイナタウン近くにある一軒家、そのウッドデッキにグレイスキンは猫姿で現れていた。ウッドデッキのテーブルセットに
グレイスキンは猫姿のまま 寝そべって欠伸をし、ついでのように口を開け「アキラぁぁ ちょっと用があるんだ」と日本語で言った。
すると家の中から マグカップに珈琲を淹れて背の高い天然パーマの黒髪に浅黒く痩せて引き締まった体をした中年男、花木明が現れた。ホリの深い精悍な顔つきが 灰色の猫に近づくと 悪戯小僧のような子供っぽい表情になっていく。

「おう 久しぶりだね。こんな朝早く」 花木明は喋る猫を怪しむことなく旧知の仲らしくグレイスキンの近くにあるベンチに腰かけた。グレイスキンは明を見上げて
「明日さ アキラがやっている海中散歩に57歳の日本人、倉橋錦司という人が 明後日の予約するんだけど彼が海中散歩する時に アキラが傍にいて見守ってほしいんだ。彼にちゃんと海底に正座させて 
南無観世音菩薩を三十三回唱えることを やらせてほしいんだ。
これね 君みたいな科学者は莫迦にするかもしれないけど   
かなり大事な 言霊、つまり造化の妙の視点からすれば
君が信奉する科学と同じぐらい宇宙的な真実だから 頼みますよ」 
猫姿のままグレイスキンは前足と後足伸ばしを交互にしていた。
アキラこと花木明は 決して莫迦にはしないよと呟いていた。 続けて、「歳差運動早まる傾向にあるの? 10年ぐらい前倒しとか・・・君らの観測結果は未だ僕には 内緒かい?」 

猫姿のグレイスキンをちょっと睨むようにして言った。猫がよくやる身震いをして異星人製サイボーグ・グレイスキンは
「 つまり 明後日の海底での南無観世音菩薩33回が 歳差運動の前倒しを抑止 いや この惑星、地球さんの瞋恚(おいかり)を宥める事は確かだよ。仏教・・・というか法華経というのは宇宙論だって話をしたよね 君にも」猫姿でそう言われても上から目線な感じがしない。
但し元国立天文台職員としてハワイ島で観測活動をしていた花木明は 少し吹き出しそうになる。 彼はマウナ・ケア天文台で観測している時グレイスキンの訪問を受け その数回目の遭遇時に彼から講義を受けた内容を思い出してこう言った。

「ハイハイ 覚えているよ。我々人類がジャンクDNAと呼んでる部分のランダムな塩基配列を 漢訳観音経を音読した際に出る日本語の母音によって規則をもたらすと二重螺旋構造体になり、それが 造化の妙、宇宙の意志、日本で古来より言い伝える言霊 そのものになる という如何にも科学的は言説を僕は忘れてはいませんよ フフフ」
と少し皮肉まじりに言った。花木明は この異星人製サイボーグとの邂逅によって地球の歳差運動について警告する活動を始め その際、異星人コンタクティーを告白してしまって国立天文台職員の職を失い、米国のエージェントからも脅迫に近い警告を受けたことがある。
花木明を自分たちの活動に巻き込み過ぎたことを異星人たちは大いに後悔した。それゆえ 都度事あるごとに花木明を擁護する活動もしていた。
彼らが造った猫の姿にも変容するサイボーグを遣わして。
サイボーグは ため息をついた。
「君の人生を台無しにした事をボスたちは今でも詫びているよ」そう言った。
アキラこと花木明は 
「別に台無しになどなっていないから 歳差運動の観測結果はもっと頻繁に報告してほしいとボスたちに伝えてくれ。それに 国立天文台職員をクビになったのは 僕の軽率さからだ。言わなくてもよいことを ツイートしてしまった。それらは君たちの過失じゃないだろ?」

猫姿のグレイスキンは揃えた前足に顎を乗せて頷いていた。
「じゃあ 錦司さんの事を頼んだよ」ポツリと言い添えた。ああと明は応えた。お安い御用だ。
日が昇りはじめた空に一条の光跡が煌めきそしてスッと消えた。
珈琲を飲み終えると彼は彼が現在就いている職業を果たすべく 
ホノルル中心部にあるオフィスに向かう。シャワーを浴びて半分同棲している15歳年下の女性を起こし 彼女が身支度を済ませると彼女を車に乗せ、
彼女が勤める会社の前で降ろし自分が勤めるオプショナルツアー専門のオフィスへ向かう。

 一方、ドルフィンクエストを終えて 錦司は自室に戻ると 朝食バイキングで食べきれずに持ち帰ったバナナとオレンジやサンドイッチを冷蔵庫から取り出し食べた。そしてベッドで一眠りすると シャワーを浴びて昨夜グレイスキンから聴いた法華経講義のような内容を手帳に粗く書き留めていたのを 眺めながら頭の中で整理し、改めて記憶を頼りにまとめ始めていた。
イルカとの触れ合い、日本語を学ぶアメリカ人の美少女との出会い そんな心踊るような出会い は 人を向学的にする作用があるらしい。        錦司は以下のように 異星人サイボーグから聴いた事を箇条書きにした。

○ 法華経は釈尊最晩年の教えであり 仏陀として人類に説いた宇宙論であること

○ 法華経の観世音菩薩は他のお経に出てくる観音様とは少し違う。寧ろ法華経の観音様は 異星からやってきた妙音菩薩が地球上で菩薩行を為す時の菩薩の姿。

○ 法華経独特の時間描写や事象の無限性に関する繰り返しは 人類に宇宙論を説く為にしたが 科学者ほど丁寧に読み解くべきだろう。

○ 妙法の蓮華とは誰しもが生まれ持っている七つの蓮華=チャクラ其々を意識的に活動させ 外側に在る蓮華=チャクラの連なり、つまり宇宙を成り立たせている    この大宇宙の恵みと美と力の美座を織りなす造化の妙なる流れと共鳴させるための行法のことである。その行法とは荒唐無稽な法華経の意味内容を理解することではない。大切なのは ひとり一人、自分の想念を用いてイメージし 法華経に身も心も委ねてしまうこと。法華経の寓話(ファンタジー)は 生活規範ではない。人生哲学でもない。ひとえに 造化の妙を自分なりにイメージし感じさせるために説かれたのである。このイメージトレーニングはどんな行法よりもやり易い。瞑想法などの困難と危険を伴う行法より誰でもできる。そして誰しもが生まれつき予め内包されている蓮華=チャクラの連なりを二重螺旋構造つまり遺伝子構造にまとめ上げるイメージを法華経の幻想物語を読んでいるだけで想念に描くことができるようになる。そしてその二重螺旋構造に生じる上昇気流に自分の思考と感情が沿っていく。結果として 人は因果の法則から捕らわれることから逃れられる。すなわち 【斥力】。重力における引力と真逆の力を想念活動に獲得し 因果から浮き上がる。つまり 執着から離れられることになる。

セキリョクってなんだ?二重ラセンコウゾウ・・・なんか聴いたことはある。錦司は異星人が造ったサイボーグが語り続けた噺を殆どカタカナ混じりで手帳に書きつけていたが、要するに 妙法蓮華経は宇宙論なんだということ、法華経に出てくる観世音菩薩は 妙音菩薩という別の星だか宇宙からやって来た仏のことだということらしい。つまり人類よりも進んだ科学を持つ異星人にとっても大納得する内容が書かれているということなんだろう。
錦司はそう理解できたことを書き加えた。そして自宅に戻ったら早速 碧い装丁の法華経大全という現代語訳を読みたいと思った。

腹ばいになってハワイのリゾートホテルで自分がこんな事をしている不思議さにウットリしながら イルカと遊び、美しい少女が自分の近くで輝く笑顔を弾けさせていた光景を少しの間 微睡に揺蕩わせていたが そろそろ夕陽が世界を支配し始めていたので グレイスキンの指令通り 観音経偈頌を読誦した。橙色に錦司も染まり、床に座った。サッシ越しに見える海に向かって背筋を伸ばした。あの仏像が結跏趺坐する後姿が 遠く 錦司の視界に在り なんとなく心強さを胸に感じさせてくれた。

和食レストランでの夕食後 魚の形をした灰皿がレストラン近くにも在ったので錦司は 一服した。空は紺色と漆黒がせめぎ合い 満天に金銀の星を湛えていた。紫煙を燻らし 
「俺たちは 宇宙に存在しているんだ。この地上時空だって予想もしないような出来事が突然起こったりする。当然だよ。宇宙なんだもの 
俺たち人間が拵えた仕組みや制度なんて宇宙の法則からしたら 
無意味に近いかもしれない。それでも宇宙はこの星にあのマリオンちゃんのような美しい存在だって顕しておられる。不可思議。まさしく不可思議 」と初老とも呼ばれうる男は観音経偈頌に出てくる漢語を繰り返す。
すなわち 思議ス不可(べから)ズ。宇宙は実在している。
だが人間たちは 棲息させて貰っている星のことも殆ど理解できていないくせに、無益な戦争をしたり 環境を破壊し 他の種を絶滅させたり
 思い遣りのかけらもない。
この星が感情も思考も持っていないと決め込んでいる。それよりも大切なのはカネという自分たちが拵えた価値に狂ったように群がり、殺し合い 諍い 絶望を勝手に捏造し 憎悪だけが感情だと言い張る。その一方で 自分のような世間の片隅でうずくまっていた何の取り柄もない男が ただ観音様に縋りつき しがみ付いていたというだけで 他の星からやって来た誰かさんに見つけられてこうして金持ちが集まる場所で夕飯の味にいちいちケチをつけ、支払に困らぬとはいえ 不機嫌な気分を野放しにする。1か月前の自分なら想像もつかないような生活をしている。
錦司は頭を振った。あの宝くじの当選金を使って自分がこんな生活を愉しむだけでいいわけがないだろう と。
あの業突張りのヤクザな兄からカネを護るようにコソコソ生活していくだけじゃつまらない。だからといって何ができると言うのだろう。それこそ僧侶になるためにあの金を使ったほうがいいのかもしれない。そしていつかマリオンと何処かの古刹の住職として再会する・・・・そんなおめでたい妄想に行きついた瞬間、流石に背筋がブルっと震え 恥ずかしさに襲われ 煙草を急いで灰皿に もみ消した。

 次の朝 錦司は早々と荷物をまとめた。イルカに挨拶でもしたかったが コナ空港へ向かう車の出迎え時刻に急き立てられ チェックアウトした。 残念ながらあの美少女と偶然のように出遭う事は無かった。

 朝の陽光に洗われた溶岩群は 古代の生物の亡骸にも見えた。この星、地球の怒りかもしれない 悲しみかもしれない 溶岩とはそういうものなかもしれない。錦司は感傷的な気分で眺めた。ハワイ島を離れる時 上空から眼下で小さくなっていく初めて訪れた島に無性に懐かしさを覚えていた。

 ホノルルに着き ワイキキビーチ沿いにあるアウトリガーチェーンのホテルに向かう送迎サービスで数名の同乗者たちと生まれて初めてリムジンに乗った。

ホテルに着くとグレイスキンの指示通りに日本語コンシェルジュに行き 手荷物を預かって貰って ワイキキとホノルルの日本語版マップを手に入れ グレイスキンが言っていた日本の旅行代理店の所在を訊いた。ホテルを出て信号を渡って道なりに数分で目的の場所に着くと教えてくれた。ロイヤルハワイアンセンターのB館。兎に角明日の海中散歩ツアーの予約をしたらブラブラするかと街に出た。流石にハワイ島とは違って 日本人も多い。そして目的の旅行代理店に着き カウンターで海中散歩ツアーについて尋ねた。すぐさま係の女性が早口で説明してくれた。申し込み用紙に記入し、クレジットカードで支払った。明日の11時に迎えの車がホテル前に着くので15分前には錦司が宿泊しているホテルのロビーで待っていることを 繰り返し念を押された。

 そして翌日。迎えの車を待った。彼の名前を呼ぶ方を見て一瞬錦司は固まった。 その声の主が あの兄だった・・・・
わけもなかったのだが 恐ろしいほど他人の空似だった。薄汚い四輪駆動車に 数組の新婚カップルと共に乗せられてワイキキから一山越えて
カネオヘ湾へ向かった。兄によく似た六十代のオッサンが運転し どうでもいい観光ガイドをボソボソするが 錦司以外誰も相槌すら打ってあげない。そんな無反応など気にもかけず運転を続ける姿が憐れでもあり 実の兄よりも余程真面な人間だろうなという感慨を懐いた。ただ下手くそな口笛で聴いたことが無い単調な曲を吹いてハンドルを指で叩いてリズムをとる癖が 同情的だった錦司ですら忌々しく、観光ガイドには無反応だった新婚カップルの誰かが 気味悪いと囁いた。女の声だった。錦司は苦笑いするしかなかった。どっちもどっちだよ。自分の無作法は気にならないという点で。 フリーウエイをひた走り カネオヘ湾に着く。辺鄙な漁港のようだ。

ただ 湾を抱え込むようにそびえる山々は まるでつい最近、海から隆起したばかりのようにのっそりとそそり立っていた。茶色い山肌に深い緑の森が鬱蒼と生茂る。ハリウッドの有名な恐竜映画のロケ地になったという説明に錦司も感心した。そして遠浅の白いサンドバーと呼ばれるサンゴ礁が寄り集まってできた干潟は白く輝き手前の海や沖合の海と全く違った色合いで 光沢に溢れた、絵具の名称で言えば水色をしていてた。すると沖合からいきなり米軍の戦闘機が低空飛行で飛び立っていく。ガイド兼運転手の爺さんが海兵隊の基地が近いからねと呟いた。そう言い終ると彼は自分の仕事は終わったと言わんばかりに 連れてきた客をボートで浅瀬近くに碇泊する船に運ぶ役割を担う若者達に任せると バラック小屋のような食堂に 入って行った。錦司たちは数名に分かれて救命胴衣を着け 数台のモーターボートに乗せられ 碇泊中の船に向かった。クルーザーというより中型漁船のような船に待ち構えていた米国人らしい男やハワイ系の若者に次々と腕を引っ張られて乗船した。デッキへ上がると日本人女性が名簿を見ながら客をチェックし 錦司も 甲板奥の部屋でグループ分けされ 海中散歩や潜水コースにおける耳抜きの仕方を教わった。錦司は海中散歩コースメインだった。水深八メートルの海底で 酸素を海上から送り込むヘルメットをかぶる際 自分で海底に降りていくまでに何度か耳抜きをしなくてはならなかった。参加者の中で際立って高齢でどんくさそうな錦司に女性トレーナーは何度も念を押し、表情も少し怖かった。すると よく日に焼けた中年の日本人男性が参加者一同に対して挨拶し、これから始まる愉しいマリンスポーツ体験における注意事項を嘗て参加者がしでかした失敗談をユーモアたっぷりに話し 参加者の緊張をほぐしつつ 慎重さを求めた。 

「ちなみに 私はこのツアーの責任者 花木明です。どうぞたっぷりとこの天国の海と呼ばれるカネオヘ湾の珊瑚でできたサンドバーで愉しいひと時をお楽しみください。そのお手伝いをさせて頂く我々チームブルックスのメンバーは こいつらです」と並んだトレーナーの面々をサラリと紹介した。
そして錦司は名前を呼ばれて早速 サンドバーと呼ばれる珊瑚でできた不思議な浅瀬に船からカヌーに乗って向かうことになった。其々オールを一本手にして座り 声を合わせて漕ぐ。紺碧の海を掻き分けて白い珊瑚の浅瀬に向かう爽快感を錦司は若い新婚カップルたちと一緒に声を上げ 自然に湧き出てくる歓びに満ちた笑顔を溢れさせていた。禿げた頭頂部にそよぐ風のなんと優しく心地よい事か。カヌーがサンドバーに着くとトレーナーが飛び降り とも綱を杭に結ぶ。そして前から一人ずつ飛び降りる。最後尾に居た錦司を筋骨隆々のトレーナーが怖がらずに と声をかける。錦司は運動神経の無い方だったが迷わず跳躍した。しかし後ろに残った足の甲をカヌーの縁に引っ掛けて着地した途端前のめりに倒れ、右足の膝小僧を打った。慌ててトレーナーが寄ってきて抱き上げてくれたが 錦司はそれを断り独力で立ち上がり大丈夫だという仕草をしてみせた。そして暫くの間各自思い思いに白い珊瑚礁の浅瀬を散策した。ウミガメが近づいてくることがあるとトレーナーが英語で教えてくれたらしく 錦司は その事を近くに居た新婚カップルから聞いた。ハワイ島でイルカのラグーンで遊んでいる時に間近を泳いでいたので錦司はさして興味も持たなかったが 此処へ来るまでの自動車の中ではよそよそしかった彼らが妙に親切になっているので 錦司はなんとなく嬉しくなり 教えてくれた事に礼を述べた。浅瀬の静かな水面に錦司は横たわり大の字になった。とても浅いから浮いた体は沈みがちになる。救命胴衣のお蔭でなんとか尻を白い珊瑚礁につかせて空を眺める。 
「あぁ 俺は本当に天国に来ちまったらしい」 そう叫びたかったが 
流石に若い者達に混じって気を若くし過ぎた爺が調子に乗り過ぎだと自重した。そして起き上がり、歩き回り 不思議なサンドバーの砂時計に入っているような白くて軽い砂を掬って飽きることなく感嘆の声を上げた。
軽やかで透明な水色と対照的な濃い紺碧の海が周りを重々しく囲んでいた。 深い海の上では水上スキーや水上バイクに興じる者達が歓喜の声や笑い声のような悲鳴を上げていた。錦司は船に戻ると 海中散歩の前に時間があるからシノーケルもしないかと 花木明から問われるが 自信が無いので断った。
「しかしあの珊瑚礁の上は なんだか仕合せな気分になってしまいますねぇ」と錦司は相好を崩し 花木に話しかけた。
花木は 笑顔で応えながら この人にグレイスキンの事を話してもいいのだろうかと戸惑っていた。グレイスキンとそのボスたちがどうしてこの普通のおじさんにミッションを与えたりしているのか訝った。 
「倉橋さん ひょっとしてお寺の御住職でらっしゃるとか?」
突然 花木から変な質問をされて 錦司は驚いた。マリオンからもそう訊ねられた。錦司は自分の頭を叩きながら 
「どうもこの禿げのお蔭で 間違われますけど いやいやただの しがないオジサンですよ 」と笑った。
花木は苦笑しながら 待っている間によかったらドーナツやポテトチップスを抓みながら珈琲でも と 船室を指さして勧めてくれた。

錦司は 花木に「海中散歩の際に 僧侶ではないんですけど 私ね、海底で正座して1分ぐらい合掌してみたいのですが そんなことしたら 危ないですかね」と訊ねた。
今度は花木が驚いていた。やっぱりグレイスキンとこの人は遭っている。
そう確信した。

「なるほど。それじゃあ倉橋さんが海中散歩する時は私がトレーナーとしてご一緒しますよ。1分ぐらい大丈夫です。どうせ海中で魚たちにパンをあげる遊びをします。その時皆さん 海底で座って頂くので」そう笑顔で言った。錦司は安心し礼を述べて船室に向かった。
花木明は グレイスキンについて話し合える数少ない人間との遭遇に少し興奮していた。あの不可思議な体験をしているのは 自分だけじゃないんだ。そんな共感が心の中でざわざわしていた。

花木が数名の名前を呼び 海中散歩へ出かけるグループを集めた。錦司も加わり モーターボートで向かう前に今一度 海中に潜水しながら各自潜水用ヘルメットの下から片手を入れて耳抜きをするために鼻をつまみ、息を込め、鼓膜を動かして調整すること、緊急事態をトレーナーに知らせるための簡単な指のサインを確認した。沖合にある海中散歩専用の筏に乗り移り 順番にウエットスーツを着用し潜水用ヘルメットを頭からかぶる。筏の上に設置された巨大な酸素ボンベから繋がるホースがヘルメットの頭のてっぺんに繋がっていてそこから送り込まれる酸素によって海中で全く呼吸の心配は無い。一人ずつ筏から海底に向かう梯子をゆっくり下りていく。海底といってもサンドバーに近い珊瑚礁の白い砂が横たわる美しい場所だ。水深も八メートル程度だったが 錦司も海底に向かう途中 首まですっぽり覆う潜水用ヘルメットの顎あたりの隙間から片手を突っ込み 鼻をつまんでしきりに鼓膜を動かして調整した。 ゆっくりと海底を歩く。自分の出す呼気がヘルメットの隙間から泡となり昇って行く。透明な水色とグリーンが混ざり合う今まで見た事の無い世界が広がる。夥しい数の黄色い魚や白い魚が次々と海中散歩者たちを取り巻く。竜宮城ってこういうことかね と呟いても聞こえるのは泡の音だけ。トレーナーとして参加した花木の指のサインで皆 海底に座り、其々に食パンが配られる。すると其々の手から魚たちがパンを求めてかわるがわる啄み始める。花木は錦司の傍に寄ってきて胸の前で合掌をしてどうぞと言ったような仕草をしたので 錦司は正座してグレイスキンと約束した南無観世音菩薩を33回唱えた。更に海底に両手を着いて少し頭を垂れてありがとうございますと言った。その御礼は花木に対してしているようでもあり、自分にこの使命を与えた異星人とそのサイボーグ、グレイスキンに対してしているようでもあった。そして魚の餌付けが終わると更にデジカメで撮影会が始まった。錦司は 観世音菩薩普門品偈頌を早口で読誦していた。
今までの人生に無い光景に対しての畏敬の念を表す為に 実行可能な唯一の行いをしたのだ。そして海中散歩がおわり、筏の上に戻るとそろそろ頭上に君臨していた太陽も橙色を帯びて傾き始めていた。

船に戻り 沖合から港を目指すと一頭の大きなウミガメが船の間近を追うように泳いでいた。甲板で皆がはしゃいでいた。花木が錦司の傍に来て 
「これは結構珍しいですよ 船を追いかけて来るなんて」と言った。
誰かが「ウミガメは幸運をもたらす神様の使いだって」そう叫んだ。
錦司はそうなんですかと 花木に訊ねた。花木はニッコリ笑って頷いた。
錦司はその笑顔に激しく懐かしさを覚えて はて この人と何処かで?
そう記憶を手繰ろうとしつつ笑顔で応じた。花木も同じような想いを錦司に対して懐いていた。                  

 そんな花木明と倉橋錦司の足元に いつの間にか一匹の灰色の猫が行儀よく座り、二人を見上げるようにしていた。二人は同時に猫に向かって   

「グレイスキン!」
と叫び、次の瞬間 二人は顔を見合わせていた。

 

この後、二人が錦司の宝くじ当選金を元手にしてココナッツオイルと
マヒマヒやスパムを使ったソース焼きそば《ハワイアンヤキヤキ》によって成功することになる。

それが 異星人の指令かは 定かではない。

                           《終》

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