デベロッパーからアートコーディネーターへの道のり / 後藤 美沙
はじめまして。Stapleのビジネスデベロップメントチーム……社内通称「企画開発チーム」の後藤です。今日は2021年12月に開業したSOIL Nihonbashiのアートについてお話ししたいと思います。1FのParkletから毎日香ばしい匂いが香ってきて、ここはStapleの本社でもあるんですよ。
凄まじいモノ選びへの執着
そもそも私は、新卒で入社したデベロッパーの不動産投資部署に所属していた経験があり、アートと無縁な経歴から現在のキャリアをスタートしています。
服やプロダクトが大好きで、その好きが滲み出ていたのか、前職UDS在籍時に上司から「後藤さん、備品制作とアート選定をやってみない?」と、とあるホテル開発プロジェクトでお声がけいただいたのが、アートに関わるようになったきっかけです。
そこから、スタッフユニフォームやお客様のウェア、客室の備品、アートなどを選定する仕事が徐々に増えていきました。
私は設計士ではありません。より身近なお部屋の備品やアートなど、建築以外に空間を構成し、手に触れて家に持ち帰りたくなるような、「こんな素敵なものに囲まれた空間で暮らしたい!」と思わせるもので、空間価値・体験価値を上げたいと思っているんです。
1泊の滞在の記憶を一片でも形や記録として自分の普段の生活に持ち帰れるものって、部屋にあるバスタオルだったり、作家さんが作ったマグカップだったり、実は小さなものだったりします。体験から何年たっても「これはあの時にあの宿で買った○○さんの器」と、プロダクトに記憶が乗っかっていくのだと思っています。
建築はかっこいいのに、お部屋の備品がなんかダサい……あります、そういう施設。私はせっかく設計してもらった素敵な空間をダサくしたくないんですよね。美しくないのが許せないのです(笑)。なので、「細かいな!」とウザがられる程に、モノ選びへの執着が人の何倍もすさまじいです(笑)。
SOIL Nihonbashiの愛すべきアートたち
SOIL Nihonbashiは築38年のビルを一棟丸ごとStapleで借り上げ、コーポラティブオフィスとして運営しています。開業の段階でもコーポラティブにしたいと思い、2Fの会議室のカーテンは5Fにご入居されている老舗の「桂屋」という染物屋さんと一緒に手で染めたものです。
グラデーションにむらがあるのは手染めの証。肩まで覆えるゴム手袋をはめ、泣きそうに熱い60℃のお湯に手を突っ込み、汗だくになりながらカーテンを煮込んで、ピンクのグラデーションのカーテンは仕上げられています。まさに汗と涙の結晶です(笑)。
2Fのキャビネに置いてあるオブジェは福井守さんという兵庫の作家さんの作品。福井さんからはプロジェクトのために作品を作られるとき、「敷地内に何か使える木材が無いか?」と必ず聞かれます。作品のために木を切るのではなく、流木や誰かの庭に生えていた木など、一旦役目を終えた木たちを作品として蘇らせるのが福井さんスタイルなんです。
福井さんの制作活動はご近所でも有名なようで、近所の家や保育園で剪定された木が知らぬ間に家の前に置いてあるそうです(笑)。地域で資源が循環してアート作品になっていくスモールコミュニティ……素敵です。
紅色に染まったこの福井さんの作品も、実は不健康な木に生えるウメノキゴケという苔をアンモニアと反応させると紅色になり、その紅で梅ノ木を染めて作られたものです。昔は紅色や紫は高貴な色で、染料が貴重だったので、庶民がこういった自然にある苔を使って染色を始めたとか。
場所やプロダクトができるまでのプロセスを発信していきたい
アートでもホテルでも、企画者の楽しみでもあり難しいのは、こういったものが出来るまでの背景を第三者に伝えること。自分は全てのプロセスを見てきたので、開業時には「できたー!」と感無量になるのですが、それを目の当たりにしていない人達にそれをどう感じてもらうかのか? 企画が形になるまでのストーリーを伝えるべく、場所やプロダクトができるまでのプロセスを、完成前にも発信していけないのか?と企んでいる今日この頃であります。
Written by Misa Goto