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地方と都市の30年後の「ご近所」ってどうなるんだろう?

書き手:石川由佳子
アーバニスト / 一般社団法人for Cities共同代理事 / Dear Tree Project代表 / Meaningful City Magazine企画・編集

「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、神戸、アムステルダム、カイロ、ホーチミンなど複数都市で手がける。都市に関わるプロジェクトや実践者を収集するプラットフォーム「forcities.org」を通した国内外のアーバニストたちとのネットワーク構築や、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」や展覧会「for Cities Week」を東京・カイロ・ホーチミンなど国内外で実施。他にも、街路樹のデジタルマップを通じて、まちのみどりとの関係性を紡ぎ直すプラットフォーム「Dear Tree Project」を立ち上げ。意味から都市を考える活動体として「Meningful City Magazine」の企画・編集も行う。都市の中で、一番好きな瞬間は「帰り道」。「ご近所未来会議」では、全体の企画と編集を担当する。https://linktr.ee/YukakoIshikawa

「これからの30年を見据えた向こう3年、私たちは何をする?」

瀬戸田と日本橋に拠点を置く株式会社Stapleの岡さんより、そんな問いが投げかけられたのが今年の春ごろだった。創業してから4年半、彼らが心惹かれた地域で、SOIL Setodaをはじめ、心地よい多様性を迎え入れる「地域の入口」となる場を作ってきた。最初にホテルというグローバルに開かれた点をうち、そこから少しづつ、20分圏内に密度の高い多様性を作る、そんな新しいご近所のカタチを作ってきた。もちろん、地域によそ者が入ってくるというのは、さまざまな摩擦も生むし、外からくる移住者も、いちからコミュニティを築くというのはなかなか体力のいることだ。しかし、彼らの活動は人口減少し、閉じていく地方の現状の中で、新しい地方と都市の関係性を模索し希望を示してくれる力強い事例の一つに、確実になってきている。

関わる地域が、ずっと元気で多様性に溢れていてほしい。

シンプルに、彼らの活動の根幹にはこの願いがある。自分達が心惹かれた場所が、時代に合わせてそれぞれの形で唯一無二性をもち、エネルギー溢れる場所であり続けてほしいということ。すごく綺麗な言葉に聞こえるけれど、結構本気でそれを実現しようと、ものすごいスピードで動いている。その姿をみて、「何かを変えてくれるかも」と多くの人が彼らに惹かれるのにも納得がいく。そして、今日ここでお話する新しい活動も、そんな未来を本気で考え、実現するための一つのエンジンとなるものだ。

二項対立ではない、地方と都市のこれからの「ご近所」を考える

「ご近所未来会議」と称して始まったのが、Stapleが関わる土地のこれからの30年を見据えて、向こう3年何をしていくか、その思考の基盤を作るための会だ(発足の背景はコチラ)。会のメンバーとして、23年6月にStapleの新社外取締役に就任した梅田優祐さん、社外からボストン・コンサルティング・グループ元日本代表の御立尚資さん、コピーライターであり、株式会社2100共同創設者の澁江俊一さんを迎え入れ、対話の場がスタートした。早速7月に開催された第一回目のセッションも、時間軸が遡ったり未来にいったり、視点がミクロからマクロまでいったりきたりと、まるで思考の旅をするかのような時間が繰り広げられた。

いい塩梅の地域のバランスを考える

なかでも、第一回目のセッションのキーテーマとなっていたのが「いい塩梅の地域のバランスをどう捉えるか」ということだ。それを考える上で、御立氏からあがったのが「Urban / Local / Nature」の3つの軸で地域を捉え直すという視点だ。Urbanでは、都市のスモールコミュニティやネットワークなどを資源として捉え、Natureでは、Localの外側にある自然の恵みを資源として捉える。そこから、Localの適切で幸せなバランスを探れるのではないかということだ。そして、そこで重要になってくるのが「時間軸」をどう捉えるかということだと、議論は展開されていく。

10000年まで遡る!?ブラタモリモデルとは?

30年後を考える上で、まずこのチームで注目したのが「土地の根っこを知ること」だ。それは、その土地の地層・歴史など多層的に地域のリソースを読み解く必要性があるのではないかということ。つまり、3つの軸でいうNatureの部分を深堀ることから始めようという。ここでも御立氏のパンチラインがほと走る。「これはブラタモリモデルとも言えるかもしれない」と。「ブラタモリのように、その土地を地形や地層から出会い、文化まで読み取っていく、そんな根っこからの掘り起こしをやってみるのは面白いかもしれない」。そんな投げかけに全員がしっくりきた瞬間だった。未来を考える時、どうしても今の課題や将来の可能性に目がいきがちだが、地域の適切なインフラサイジングが求められる今だからこそ、その土地が本来持っている文脈と生かすべき資源をまずは捉えていこうという態度に、この回の最初の方向性が決まった。

今の19歳以下が、地元に帰りたくなる仕組みをどう作る?

次に注目したのが、都市と地方の流動をどう捉え直せるかということだ。メインの問いとなったのが、「地方をでて都市で育った人材がどう地元に戻ってくるか?」ということだ。つまり、19歳前後で学校や仕事の関係で地元を離れ都市にいった人材に、地元に戻るという選択肢をどうポジティブに作れるのかという視点。必ずしも地元に戻ることが全てではないし、私のように住む場所を転々としていて、地元がどこかわからない人ももちろんいる。しかし、確かに将来、都市で一定時期を過ごし、その後の人生の選択肢の一つとして、地方で暮らし生き生きと活動できる選択肢をどう作れるかは、とても重要な課題であろう。そして、それがこれまでのように、都市か地方かの二項対立ではないかたちで実現できる必要があるのかもしれない。

次は瀬戸田で!?

数時間では語り尽くせない議論が飛び交った第一回目の「ご近所未来会議」。Stapleの本質的なテーマである「地域の唯一無二性と多様性を高める」ための30年後を見据えた3年後のアクションを考えるためのヒントが、さまざまな視点から飛びかった時間だった。2ヶ月後となる次回は、舞台を瀬戸田にうつし、議論を深めてみようという提案も。テーマは、第一回目であがった「ブラタモリモデル」の話。土地の歴史から見た、生かすべきローカルの資源について皆さんとまた考えていこうと思う。