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【行政書士試験失敗記】12話 全部やろうとして全部できない

 これは短期合格を目指す人にとっては関係の無い話かもしれない。
 なぜなら短期合格を目指すならそれどころではないからだ。
 

 私の数ある失敗の1つに「全部やろうとする」というものがある。


 
 想定されている範囲のものをすべてやり切る。絶対に手を抜かない。
 
 これは最も初歩的で最も愚かしい失敗だったと思う。
 今の私なら言える。もっと肩の力を抜くべきだ。
 
 行政書士試験は300点満点中180点取ればいい試験だ。一般知識の足切りさえなければそれだけで合格できる。つまり全体の6割を獲得できれば合格だ。
 
 逆に言えば4割は不正解でもいい試験なのである。

 以前、医療系の資格試験ではその選択肢を選んだだけで一発不合格になるという「禁忌肢」なるものがあると聞いた。それに比べれば足切りがあるにせよ、4割間違えていいというのは気が楽だと思う。
 
 しかしその一方で、いくら間違えてもいいと言っても、行政書士試験の試験範囲は膨大だ。

 憲法が103条、民法が1050条。それに行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法の合計が150条(といっても条文の1つ1つがハイボリューム)、会社法が900条以上あり、これだけでなく、その条文に関係する判例の学習も当然必要。
 
 さらに厄介なのは一般知識についても勉強が必要なことにある。ただ、これはもう「一般知識」の話なので、国内の政治の話や国際問題から国語のような文章問題など多種多様な知識が要求される。
 
 主な対処法としては、ニュースを見る、ニュース検定の問題に取り組むなどがあるが、どれもふわっとしている。明確にこれを勉強したら合格できるというものが無いのだ。

 経験談として、私が受験した際には「ヒラリークリントンは女性初のアメリカ大統領になった」○か×か。なんて問題が出てきた。私は何か裏があるのではないかと試験会場で30秒ほど固まったのを覚えている。こっちは人生かかってやってるんだ。必死にもなる。
 
 そう、必死になる。必死になるからこそ、あれもこれも全部必要な気がして全部に手を出そうとひたすらに勉強する。
 
 その姿勢が悪いわけじゃない。ただ、行政書士試験に至っては膨大な条文の中から明確に「出るところ」「出ないところ」が分かれていたりする。
 
 例えば民法について、1,050条あるうち、出ないところはたくさんある。私もそれなりの期間勉強してきたが、有価証券の条文や、終身定期金の条文などを問われたことはなかったと記憶している。
 加えて言うのであれば、繰り返し、繰り返し問われるところも決まってたりする。
 
 全てをやろうとすると、どうしても知識の濃度が薄くなってしまい、真に問われる内容まで届かないことがある。民法を1周勉強するのにどれだけの時間がかかるか。人間とは忘れる生き物だ、1周が終わるころにはおそらく、中盤の内容くらいまではすっかり忘れてしまっているだろう。
 
 試験問題で問われる内容の深さに合う知識の深さが必要なのだ。それゆえに全部やろうとすると、全てが浅くなってしまい対応できない。そうなるとどうなるか、勉強時間は確保しているはずなのに、点数が伸びない。という状況に陥ってしまうのである。
 
 「これだけやってるのに点数が取れない! どうして!?」

 こう思うのは当然のことだし、そして辛いことだ。そうして思い悩んだ結果、あきらめてしまうという結果になりかねない。私はそうなりかけた。
 
 ここで「これだけやってるのに点数が取れない!」状態になっていた私が当時やっていた馬鹿な勉強法をご紹介したい。読者諸賢に至っては絶対にマネしないでいただきたい。
 
 マインドマップというものがある。一つの単語から色々と連想する主に会議や考え事を整理するために使われる手法だ。
 
 

マインドマップ(実際に作ったもの)


 
 1回目の試験に落ちた私は、自分の弱点を探るため、どこが苦手なのかを「全て」洗い出すことに必死だった。そして自分の弱点を分析し始めたのである。

 当時の私の実力を分析してみると、行政法はそこそこに点は取れた。憲法も得意だった。しかしながら、民法に関しては苦手だという自負があった。
 
 加えて私は記述問題にも苦戦していた。問題文を読み、どんなことが聞かれているかはわかるのだが、回答内容がどれも曖昧(知識が薄いのが原因)であるせいで、得点が伸びない。もっと正確な回答ができれば合格できるのに。

 記述問題は3問中2問は民法から出題される。1問20点の配点なので40点。これはかなり高い点数だ。
 
 そうか。民法か。私は民法が足りなかったのか。
 私は自身の弱点が民法であるとそう結論付けた。
 
 そうだ、民法を完璧にしよう。そうすれば間違いなく合格できる!
 
 そう考えた私は、なぜ民法が弱いのかをさらに分析することにした。民法は行政法や憲法に比べ、条文の数が圧倒的に多いことが特徴である。それら全ての知識を効率よくインプットする必要があるのだ。
 
 効率の良いインプットとして、1つの単語から連鎖的に記憶を想起するという方法がある。そこでマインドマップの登場だ。この学習法は主に暗記科目でよく扱われるのだ。

 どんな方法か。「織田信長」という単語から連想していくと「豊臣秀吉」「徳川家康」「本能寺の変」「ルイス・フロイス」「天下布武」「楽市楽座」なんてワードが数珠つなぎで浮かんでくる。織田信長と聞いただけでこれだけの単語が頭の中から浮かんでくる。
 
 そこで私は民法に関連する単語から様々な知識をつなげることができればいいのではないか? と考えた。
 私は参考書を一から読み始め、参考書に書かれている単語からマインドマップを作り上げていけばよいと考えた。
 
 その夏、私はひたすらに自分が持つiPadに参考書の単語を打ち込み、そこからさらに連想できる内容をマインドマップにひたすら打ち込んだ。
 
 参考書から重要なワードを抜き出し、その解説を参考書を参考にしながらツリーを伸ばしていく。

 途中で「あれ? これただ参考書をキーボードで入力してるだけじゃね?」という疑問もあったが、自分がインプットした内容を、そのままiPadに打ち込む=アウトプットすることで自然と覚えるだろ、という謎理論を展開し、そんな疑問を抑えつけた。
 
 作業に熱中し、私はひたすらにマインドマップを作り続けたのである。
 
 その結果、どうなったか。民法の全範囲が終わったころには夏が終わっていた。

 出来上がったマインドマップは参考書の内容そっくりそのままになってしまっていた。作業が膨大過ぎて、途中から作り上げることが主目的になってしまい、自分で考えることをしなかったからだろう。ただ文字を打ち込み続けただけになってしまったのだ。
 
 余裕があれば行政法、会社法もやっていこうと考えていたが、その量を見て断念したのは言うまでもない。このまま続けていたら、会社法が終わるころには試験は終わっていただろう。
 
 だが作業には膨大な時間がかかったし、その間もちゃんと民法の勉強にはなっていたはずである。少なくともインプットはちゃんとできたはずだと思い直し、意気揚々と模試を受けてみた。
 
 結果はというと、惨敗である。
 
 「あれだけやったのにどうして?」と頭を抱えたが、落ち着いて考えれば当然である。私は参考書の写本しかしていない。
 自分の知識になっていない、文字面だけのうっすい知識で戦っていたのだから。
 
 今の私から見ても、この勉強法事態の発想自体は悪くないとは思う。思うのだがあまり賢い勉強法とは言えない。
 
 時間というのはもちろん有限だ。そして有限であるからこそ私はその時間を有効に使わなければならなかった。
 
 夏が終わるその時までひたすらに文章を打ち続けては悦に浸っていた私。もしタイムマシンがあるのであれば肩を叩いてやりたい。もっと肩の力を抜けと。
 
 
 
 これは私の失敗記であるがゆえに、私の失敗をつらつらと書き連ねたものだ。この失敗には当然、私がどう対応したのかについて述べることもできるが、それはまた別の機会とさせてもらう。失敗に対する対応は人それぞれであり、それをここで語ってしまうと逆に混乱すると思うのでここでは割愛する。

 行政書士試験対策、というとその数は膨大な量になる。なぜなら試験範囲は示されているものだけで膨大な量になるし、さらにはどこから出るのかがわからないものもあるからだ。

 よく、試験関係のコミュニティで「試験範囲は全部やった方がいいか」などという質問を見かける。
 その質問に対する回答は決まっている「できることならやっておいた方がいい」だ。
 
 しかし、それが現実的に可能かどうかについては誰も語らない。それは各々でその試験に捧げられる時間や投資できる金額が違うから当然である。
 
 この話でも何度も出るが、大事なのは自分の状況を把握することである。そして間違った方向に行かないように注意することである。
 
 私のように闇雲に走り続け、走った先がゴールとは全然違う方向だったなんていうのは悲劇だ。今だからこそこうして笑い話にもできているようなものだが、当時の私からしてみればたまったものではなかった。辛かった。本当に嫌になった。
 
 読者諸賢におかれましては、自分の状況を理解し、わからなければ周りに聞き、自分が走っている状態を正しく理解した上で走り続けて欲しい。そうしなければ私のようにとんでもない時間をドブに捨てることになってしまう。
 
 残念ながら私にはそれができていなかった。だから失敗したのである。
 
 
 
 私はそれを全部やろうとした。だから失敗した。

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