見出し画像

ある日記「2024年8月の暮らし」

身の回りで起きたことや頭を駆け巡った考えを記します。少しずつ増えていきます。


2024年8月31日「祭りの後のマクドナルド」

 近所のアーケード商店街で祭りが開かれた。と言っても、神輿も盆踊りもなく、テキヤの屋台もない。商店街の組合が主催したことがプンプン伝わる祭りだ。それぞれの店が外に机を出したり、テントを張ったりして、お祭り限定メニューを販売していた。組合のママさんたちは、どこのメーカーかもどこで仕入れたのかも分からないおもちゃを売っていた。神社の祭りより、高校の文化祭に近い催しで、僕としては平和な喧騒が楽しめて嬉しい限りだった。
 前々から感じていたが、僕の住む地域は子供が多い。平日の夕方にマクドナルドに行けば、学校帰りの子供たちがはしゃぎ回っている。祭りともなれば地元キッズが大集結しないはずもなく、商店街があんまきのあんこよろしくテンションMAXキッズで埋め尽くされ、所々前に進めないくらいだった。
 シャッターを下ろした不動産屋の前で座り込んだご近所坊やが手に入れた電子銃をぶっ放し、プラカップの生ビール片手に焼き鳥を頬張る大人たちの頭を次々に撃ち抜いていた。大量殺戮ガンマンに目を奪われていた僕は、後ろを歩く幼稚園児にマインクラフトっぽいフォルムのビカビカ光る剣で背中を袈裟斬りされた。この街は命がいくらあっても足りやしない。
 雨のなか傘もささずに遊びまわる中学生男子の集団が、髪をびちょびちょに濡らし、光る蝶々のカチューシャを頭に付けて、当てもなく走っていた。祭りになると人は着飾りたくなるのだった。祭り以外のいつでもどこでも使えないようなアイテムをできるだけ目立つように身につけるのだ。それはディズニーランドで言えばミッキーの耳のカチューシャであり、リオのカーニバルで言えば羽付きのヘッドセットだろう。
 祭りを一通り見物したあと、ギャグを作りにマクドナルドに行った。座席を確保しに行くと、祭りの余韻を楽しみにきた子供たちでごった返していた。祭りがあるからと特別に夜遅くの外出を許可された子たちが、テーブルからテーブルへと飛び回っていた。男子が意味もなく階段をドタドタと駆け降りる音すらミュージックバリューだ。
 運良く二人席を陣取ると、隣には小学生女子四人組が座っていた。なぜ小学生だと分かったのかというと、祭りのテンションで話す四人の声量がドデカく、「日能研の塾メンの人たち嫌いなの私だけ?」という愚痴が耳に飛び込んできたからだ。
 ギャグ制作に集中したかったのだが、四人組の会話に僕の関心は吸い取られてしまった。あまりにもスムーズに始まって終わっていったワードウルフ、当然のようにハモる「いいよ」の相槌、折り紙のぱっくんちょをするかのように瞬時に組み変わる話し相手のペア。展開が早過ぎて追いつけなかった。
 しばらくすると四人組がザワつき始めた。どうやら向かいのテーブル席に人気の男性アイドルが座っているらしい。もっと近くで見たい、話しかけたい、応援してることを伝えたい、写真を撮りたいと四人の願望は膨らんでいった。
 すると、他の三人組が「アンタたちも気づいた?」と合流した。これは七人で突撃か、と思われたが、四人が作戦を練る一方で、三人はニヤニヤと静観の構えだっ。三人は帰る気がないくせに「私たちもう帰るけど」とか言って、四人に決定権と責任と勇気の所在を押し付けていた。
 そうこうしているうちに四人の心積りが決まった。その場で写真を撮ってしまうと騒ぎになる恐れがあるため外に連れ出すことにしたようだ。三人組は一度その場を離れるという大技を繰り出したあと、しれっと帰ってきていた。「いざ!」と誰が言うでもなく七人はアイドルに声をかけ、外に出て行った。それに気づいたいくつかのグループも外に行った。
 数分後、席に帰ってきた四人組は収穫有りの様子だった。「私、ツーショ撮った」「私も〜」とか「ちょっと触っちゃった」とか口々に言い合っていた。そして、アイドルがなかなか帰って来ないことに気づき、「もっと話せばよかった」とか「他の人たちは私たちのおかげで写真撮れたんだよ」とか、四人は先駆者の後悔を味わって、テンションを下降させていた。
 僕はこのままじゃ明日のライブがまずいことになると思い、マクドナルドを出た。

祭りと言えば焼きとうもろこし。ちなみに別日の写真。

ここから先は

6,449字 / 7画像

いっしょプラン

¥1,000 / 月
このメンバーシップの詳細

よろしければサポートお願いします。新書といっしょに暮らしていくために使わせていただきます。