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日本が安く買われている

 マックがやたらと高い。気付いたら値上げをしている。マックに限らず高くなってるのはわかってるんだけど「お手軽」の象徴みたいな店が高くなってるのは腹の底にズシンと来るものがある。食べても腹にたまらないのに。でもポテナゲだけは嘘みたいに安い。マックはポテナゲに自らの威信を全ベットしているのか。できたらTHEハンバーガーともいえるチーズバーガーを安くしてくれ。倍チーズバーガーがたまらなく好きなんだ。
 マックには都心型価格というものがある。都会のマックは高いのだ。人件費とか賃料とか色んな理由はあるだろうけど、つまるところ「都会の人間は高くても買う」のである。これがブランド品とかオシャレ家具とかなら「けっ!都会人ってやつは…」とくだをまいていればいい。しかし舞台は「マック」なのだ。いつでもどこでも同じものを提供する店が場所によって値段を変えている。日本とアメリカとかならまだしも都心かそれ以外かで区別している。こんなんめちゃくちゃ格差社会じゃん。見えない分断が進んでるじゃん。と、愕然とする。おのずとお母さんに冷たく突き放されたまる子みたいに顔に立て線が何本も入ってしまう。
 日本にだってお金持ちとそうじゃない人の差があることは何となくわかっていたつもりだった。良い私立の中学に通っていた妹がお金持ちの同級生たちに合わせて遊ぼうとしてお小遣いが枯渇し、母親と賃上げ闘争になったときに「ウチは貧乏だ!」と叫んでいたのを隣の部屋で聞いたこともある。そのときは「キミだって私立の中学に通わせてもらってるんだし考えが極端だよマイリルシスター」と理解あるヅラをしていたが、今思えば妹の方が正しかったのかもしれない。もしかするとお金持ちな日本人の方が世界的に見れば普通で、自分は普通だと思ってる日本人がちょい貧乏まで落ちぶれている可能性だってあるのだ。だってマックが都心型価格とか言い出しちゃってるし。

私も実際に日本の上場企業や大学で働く人々の給料の金額を聞くことがありますが、「まるでギリシャじゃないか」と驚いてしまうほどの低賃金です。

谷本真由美『激安ニッポン』より

 100円ショップって最高だ。何から何まで売っている。売り場にあるものだけで家でも建てられるんじゃないかと思う。客のニーズに答えまくる100円ショップは日本らしさすら感じられる業務形態だけど、元々はアメリカで生まれたものらしい。「ファイブ・アンド・ダイム」というすべての商品を5セントと10セントで売りさばくお店が19世紀末に誕生して、その歴史は始まったという。そういえばこの間ディズニーランドに行ったとき、トゥーンタウンに同じ名前の土産物屋を発見して「ここってやっぱアメリカなんだな」とちょっと感動した。さらにイギリスには「ポンドランド」という1ポンドで売りさばくお店もある。100円ショップって世界で通用する業務形態だってことだ。ただこの100円ショップ、欧米では出店に反対運動も起きるみたい。というのも安い店ってどうしても金銭的に余裕のない人向けで、中流階級以上の住宅地にそんな店ができると地域のイメージが悪くなり土地の値段が下がってしまうから。そんな100円ショップがいたるところにある日本ってどんな国になるんだろうか。
 まあそうはいっても安い方がいいに決まってる。安くてダメなものしかないなら困るけど、100円でとんでもなく高品質なものがたくさんある。しかも「ナニコレ?」って思う商品にだってこちらの想像つかない使い道があるのだ。例えばゴム製のヘビのおもちゃ。なんか悪趣味な遊び道具って冷たい視線を浴びる以外に、ベランダに侵入してきた鳩を追い払うという使い道があるらしい。というかむしろそっちの方で売れているという。鳩って平和の象徴のくせに一度縄張りだと認識したら仲間を引き連れて一帯を糞まみれにする。そんなケダモノを追い払えると考えると100円はすこぶる安い。安くて品質のいいモノに溢れてる日本は素晴らしい。
 しかし問題なのは、日本が安くて品質のいいものばかりであることに世界が気づいてしまったことなのだ。世界にとって日本は「安い」のではない。「嘘みたいに安ぃぃぃぃ!」のである。ここで車で高速に乗らないと行けないような遠くのアウトレットに初めて行ったときのことを思い出してみよう。いつもはショーケースを眺めるだけのきらびやかなブランドの品々が素人目にはわからない理由でガクンと値段が下げられていて、なんかバカみたいに買ってしまったはずだ。それと同じことがよりスケールを大きくして、さらにはもっと冷静に着実にガンガン行われている。こうしてる間にも日本は買われているのだ。
 例えば不動産。日本では基本的に外国人が不動産を売買するときの禁止事項がなく、日本人と同じように売り買いできる。他には土地。国の重要施設の周辺や離島を売り買いするときの法律がやっと数年前に出来始めたくらいだ。さらには医療。品質が高くて安い日本の医療を受けるために、日本の保険証を手に入れて外国人に渡す業者すら存在するらしい。そう、日本はかなり大切な資産まで買われているのだ。

 なんだか怖い話ばかり並べてしまって申し訳ない。この記事が危機感だけ煽るコンテンツになってしまったような気がしている。よく考えたら鳩の恐ろしさなんか書かなくてもよかったかもしれない。それでも日本を取り巻く現状への認識がバブル崩壊から30年分遅れているのは間違いないのだ。日本が安いという話をもっと知りたい方に『激安ニッポン』(谷本真由美、マガジンハウス)をおすすめさせてほしい。警告色の黄色が目立つ表紙の新書だ。



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