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向精神病薬を服用している人の授乳

【質問】向精神病薬を飲んでいる女性は母乳を上げるのはやめた方がいいですか?

【答え】ほとんどの薬の影響は少なく授乳をするメリットは大きく続けた方がよい。しかし影響はゼロではなく「やめた方がいいか?」と不安に思うのであればやめておいたほうが良い。


向精神病薬を服用している女性が母乳を上げるかどうかは難しい問題である。

抗精神病薬の母乳への影響

参考文献:第二世代抗精神病薬を内服中に授乳をする場合の乳児の薬物摂取量と影響について 吉永清宏ら 臨床精神薬理 20:67-68, 2017 

RID(relative infant dose)という概念がある。母乳を介して乳児が摂取する薬物量(mg/kg/日)÷母親の体重当たりの治療量(mg/kg/日)。簡単に言えば、体重当たりの投与量が母親の何%になるかである。

RIDが10%以下であれば暴露が少ない薬物と判断されることが多い。

それぞれの薬別のRIDは
オランザピン(ジプレキサ) 0-4.0% (症例数170)
クエチアピン(セロクエル) 0.02-0.43% (症例数14)
リスペリドン・パリペリドン(リスパダール・インヴェガ) 2.3-4.7% (症例数8)
アリピプラゾール(エビリファイ) 0.7-8.3% (症例数4)

アリピプラゾールの8%は他に比べるとちょっと高い感じがするもののいずれも結構低い。

母乳中の血中濃度が最大になるのは
オランザピン 4-8時間
クエチアピン 1-2時間
アリピプラゾール 2-4時間

オランザピンやアリピプラゾールは1日1回服用のため、母乳を最も飲む時間帯をずらして服用するといいかもしれない。特に夜しっかりと眠ってくれる乳児なら助かる。


長期的な使用による副作用

オランザピン以外はあまり調査されていない。

対象:母親がオランザピン(2.5-20㎎、平均7.4㎎)を服用した乳児102人。
期間:2日~13ヶ月(平均74日、中央値30日)
有害事象:15.6% 傾眠3.9%、刺激性亢進2%、振戦2%、不眠2%
Brunner E et al. BMC Pharmacol Toxicol 2013

対象:母親がオランザピンを服用中の乳児64人
有害事象:傾眠3例、体相当重増加不良2例、発達の遅れ3例(4.7%)
Klinger et al. Pediatr Endocrinol Rev 2013

発達の遅れが64人中3例(4.7%)報告されたことは結構気になる。またクロザピンで5人中1人無顆粒球症と極めて重大な副作用が出ている。それ以外は概ね似たような結果ながら、症例数がやや少なすぎる(クエチアピン23人、リスペリドン6人)。


ガイドライン

向精神薬(抗精神病薬や抗うつ薬など)の多くは授乳可能だが、授乳婦の自身の決定を尊重する
子どもの飲み具合、眠り方、機嫌、体重増加などに注意する
授乳婦の負担が大きく精神状態の悪化の可能性が高いときには中止を勧める
周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2017 CQ7(一部改変)

どうしてもガイドラインでは責任を取らされないように可能ではあるけれど十分に注意して、最終的には家族や主治医の責任でやってねと言う感じになる。

妊婦・授乳婦の薬 改訂2版では

乳児への影響を最小限にしたうえでできるだけ授乳を継続することが望ましい 。
大部分の薬物は授乳中に投与しても母乳への移行はわずかな量であり、有害ではないといわれている。乳児に移行する量は通常では母親に投与された薬物量の 1%以下である。


ガイドラインでもエビデンスでも、抗精神病薬を高用量を使っている人以外は授乳することは大きな問題はないと思われる。

しかし現実的には産婦人科・小児科の医師の反対もあり初乳はあげてもその後はミルクを中心にする人が多い。

もちろん母乳でなくても子どもは問題なく健やかに成長する。母乳をあげることで子どもに対する影響がほんのわずかでも増加するのは避けたいという家族の気持ちも理解できるため、授乳をしないという選択肢も十分ありえる。

そしてミルクにすることで、薬の影響がないという安心感が得られ、夜泣き時に家族が対応することで本人の睡眠が安定するというメリットは大きい。


【質問】向精神病薬を飲んでいる女性は母乳を上げるのはやめた方がいいですか?

【答え】ほとんどの薬の影響は少なく授乳をするメリットは大きく続けた方がよい。しかし影響はゼロではなく「やめた方がいいか?」と不安に思うのであればやめておいたほうが良い。

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