見出し画像

ブンゲイファイトクラブ一回戦Aグループ感想

・「青紙」竹花一乃

死へ赴くことを強要される「赤紙」とは対照的な、自ら生を選択する「青紙」の物語。非常に風刺的であると同時に、「自由」への批判が読み取れる。選択は幸福をもたらさず、そもそもハリボテに過ぎなかった。

・「浅田と下田」阿部2

男湯に入る女生徒浅田、家族の元から逃走する浅田の父親。「規範からの脱出」が描かれ、しかし彼らは、帰ることを強制される。脱出することを望まず、母親が嫌な顔をしないこと、浅田との約束を守ること、つまりは規範を守ろうとした主人公だけが、蒸発したまま戻ってこない。ここに一つの逆転がある。

・「新しい生活」十波一

短歌に関しては全くの無知なので多くを書くことは避ける。しかし、現代社会の人工的な部分と、感覚的、人間的な部分とがうまい具合に組み合わさっていて面白かった。自然と人間、という組み合わせを、昔の短歌によく見るが、本作では人工と人間、人工と自然、というのが随所にあり、現代的。なんてことを書いてみたが、わかる人からすればまるでなってない読み方だろう。

・「兄を守る」峯岸可弥

幻想的で、謎めいた物語。序盤から中盤にかけての童話的世界が、主人公の状況を抽象しているのだろうと思われた。しかし結末を見届けたなら、そこには主人公と兄の立場の、逆転が確認できるだろう。童話世界は主人公の、願望の反映なのだとわたしは思う。また、「逆転」という点に注目するなら、もう一つ、「臆病→勇猛」へと裏返るアラセリスは兄を象徴しているのか、あるいは主人公なのか、という問題が提示できる。正直、わからぬ。結末における主人公の、いわば兄化を踏まえるならば、どちらでも同じことなのかもしれないけれど。車輪的一作。

・「孵るの子」笛宮ヱリ子

失われていく生命の「もと」——意識することのないそれ——を可視化した作品。成長過程の肉体には「生」が充満すると同時に、やはり「死」も存在している。死から生へのありうべからざる転換が、「食事(生)→排出(死)」の一本道を、円として接続することで成立した。対立する二項が、さまざまな事物によって極めて美しく象徴される作品。

いただいたサポートは書籍購入費に使わせていただきます。