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ファーマ・マーケティングで目指すべき、『つながる』こと

今回は「つながる」というテーマで
マーケティングの双方向性についてお話しさせてください。

ここで有名な購買行動プロセスを見てみます。

購買行動プロセスは、デジタル技術の発達に伴って、大きな変化が起きました。
それは、特に消費財市場で顕著です。

従来の典型的な購買行動プロセスはAIDMA(アイドマ)ですよね。
このAIDMAでは最後がACTION、つまり購入でした。

これがデジタル技術の発達、
この場合、主にインターネットやソーシャルメディアの影響が大きいですが、
そうした技術が津々浦々に普及したことで、
AISAS(アイサス)となり、さらにUDSSAS(ウドサス)に変化しました。
これらが従来のAIDMAと最も異なる点は、
購入(ACTION)の後に共有(SHARE)が含まれる
ということです。

自分の購買行動を振り返ってみてもわかりますが、
何かを買おうかなと思うと、大抵は手にしたスマートフォンをググって
製品評価サイトを確認するという行為は当然な日常です。

そこでの評価が絶対的に信用はできないと判ってはいても、ユーザー評価が気になり、
いくつかのサイトをサーフィンするといった行動も、みなさん同様だと思います。

何気なく目にしていたSNSに、ある日知り合いが「これ、結構いい」
などと呟いていたりすると、とても気になるなんていうこともあります。

消費財や一般生活者向けサービスのマーケティングでは、
既に購買行動プロセス自体が壊れている、という話も聴きます。

つまり、認知→興味関心→欲求→記憶→購入などという順を追ったプロセスは存在せず、
誰もが自分の興味のままに、自分の気分に合わせて、都合の良いタイミングで、
空いている扉から入ってきて、気に入れば買う、
という様に、購入までのプロセスを整備することが無意味化しています。

AIDMAの時代に、商品やサービスの提供者が懸命に考えていたことは
自分たちの商品やサービスがいかに消費者にとって価値があるかを知ってもらい、
それを輝かしく感じてもらうメッセージや見せ方があるか、という事でした。

言ってみれば、商品や提供者が商品やサービスの価値を並べ立て、
「こんなに素晴らしいんですよ」と、自分勝手に一方的に発信していたに過ぎません。

でも、今ではその手法は全く通用せず、
一方的な情報は薄っぺらであればあるほど、消費者に見透かされ、
世の出た途端に、むしろ審美眼の超えた消費者の集中砲火を浴びることになります。

だから、消費財マーケティングではあまり無駄な抵抗をせずに、
自分たちが発信する情報はむしろ抑え気味にして
ユーザーによる評判の共有やつぶやきをフィーチャーする方向にあります。

それは、ユーザーの声が重要なことを
身にしみて経験し、理解しているからに違いありません。

顧客への情報の定着を望むことも、顧客からの信頼を得ることも
自分たちだけではできないことを知っているからこそ、やるべきこと。

それが、
ユーザーをエンゲージ(巻き込み)して、
体験や考え方を共有することです。

言い方を変えると、
一方向の「情報提供」
から
双方向の「ダイアローグ(対話)」へ
軸足を移すこと。

このことで、
自分たちの製品やサービスに対して
ポジティブなイメージを持ってもらい、
そのイメージをいろんな人にシェアしてもらうこと

これこそが、現在進行形のマーケティングです。

これはコロナになって
会えなくなった医師への情報提供も同じです。

顧客ニーズのない情報は、一方通行に提供してみても
空振りになる可能性が高いだけです。

いかに顧客をエンゲージするか。

エンゲージという言葉がなんだか魅惑的でありながら
わかりづらいですよね。
聴き慣れている言葉だと、エンゲージリング、婚約指輪が有名です。
もともと、巻き込む、引き込む、魅了する、などの意味合いですが、
どちらかと言うと、(お客様の嗜好に)寄り添う、思いやる、合わせる
といった意味が強い様に思います。

そうです、お客さまをじっと観察して、
いかにお客様に寄り添うか、お客様のニーズに噛み合うように工夫するか、
そうした双方向性が、
これからのマーケティングの真髄だと考えています。

みなさんの中で、GoProをお持ちの方もたくさんいらっしゃると思います。

ご存知の通り、
GoProは登山家やスキーヤー、ランナーなどのスポーツ愛好家が
アウトドア・アクティビティの時に経験する映像を連続撮影して、
YouTubeなどで共有することが流行したことで、
世界中で普及した携帯小型カメラです。

そのGoProが昨年のコロナ禍の影響で投稿が激減し、
製品売上への影響が出たときに実施したのが
#HomePro
キャンペーンでした。
アウトドアでの活動が制限されたことを逆手にとって
在宅時の投稿コンクールとしてGoProはこのキャンペーンを開始し、
応募された投稿映像の中から、
優秀賞を自社ウェブ上で発表することとしました。

実際にキャンペーンには多くの応募があり
受賞作には、実にユニークで奇想天外な発想の
見ていて楽しくなる作品が並びます

このキャンペーンが、結果として
製品売上の挽回に寄与したのかまではわかりません
でも、少なくとも従来のユーザーが
「これも暫く使えないな」と倉庫に眠らせることなく
「意外に家にいても使えるじゃん」と
発想の転換に一役買った(つまり利用機会減少は食い止めた)ことと
コロナ禍というネガティブな状態をポジティブな状態に変化させるという
逆手に取った発想を示したGoProというメーカーに対する
信頼感や愛着(ロイヤルティ)を生み出したことは
確かなのではないでしょうか。

まったく違うジャンルですが
K-POPがいま世界的に人気になっています。

少し前、BTSのDynamiteが全米ビルボードで一位をとり、
グラミー賞にもノミネートされました。
最近では、国連本部で撮影して世界中に配信されたビデオも有名ですね。

これらは「アジア勢初の快挙」と謳われ
日本人としては
「ピンクレディーとか聖子ちゃんもできなかったのに」(ふるいッ!!??…)
と言いたくもなる一方で、
エンターテインメントの世界でも
最近の日本と韓国の商品開発力同様の差を
見せつけられたようにも思えて来ます。

さて、果たしてK-POPで何が起きたのかは、
「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」を読むと
「なるほどな」と分かるので
ご興味のある方にはお勧めですが
とっても大雑把にサマってお伝えすれば
「ファンのエンゲージメントが鍵」
ということです。

AIDMAが崩壊して、UDSSASになった。
いかに消費者をエンゲージ(巻き込み)するかが、
いまどきのマーケティングの鍵
というお話を前回しましたが、
まさに、GoProの様な耐久消費財の世界でも
エンターテインメントの世界でも
同じ文脈で成功事例を見ることができるということです。

わたしたちの会社、トランサージュでは
患者さんのインサイトをSNS投稿を通じて俯瞰する
Patient Reader®というサービスを展開しています。

(インサイト、という言葉はさまざまな理解があります。ここではなかなあ具体的に表現しずらい本音、あるいは言い出しにくいけど本当はみんなと共有したいと思っている自分にとってとても大切なこと、といった意味合いで使っています)

アメリカやEUではSocial Researchという一般名称で
ヘルスケア・マーケティングでも積極的に活用されている手法です。

Patient Raeder®の最大のベネフィットの一つが
患者さんやそのご家族の本音を分析できる
ということにあります。

そんなもん、インタビュー調査をすれば分かるじゃないか・・・
というご意見もあると思いますが
「手法が全く違い、設問がない」ので「調査では見せない素顔や本音が見える」という特徴があります

「ヘルスケア・マーケティングは処方医が重要で患者の本音を知ったところで、あまり意味がない」というご意見も、多く聞きます

でも本当に最近、
ある製薬メーカーのメディカル・アフェアーズの方から
こんな話を聞きました

「KOLの先生に製品関連の話をしても聞いてくれないけど
患者さんの話には耳を貸してくれるんです」、と。

何をいわんや・・・

『医師』は『患者さんの治療をすること』が使命です

“医師の眼に入ってこない診察室以外での患者さんの行動”や
“医師の耳に入ってこない、患者さんの本音の疑問や悩み”
が、わかると先生にお伝えしたら、どうでしょう?

そんな話に関心を持たない医師はほとんど居ないのでは
ないでしょうか?

ヘルスケア・マーケティングの『顧客』は『医師』ですが、
医師の向こうにいる『消費者』は『患者さん』であり
患者さんの存在は、医師にとって絶大です。

製薬メーカーとして
顧客たる医師のニーズへの対応だけでなく
その向こうにいる消費者としての患者さんのことを
顧客である医師と一緒に見つめ、
患者さんのニーズへの解決策を考えるという姿勢こそが
多くの製薬企業が訴求している『ペイシェント・セントリック』ではないでしょうか

だからこそ、今どの企業でもペイシェントジャーニーを描いているのでないでしょうか。
わたしたちは、ペイシェントジャーニーで確認すべきことは
2つあるというお話をしています。

1つ目は、大事な顧客のひとりである患者さんの真の望みや悩み、ジレンマ
これらを総称してインサイトと言います。

そしてもう一つが、自分たちの商品の価値を感じてもらうために
顧客にとって欲しい行動と、現状の顧客の行動とのギャップ
つまり、期待行動と現状行動とのギャップです。

どちらもエンゲージのための大事なプロセスです。

これがわかることで、何ができるのか?
実は戦略構築にとって一番重要なポイントが、ここからわかるのです。
インサイトがわかれば解決してほしいことが判ってきます。
そして、他の商品にはできないけれど、
自分たちの商品でならそれを解決できる部分があれば、
それは鬼に金棒の強みになります。

これがバリュープロポジションの考え方です。

そしてもう一つ
もし自分の商品やサービスを使ってもらうためには、お客様に取ってもらいたい行動があるとしたら、それは何か。
これが期待行動で、現状のお客様の行動に照らし合わせて、行動変容してもらう必要があります。

例えば、新製品がiTunesなら、
現状行動はCDをそのままプレイヤーで聴くことで、
期待行動はCDをおのまま聞くのではなくiTunesにダウンロードしてもらうこと。
この行動の変化がなければiTunesは利用できませんでした。

ペイシェントジャーニーはそれだけでも大変面白い素材です。
また別の機会に詳しくお話ししたいと思います。

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