見出し画像

ゲノム分野でのブロックチェーン技術の利用

近年、ゲノム分野にブロックチェーンを利用しようとするスタートアップや機関が多く立ち上がってきており、仮想通貨ブロガーなどはそのICOを紹介していたりしています。

ただそういった記事の内容はビジネスモデルの紹介が多く、ゲノムとブロックチェーンの相性がどのくらいよいのか、そのプロジェクトにおける問題点、そしてそもそもなぜゲノム分野の人がこれほどまでにブロックチェーンに魅了されるのか、そういった点について発信している記事が見当たりません。
そのため、熱量が伝わっていないというか浮いている(伝える努力もしていない)印象があります。

本記事では上記した内容について、ゲノム分野の専門家でなくてもわかるようにゆるさと簡単さに注意しながらも、正確かつ丁寧に下調べした内容をお伝えできればと思います。

約5000文字の非常に長い内容になるのでお付き合いいただければ……

目次
・はじめに
・なぜバイオ科学者はブロックチェーンに惹かれるのか - 人間はいくつものチェーンでできている
・ブロックチェーンをゲノム分野にどう使うのか - ブロックチェーンはゲノム情報を応用する際に生じる問題を解決する

以下のものは有料とさせていただきます(目次でネタバレしてるけど……)
・考えられうる問題点 - コストとデータサイズとプライバシー
・残された問題 - 競合と詐称
・市場 - 先進国も後進国もまだまだブルーオーシャン
・さいごに, まとめ

はじめに

上のDNAの絵に違和感を覚える方はいらっしゃいますでしょうか?
たぶん、ほとんどの方がただのDNAだと思うでしょう。
しかし、このDNAは間違った形状をしています。

DNAは基本的に右巻き(時計回り)の二重らせん構造をしているのです。
上の絵では反時計回りになっています。
この基本的かつゲノム系やバイオ系であれば常識的な内容であっても、巷のブロガーやあまつさえ研究者ですら気付かずに使用していることがあります。というか、この間違ったDNAの図はバイオ系ブロガーで非常によく使われています。また反時計回りのDNAのイラストも非常によく使われています。
バイオ系と銘打っている人が注意を払わないのであれば、「いはんやイラストレーターをや」ですね。気付くわけがない。注意も払いません。

この例からもわかるようにゲノムやバイオに関係していない人がまさかゲノム分野に興味を持ったり、ましてやゲノムとブロックチェーンを組み合わせたプロジェクトに心惹かれ、そして調査するということは稀でしょう。

ただし、ゲノム系の科学者であれば、ブロックチェーンを知れば、それがいかに魅力的か、脳神経の結合を感じることは間違いないと思います。

この感動を共有することで、ゲノムやバイオに興味がなかった人も、ゲノムとブロックチェーンの相性の良さを感じることができると思います。

そこでまずは、なぜ私やゲノム系の科学者がゲノムとブロックチェーンの組み合わせに惹かれるのか、述べていきます。

なぜバイオ科学者はブロックチェーンに惹かれるのか - 人間はいくつもの『鎖』でできている

DNA(核酸)は「生命の設計図」と呼ばれています。
それはDNAはあらゆる生命活動に関与しているからです。
例えばDNAや生命自体の複製、栄養やエネルギーの代謝、またそれらの詳細なメカニズムにも関与しています。

DNAはA, C, G, Tと省略して書ける4つの分子からできており、これら4つの分子がヒトでは約30億個が繋がってまるで1つの鎖のようになって1つの巨大なDNAを形成します。(*覚えなくてもいいです→A:デオキシアデノシン, C:デオキシシチジン, G:デオキシグアノシン, T:チミジン, これら4つの分子はヌクレオチドと呼ばれます。)

このDNAは親から子へ受け継がれる情報、遺伝子を保存しています。
そして遺伝子はタンパク質の情報を記録しています。
タンパク質は生命機能を担ったり、タンパク質自身やDNAの合成を制御したりしています。
タンパク質はアミノ酸が一本の鎖のように規則的に結合している分子です。

したがって、人間を含む全ての生物は『』で構成されています。
さらにその『』は生命の情報を記録しています。
そして最近話題の情報を記録する『』であるブロックチェーン
この繋がりは、不思議と無関係に思えず、なにか革新的な発展の予感を覚えます。

だからこそバイオ系、特にゲノム系の科学者がブロックチェーンに心惹かれるのは当然といえるでしょう。

ブロックチェーンをゲノム分野にどう使うのか - ブロックチェーンはゲノム情報を応用する際に生じる問題を解決する

現在、ゲノム情報の応用に関する問題を解決するためにブロックチェーンを使用する多くのスタートアップが世界中で立ち上がっています。

その中身は大体同じようなもので、以下の3つの計画を検討しています。

1. ゲノム情報を個人の健康情報と組み合わせる

2. ブロックチェーンを使用して、第三者による不正な使用や改ざんを防ぎつつ、研究者、製薬会社、医師に使用許可を与える

3. ゲノムの利用に対するインセンティブの提供

彼らの問題意識とはどういったものでしょうか?
まずはゲノムの持つ特性から述べ、その特性ゆえの問題点と現状のゲノム利用における問題の順で述べていきます。

ゲノムは、祖先、遺伝的/非遺伝的な疾患リスク、健康状態、身元情報など、ほとんどすべての情報を保存しています。
したがって、ゲノムを分析することによって、自分が誰であるかだけでなく、何で出来ているのか、どういう病的リスクを持っているのか(現在・過去・未来)まで明らかにされます。
ただし、ゲノムを解析しても現在の健康状態、病歴、投薬歴まではわかりません。

例. 太りやすい遺伝子を持っていることはわかるが、今太っているかはわからない

これらの医療的な情報とゲノム情報をを組み合わせることで、「精密医学(precision medicine)」と呼ばれる、個々のゲノム=遺伝学上の身体的な特性に基づく医薬品の処方や研究開発が行えると期待されています。

ただし、多くの情報がゲノム解析によって明らかにされてしまうので、ゲノム情報の使用および保存には細心の注意が必要です。
また同様に、個人の健康状態や病歴などの情報の使用と保管にも細心の注意を払う必要があります。

現在の情報の保管方法は、ゲノムを解析したり健康診断を受けた機関や企業によって集中的に管理されています。
そのためサイバー攻撃の影響を受けやすい点、企業や機関ごとに情報が断片化されている点、またゲノム情報提供者にインセンティブ(利益)がないことが指摘されています。

したがって、これらのデータの不正改ざんや漏えいに対して安全なブロックチェーン技術の使用、およびゲノム情報提供者にインセンティブを与えるトークンを用いた経済圏の確立が検討されています。

ここから先は

4,752字 / 7画像

¥ 350

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?