NM効用の連続性の話
Dillenberger and Krishna (2014)という論文を読んだ。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304406814000044
ていうかさっきまで2013だと思ってたけどこのリンクだと2014やないかーい!あとこいつら度胸あるな……この文脈でGrandmont (1972)に言及しないのってアリなんだ……と改めて思った。
それはさておき、この序文を見るとこういうことが書かれている。まず、NM効用を考えるときには、単純くじ(つまり、台が有限集合の確率測度)の空間に限定するか、有界性を仮定するかのどちらかを選択しなければならない。けれども我々が扱う典型的な期待効用関数(たとえばCARA型)は有界ではないし、一方で我々が扱う典型的な確率分布(たとえば正規分布)の台は有限ではないので、どちらも期待外れである。そこで、増大条件を導入することで、正規分布みたいな分布を扱いつつ有界性を外せるようにしました……というのが、だいたい要旨である。
ここで、なんで連続性の話が序文に出てきているのかについての説明がないのが正直わからないのだが、基本的にこの文脈で扱っているのは連続な期待効用である。そこで連続なNM効用の存在定理について考えてみると、上に挙げたGrandmont (1972)に行き当たる。ぶっちゃけ上の論文、どう見てもグランモンの証明のパクリなんだけど、なんで引用してないんだろうな?
てことでグランモンの論文から。これは確率測度全体で定義された期待効用関数が連続に取れるための条件を探ったものだ。いまくじの上の順序が与えられているとき、それが独立性を満たしつつ、弱*位相で閉であるならばうまくいく、というのが彼の解答だった。理由はというと、X(これは可分な完備距離空間と仮定される)上の有界連続関数の空間の双対空間はラドン測度の空間である(リース=マルコフ=角谷の表現定理)から、それは確率測度の空間を含む。Herstein and Milnor (1953)の定理から、上の順序には凸結合に関して同型な効用関数が存在する。それをU(P)と書くと、ジョルダン分解の定理を用いて容易にこのUは一意的にラドン測度全体の上の線形汎関数に拡張できる。そしてこのUは弱*位相について連続であることが示せるので、双対性から、有界連続関数uが存在して、任意の確率測度Pに対してU(P)はuのPによる期待値で書かれていなければならない。こういう証明である。
つまり、リース=マルコフ=角谷の定理を扱っているために、不可避的にuの有界性が導出されるというのがグランモンの結果である。だけど上のDillemberger-Krishna論文は、この有界性がよくないからなんとかしたいという話で、そこで彼らはg(x)という1以上を常に取る関数を導入する。そしてW_g(X)を、|u|/g(x)が有界な連続関数uの集合として定義する。簡単に言うと、gより早く発散しないuの集合がW_g(X)だ。これについてリース=マルコフ=角谷に近い表現定理を証明して、それを適用することで同じ証明で、期待効用関数uをW_g(X)の中から取るというのが彼らの発想である。
彼らの関心が有界性の除去にあったから、連続性については序論でほぼ触れられていない。けれど、彼らの証明は連続性を自動的に導出するし、逆に言うと連続性は必要ないはずなのに導出されてしまう。これはけっこう不可解である。有界性の除去だけなら他の方法もあったのでは? と思うのだが、僕の場合は有界性より連続性に興味があるのでこの話はここまで。
で、連続性を議論する際に、なんでグランモンの証明を踏襲しなければならないのかが僕にはよくわからない、という話だった。そもそも連続性の証明に表現定理、いらんだろう。もっと原始的に出せるのでは?
具体的に言うと、Xがハウスドルフ位相空間だとする。可分性とか、完備性とかはいらない。こんなに仮定が少ないと、この空間上の連続有界関数の空間の双対空間がなにになるのかはまるで知られていないが、しかし少なくとも単純くじの空間(あるいは、コンパクト台の確率測度の空間)は双対空間に等長に埋め込める。したがって弱*位相は定義できる。そして、順序が弱*閉であるとすれば、普通にnetの収束を通じてuの連続性が出せる。
問題はこの場合でも有界性が出てしまうことなのだが、これは補正できる。つまり、順序が弱*閉であることを仮定する代わりに、次のような列(X_n)の存在を仮定する。第一に、X_nはXの閉部分集合である。第二に、X_nはX_{n+1}の内部に含まれる。第三に、XはX_nの合併と一致する。第四に、X_nに台が含まれる確率測度に限定すると、順序は弱*閉になる。この条件が、実は順序を表現する期待効用関数uの連続性と必要十分であることを示すのは、かなり簡単である。
もちろん、uが正規分布に対して期待値を取れる関数かどうかはわからない。わからないが、uは少なくともコンパクト台を持つ確率測度の空間上では正アフィン変換を除いて一意的に定まっているため、このuについて正規分布が期待値を持たないなら、それはもう正規分布を使うべきではないモデルだということである。逆に正規分布を含む形に議論を拡張できるならば、その場合にはuは正規分布についても期待値を持っていなければならない。というわけで、これだけで議論は済んでしまう。
……なんでこれ、誰も論文にしてないんだろうな? 僕が調べた限りマジで誰もやってないんだけど。
ということで、J. Math. Econ.の50周年記念号がそろそろ〆切なので、このネタを試しにたたき込んでみようかと思います。以上。