新しい論文が出ました

 はい、タイトルの通りです。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304406824000028?via%3Dihub

 なんかいい感じにリンクが出てこないんだけど、まあ仕方ないか。
 この論文は、連続時間のマクロ経済モデルで使われているHJB方程式がいかに危ういものであるかというのを説明したものです。
 具体的に言うと、元となる最大化問題に対して、価値関数がHJB方程式を解くし、逆にHJB方程式の解は価値関数だと思われている。んだけど、普通の確率を含まない最適成長モデルの範疇で簡単に反例が作れます、というのが第一の結果。この反例では価値関数は有限値の凹関数になるのだけれど、HJB方程式の解は無限個あって、そのどれもが凹関数ではないというわけです。
 で、なんでこんなことが起こったのかというのを説明しているのが次で、つまり価値関数がHJB方程式と関係を持つことの従来型の証明はテイラー展開の誤差評価が雑すぎて間違っている、というわけです。この雑さは、問題に解があればなくなるように思えるので、実際やってみると、確かに問題に解があるときには価値関数はHJB方程式の解の一つだということが示せます。これが第二の結果。
 次に、今度は逆も言えるという話をする。つまり、価値関数がHJB方程式を解くということを仮定すると、そこから元の問題の解が構築できる。ついでに言うとこの結果で使った仮定を使うだけで、HJB方程式の解は価値関数しかないということが示せる。よって、だいたいの問題は解の存在を前提とすれば解決する。逆に言うと、さっきの反例は元となるモデルに解がなかったから起こったということでした。

 で、ここまでは単に出した結果の整理。ここからがこの結果の評価になります。
 ぶっちゃけ、僕は上で出した定理をまったく評価してません。なぜかというと、HJB方程式はもともと、元となっている問題が難しすぎて解けない問題だから、問題を分析するための代替的手法として使われるようになったものだからです。
 だから、HJB方程式を適切に使うためには元問題に解が存在している必要があるというのは、これはもうめちゃくちゃなハンディキャップになるわけで、つまり、少なくとも解の存在を示すのにHJB方程式は使えない。循環論法になるから。そして解の存在が示せた後でHJB方程式は……もしかしたら計算とかには使えるのかもしれないけど、大抵の場合はこういうモデルでは解の存在が示せたときにその解は(オイラー方程式の解とかで)計算できてるから、もういらないのでは? という。
 それから、上の結果を出したのは全部確率項がないモデル、しかも成長モデル限定で、このタイプのモデルがたぶんHJB方程式が一番簡単になるわけです。だとすると、もっと難しい問題ではこれどう使うの? となるわけですね。
 総じて出した結果は、マクロモデルでHJB方程式を使う数学的根拠が現状ものすごく脆弱であること、適切に使うことが難しいことを示した、ということになります。あんまり役に立たない結果だと思いますが、こういうのが好きな人はご一読いただけたらと。

 ……実は校正で一箇所、直し損ねたところがあるので若干恥ずかしいんだけど。積分区間が0から1までのところが一箇所、0からtまでになっているので、そこだけ注意してください。定理2の証明です。
 今回はここまで。

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