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ポケットモンスターSV DLC「ゼロの秘宝 前編・碧の仮面」から考える主人公論

※ほぼ感情に任せたまま書き散らかした乱文なので、そこらへんをご留意いただいたうえで読んでいただきたい。
※また、ネタバレ注意です。

ポケットモンスターSVのDLC第一弾をプレイして、とても感情を掻き乱された。
というのも、あまりに筆者の好みすぎるキャラクターが描かれていたのだ。
「スグリ」という登場人物である。

キタカミの里――と呼ばれる、おそらくは東北をモチーフとした日本の田舎町を彷彿とさせる、のどかな場所で生まれ育った少年だ。
彼のルーツは古い伝承の職人まで遡り、「鬼」と密接に関わる、由緒正しい(?)一族である。その出自ゆえか、あるいは本人の性か、「オーガポン」と呼ばれるポケモンに強い執着心を持っている――と思われるかもしれないが、彼が執着しているのは「強さ」であると、筆者は解釈している。

というのも、彼は、「正しくて強くて心優しくて、万人に好かれるような人物じゃないけど、真っ当な姉(ゼイユというキャラクターの簡易的な紹介)」に抑圧されてきた少年だ。
姉弟は似るものである。筆者は遺伝子論者じゃないし、生育環境で人間の100%が決まるなどとは考えていないが、やはり、その趣味趣向や生き方にある程度の共通点は出てくるものだ。
では、ゼイユとスグリの共通点は何なのだろう。
それは、「激情家」の一面にあると思っている。

ゼイユもスグリも、その若さゆえか、己の感情の制御を見失っているふしがある。
そして、この姉弟は対照的だ。
ゼイユは一見、排他的で攻撃的だが、ポケモンに同情して行動したり、他者の為に悪役を買ったり、弟を想って嘘つくなど、姉御肌な部分が多い。とてもリアルな感触の気の強い女性を彷彿とさせるだろう。筆者の姉も、とても噛み砕いて言えば、このような人物像をしている。実際、ゲームをプレイしていて、色々思い出す場面が多かった。
スグリはとても気弱そうに見える。おどおとどしていて、悲観的だ。然し、突拍子もない行動に出たり、何処かドライだったり、時に感情にまかせて行動したり、何処か年相応に不安定な部分が多い。そして、とても印象的だったのが、「強さ」に対する熱烈なアプローチの多さだ。

ポケモンSVの主人公――ハルト/アオイの内面は、謎に満ちている。当たり前だ。「プレイヤーが感情移入するべき人物」なのだから、一般的なRPGでいえば、多少のバックボーンは兎も角、その人物像が語れる事はあまりない。
だが、ストーリーの端々で、彼/彼女の活躍は勿論、観測できる。
端的に言えば、この主人公は心優しい人物だ。誰にでも手を差し出せる、「友達」の具現化のような印象を持つかもしれない。

あるポケモンがいた。縄張りを追い出され、違う時代に迷い込み、傷付き、行き場のない――今にも死んでしまいそうなポケモン。ハルト/アオイは、このポケモンに「食べ物」を差し出し、ともに冒険の旅に出て、その傷の塞ぎ方を探すための、「宝探し」に出掛けた。
ある少女がいた。最強、天才と称されるような、ポケモンバトルの猛者だ。恵まれた出自に、与えられた環境の良さ。でも、彼女には並びたってくれる人がいない。誰もが少女のもとから去ってしまう。ハルト/アオイは彼女の「お願い」を承諾し、彼女と並び立てる場所まで向かい、そして、少女を負かせてみせた。その瞬間は、掛け替えのない高揚感に満ちていただろう。
ある少年がいた。両親から半ば見捨てられたと思い、そして、大事なポケモンも病におかされ、必死に必死に生きている。ぎりぎり、社交性を保てているといっても差し支えないレベルの、危険な状態の少年だ。ハルト/アオイは巻き込まれただけなのかもしれない。でも、最後まで主人公は少年の物語を見届けた。
ある人物がいた。途轍もない過去をひとりで抱え、みんなの為に悪役になり、全てを一身に受けて終わらせようとしている、友達思いの人物だ。ハルト/アオイは関係者になってしまっただけだ。でも、その顛末を見届けたあとも変わらず――むしろ、引き受けたからこそ、その人物の「関係者」であり続けている。

SVの本筋の物語は、あるいは3人と1匹の主人公と、それに巻き込まれたひとりの観測者の物語とも言えるだろう。
これらのストーリーラインにおいて、ハルト/アオイの際立っている部分は、「バトルの腕とその成長速度」「変わったポケモンを連れている」「おひとよし」「変わり者」ぐらいだろう。
見ようによっては、「巻き込まれ系」とも言えるキャラクター像をしている。
然し、「スグリ」の登場によって、その「主人公性」がより際立っていくのだ。

「スグリ」の話に戻ろう。
彼は、とても強さに執着している。
理由はまだゲーム内では明かされていないので、筆者の勝手な解釈を書き散らしていこう。これで外れていたら赤っ恥だ。
端的に言えば、ゼイユによる抑圧とコントロールのせいだろう。
彼の本性とも言える部分は、先程も言った通り、ゼイユにとてもよく似ている。とても感情的な人間だ。
然し、それがストーリー内では歪んだ形で露呈していく。
本来は、スグリはとても活発な少年なのだと予想される。「カッコいいもの」が好きで、「多対一で戦う鬼」に憧れる少年だ。これは、我々にもあった体験なのではないだろうか?
少年漫画や特撮番組の、「孤高のキャラクター」に惹かれた人は少なくないはずだ。
彼はちょっとだけ捻くれているに過ぎない。
然し、その捻くれが歪んだ形で露呈していき、そして感情が次第に強く強く肥大化していく。
彼は共感力が少し欠けており、自分本位に動いてしまう。
彼は対人コミュニケーションの上手なやり方を知らない。
彼は欲しいものが手に入らない時の、感情の対処法を知らない。
彼は諦め方を知らない。だけど、彼は賢い。彼は、自分が特別ではない事をよく知っている。だから、彼は強くなりたい。
でも、彼はおそらく、正しい努力を知らない。

この内面の歪みの一端を担っているのは、「強い姉」こと「ゼイユ」だろう。作中で、学校内の人間関係をゼイユにコントロールされているような描写が多少挟まれている。
善意だろうが、ゼイユに人間関係まで掌握されているのだ。
思春期の不安定な時期の少年は、この姉に反発したがるだろう。
だって、スグリにとってゼイユは、「いじめっ子」でしかないのだから。
でも、スグリだって分かっている。ゼイユが悪い人物ではない事ぐらい。ゼイユが主人公の為にお面を探してくれているところを、一番近くで見ていたはずなのだから。「憎まれ役を買っている」とは、スグリのゼイユ評だったはずだ。
だからこそ、スグリはどうしようもない。
そもそも、この姉弟は「善悪」では測れないという事を留意していただきたい。どちらかというと、「好きか、嫌いか」の話になってくる。
筆者はふたりとも好きだ。

さて、作中においてアオイ/ハルトはスグリにとっての、「強さの象徴」のひとつになっていく。あるいは、「憧れた特別性の具現化」だ。
外の学園から来た、凄腕のトレーナー。
都会の暮らしを知り、誰も知らないような「カッコいいポケモン」を連れている。
……そして、最終的には、自分が恋焦がれて手に入らなかった、「鬼のポケモン」――「オーガポン」の相棒となって、目の前で捕まえてしまう。

SVの主人公――アオイ/ハルトは、「救い手」ともいえるキャラクター性をしている。本筋では、別々の物語の「主人公たち」に関わり、彼らを手助けしてきた。
だけど、スグリは、前編では今のところ、「救えていない」。
明確に、彼の物語はバッドエンドで終わり――最終的に、闇堕ちしているかのような描写が挟まり、「後編に続く」と締め括られる。

だけど、筆者はDLC前編をプレイしている時、「スグリ」に目を奪われて仕方なかった。筆者は「アウトサイダー」の物語が好きだ。やれ、「トレインスポッティング」だの、「タクシードライバー」だの、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」だの、はたまた、「ファイト・クラブ」だの。そういうものが好きなのは否めない。
だけど、「スグリ」は、そういうのではない。彼は多感な時期の、繊細で孤独な、「特別になりたい」少年だ。
彼が救われる時があるのだろうか。後編での彼の活躍に期待している。
彼が笑顔でポケモンバトルができ、「自分の物語の主人公」になれる瞬間を期待している。

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