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矢守克也『防災心理学入門』読書メモ

この本は、防災について心理学の切り口で考えてみたという本。
このnoteは、その断片的な抜粋と所感をメモしたものです。

  1. 人間をして、不確実な事象を確実でリアルなものとして認識させるトリガーは、その事象の機能的代替物のリアリティを示すことである。
    すなわち、時間ちがい、場所ちがいの類似物の現実を示すこと。

    この話は、南海トラフ地震による被害という不確実な事象をどうやって認識できるのか、と関連する。

    このような不確実な事象の認識の例は、時間については、3.11の津波が防潮堤を超えたという事実が迫真的に感じる時にあたるだろう。
    場所については、地震発生後に、地震保険契約数が急増する。これは、現在進行形で災害が別の場所を襲っていることで、より多くの人々が不確実な事象への認識をしているのだと考えられる。

    p.39

2.科学的方法に基づく確率値を用いた説得は、この機能的代替物よりも、説得の効果が低くなりがち。例えば、南海トラフ地震の30年以内の発生確率は70~80%である。これを直近一週間以内に地震が発生する確率に換算すると、千回に1回となる。比喩的にいうと、1000本に1本だけアタリが入っているくじを引くようなものである。しかし、この説明の仕方は災害が起きることを説得できるだろうか?このような確率値は科学に依拠している点で確かでも、情報に描かれた中身は不確実な物語に見えがちである。その結果、スルーされがち。

3.防災のためには何が大切か?想定外を無くすことももちろん大事だ。しかし、想定内だが対策がされていない例も実際に多々ある。例えば、大阪府北部地震(2018年)では、今までの災害で指摘されてきた課題が再現されたのだ。エレベーターへの閉じ込め、老朽化した住宅の耐震性、家具固定の重要性、SNS上のデマ。このようなknown-but-untouched(既知だけど放置)の課題に対応することも重要である。p.52

4.災害の想定内と想定外
未来に起きる災害については、これまでの様相(筆者は顔と呼ぶ)を学ぶと同時に、次の顔についての想像をすることが必要である。これは、三大震災から引き出された教訓である。三大震災とは、関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災である。これらの震災ごとに主要な死者の死因は異なる。関東大震災は火災。阪神・淡路大震災は建物の倒壊。東日本大震災は津波。(順番に、死因の約9割が地震後の火災/約8割が圧死・窒息死/約9割が溺死)。
さらに熊本地震では、これらと異なり災害関連死が全体の8割以上だった。このように、震災の様相は、発生時の社会や天候などの複合的なファクターによる変わる。しかもこのファクターは偶然によって揺らぐ。例えば、阪神淡路大震災の発生日は風が弱かった。そのため火災の煙はほぼ真上に上がっていた。しかし、もしも風が強かったらどうなっていただろうか?だから、未来の災害のシナリオを考えるには、過去の震災の様相を参照するだけでなく、新たな想像も重要なのである。p.54

5.逃げトレ
津波避難訓練のためのツールとして「逃げトレ」というアプリがある。
津波避難においては、どのように逃げるのかを当事者、つまり自力で考えることが必要である。誰かにゆっくり教えてもらう暇はないかもしれない。そのため、避難訓練において、自力で考えられるような力を養う必要がある。そのため、このアプリでは自力で考え、試し、検証することができるように設計されている。 p.77

6.何とかバイアスで分かった気にならない
正常性バイアス、などXXバイアス、XX感、XX効果という概念によって心理的理解をしようとする場合がある。だが、このような「心理的理解」は完全なトートロジーである(よくある小泉進次郎構文)。重要なのは、このような「心理的理解」は何の説明にもなっていないのに、どういう訳か理解できたという感覚をもたらすことだ。この現象の説明の筆頭は、モスコビッシの社会的表象理論である。これによる、人間にとっての恐怖の一要因はある対象が十分に言語化できない何か"something in the world"という状態にあることだという。そして、それに対し言葉を充当することで、ひとまず安心を得られるそうだ。
(なぜ言葉を充当すると安心に効果とは不思議なものだ。) p.111

7.トートロジーの説明から来る安心感の落とし穴
先の「心理的説明」は論理的にはトートロジーである。つまり、それによって情報量は増えない。だから、直面する課題を解消することにつながらない。重要なのは、この浅い理解によって、深い理解が阻まれ、偽の課題解決によって、新の課題解決が妨げられうるということだ。安心感を得るという利益が、結果として課題は放置されたままとなるという負の効果をもたらしうる。

8.Afterコロナ、Withコロナ、Beforeコロナーそして今はBefore X
現在いは、まだ知りえない何か(X)に対するBefore Xに相当するはずだ。2020年以来の新型コロナウィルスの蔓延から学ぶとは、本来「Before コロナ」において私たちが何をし損ねたのか、何をどう見誤ったのか、を問い直すことである。その作業によって、現在潜在している次の脅威 Xに対して備え、同じ過ちを繰り返すことを防ぐだろう。

所感

読むしんどさを排除するように章立てやページのデザインがされていると感じた。ここに力を入れるのは、防災情報において、情報発信の時に受け手にちゃんと受け取ってもらえることを意識することが多いのと関連しているのかと想像した。

防災について心理学の観点から考えることはなかった。防災について知ることは多くの日本人に重要である。実際にどのようにアクションすべきか、は書かれていなかったが、防災意識を高めるとはどういうことか、は学べた。防災を進めるモチベーションは上がったかも。






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